最終話「DD7始動 そして若者は宇宙を目指す」

 それから数日後、惑星ロンギュスを飛び立つ巡洋艦が数隻あった。

「僕はまた、その場でカタキをうつかと思ったけれど……」

 シンゴが不思議そうな顔をして言った。

 ミューズ巡洋艦のゲストルームである。今はノアたちの他にナオト、そしてレナンド・ガリーも琥珀色のソファに座ってくつろいでいた。

「ある意味、一番残酷な刑かもしれぬぞ」

 シンゴの言葉にノアが答えるよりはやく、ガリーが口を開いた。

「計算によれば一年もたたぬうちにロンギュスは太陽に飲み込まれるはずだからだ」

「そのことはトップラスは知っているのですか?」

 シンゴの問いにうなずくガリー。

「熟知しているはずだ。あの惑星のデータを本星に持ちかえっていたのは、ほかならぬ奴自身だったからな」

「うわぁー。そりゃ怖いよな。今日飲み込まれるか、あした飲み込まれるか、毎日ビクビクして生きなきゃならないなんて……」

 それを聞いたタカオが身を震わせた。

「それくらい当然のことよ」

 ノアは言い切る。

「あいつは、あたしの父を無情にも殺したのよ。しかもまったく抵抗しない者を」

 彼女の目がギラギラとぎらつく。

「しかし、ノアもよく考えついたな。あんなこと。ひと思いに殺してしまうということは考えなかったのか?」

 ノアの隣に座っていたヨリがそう言った。

「さすがのあたしも無抵抗の人間を殺すなんてできないわ」

 彼の疑問に肩をすくめて答えるノア。

「でもそれが正常な人間ってものでしょ。それをあのトップラスはしてのけたのよね。確かに、あたしがあいつに与えた刑は残酷かもしれない。だって、あいつの乗ってきた艦だけでなく、ロンギュスにあったすべての艦をあそこから撤退させ、通信システムもまったく使えないようにし、本星に救援を呼ばせないようにしたんですからね。だけどまあ、とりあえず食料はそのまま残したんだから、それがせめてもの情けと思ってもらいたいわ」

 それから彼女はニヤリと笑う。

「あいつの部下も一緒にあの惑星に放り投げてやったもんね。自業自得よ。聞けばもともとガリー総督の下で働いてた部下っていうことじゃないの。それをトップラスに忠誠を誓い、密かに腹心の部下になりすましていたのよ。まったくなんて奴らかしら」

 彼女の声には同情のかけらも見られない。

「それにひきかえ、ガリー派の人たちは全員ロンギュスに飛ばされてたんでしょ」

 ノアはガリーに目を向ける。その視線には幾ばくか尊敬の色が浮かんでいた。

「総督を慕っている人たちは、たとえ故郷を捨てることとなっても彼にどこまでもついていくっていうことじゃない。なんていい話かしら」

 だが、すぐに表情が一変して険しくなる。

「それなのにあいつの部下たちときたら、自分が助かりたいがために主人を売ろうとしたのよ。ほんとに情けない。まったく、主人がああなら、部下もやっぱりクズよ。そんな奴らのためにあたしの手を汚すなんて、がまんできるわけないじゃないの」

「自然にまかせる処刑ってことだね」

 すみっこのほうに座っていたケイタがポツリと言った。

「あら、いいこというわね」

 横に座っていたサヨが感心した。

「そう。その通り」

 ノアが嬉しそうに手を叩いて言った。

「神さまに委ねるってことよ。あいつにも何か生きなきゃなんない理由ってのがあるんだとしたら、もしそうなら、あれだけ不利な状況に置かれたとしても運だけで助かるかもしれない。それでもやっぱりダメでロンギュスと運命をともにするかもしれない。これがあたしの最大限の情けってやつよ」

「ていのいい逃げってやつのようにも見えるけどな……」

 シンゴがポソリと呟いた。

「なんか言ったぁ?」

 ノアがジロリと横に座るシンゴをにらみつけた。

「え? あ…いや…なんでも…ない」

 シンゴは慌てて首をふった。

「まあまあ。ノアもそのへんにして」

 すると、ニコニコしながら彼らの会話を聞いていたナオトが、ようやく割って入ってきた。

「………」

 ノアは少々むくれた顔をしたが、それでも黙り込んだ。

「ところで、レナンド」

 ナオトはガリーへと視線を向ける。

「地球についたら、あなたは総統と直接あいまみえることとなるでしょう。ロンギュス星人のこともその時にお願いしてみてはどうでしょうか。きっと総統は彼らのための星を提供してくださると思いますよ」

「そうか」

 ガリーの目が輝く。

「それは楽しみだ」

「それまで彼らのことは私どもにおまかせください」

 ナオトの申し出に感激したのか、ガリーは彼に手を差し伸べてきた。

「それは痛み入る。どうか彼らのことをしばらくのあいだよろしく頼むぞ」




 それからだいぶ経ったある日のこと。

 地球の軍エア・ポート。ここは一般の者は立ち入ることのできぬ宇宙空港である。

 だが、いまそこに数人の若者たちと背の高いふたりの男が立って話していた。

 彼らがいる場所はロビーらしい。一般空港と同じようなクリスタルドームの中だ。

「ナオト。いろいろと世話になった」

 ガリーの銀色の髪が、クリスタルドームを通して差し込んでくる陽の光で輝く。

「………」

 ノアはナオトのそばでそんなガリーを眩しそうに見つめていた。

「いえ。レナンド。私のほうこそ」

 ナオトはおなじみの微笑みを浮かべて、彼の差し出した手を握った。

「またお酒でも一緒に飲みましょう」

 ふたりはこの短いあいだに、すっかり気の置けない仲になったらしい。

「ナオト……」

 しかし、ガリーの声にはなぜか失望の色がにじんでいる。

「どうしました? レナンド」

 そんな彼の様子に気づき、ナオトは怪訝そうに聞いた。

「その他人行儀な言葉づかいを何とかしてもらえんかな。私たちはもう友人だろう?」

 彼はため息をついた。

「ですが、あなたは私よりも年上ですから」

「むぅ……」

 ていねいだが、とりつくしまのないナオトの態度にほとほと困りきるガリーであった。

「とにかく、お気をつけて」

 そんなガリーに、よりいっそう深く微笑みながらナオトは言った。

「そうだな」

 ガリーももう何も言うまいといった感じで呟く。

「君と飲む酒は格別だ。だからロンギュス星人たちを新しい惑星に送り届けたら、まっさきに君のところまで帰ってくるさ」

 ガリーも微笑んで見せた。

(あら)

 その笑顔を見たノアが心で呟く。

(よく見るとけっこういい線いってるわね。思わずクラッとしちゃうほどのシブさじゃない)

 彼女はしげしげとガリーの顔を見つめた。

 彼の顔つきも、今ではもうずいぶんと柔和になって、最初見せていたあのギスギスした雰囲気がまったく感じられなかった。

「ね、ナオト博士」

「ん……?」

 隣に立つノアに、ナオトは微笑んだまま顔を向けた。

「レナンドってけっこうカッコイイね」

「…………」

 ナオトの顔色が変わる。

「あたし、タイプかもしんない」

「な……」

 ノアの屈託ない言葉に絶句するナオト。

「ふむ………」

 すると、ガリーの目が細められた。まるで興味深いものでも見たとでも言いたげにナオトとノアのふたりを交互に眺める。

「これは……」

 彼は呟く。

 次の瞬間、彼の紅い目がいたずらっぽく輝いた。その様子では、何か良からぬことを思いついたらしい。

「ナオト」

 彼はナオトの方へと身体をよせ、耳元に囁いた。

「私はこう見えてもそう硬派というわけではないぞ」

 チラリとノアを一瞥すると言った。

「気が強くてワガママな女がけっこう好みなのだ」

「なっ……」

 ナオトはびっくりしてガリーから身体を離した。

「はっはっはっはっ!」

 突然ガリーは大笑いした。

「!」

 その場に居合わせた者たちはギョッとして彼を見つめる。

「まあ、せいぜいしっかりとつかまえておくのだな」

 ガリーは、さもしてやったりといわんばかりに声を張り上げた。

「ナオト。私が戻ってくるまでに、やることはやっておくことだ。でないと私もどう出るかわからんぞ」

「レナンド!」

 笑いながら搭乗ゲートに向かうガリーに、ナオトは血相変えて叫んだ。

「ぜったい誰にもわたさんぞ!」

 彼の怒鳴り声に、背中を見せていたガリーが振り返る。

「そうそう。それでいい」

 笑いながらそう言うガリーに憮然とした表情を浮かべるナオト。

「これで私たちも晴れて親友だ」

「御免こうむる!」

「………」

 すごい剣幕で怒るナオトにノアはびっくりした。呆気にとられて見つめている。

「はっ!」

 すると、その視線を感じた彼は慌てて我に返った。

「むむ……」

 恥ずかしそうに頬を染める。

「はっはっはっはっ!」

 それを見たガリーはまたもや大笑いした。

「…………」

 再び背を向けて歩きだしたガリーをナオトは恨めしそうに見つめた。

 そして、レナンド・ガリーは地球を旅立っていったのだった。



 透明なクリスタルドームを通して、ガリーたちの乗った宇宙船が飛び立っていくのを見送ったあと、ノアが傍らのナオトに声をかけた。

「ナオト博士……」

「な、なんだい?」

 さきほどのこともあって、彼はばつが悪そうな様子だ。

 ふたりの後ろにはシンゴ、タカオ、ヨリ、サヨ、ケイタがなぜか耳をそばだてて立っている。

「あたし、あなたにお願いがあるんだけど」

「お願い?」

 しおらしくうなずくノア。

 ナオトはそんな彼女を『かわいい』と思って、思わず抱きしめたい衝動にかられた。

 まったくもっておめでたい男だ。

「こんど学校を卒業したら……」

「卒業したら……?」

 ゴクリとのどを鳴らすナオト。

「卒業したらセンターに入ると思うけど、新しいセクションをつくってほしいの」

「え……?」

 ナオトはポカンと口を開けた。どうやら彼女の言葉に拍子抜けしているらしい。

「なんて顔してるのよ」

 ノアは思わずプッと吹き出す。

「あ……ご、ごめん」

 ナオトはますます顔を赤くして謝った。

「実は、ロンギュスへの旅の間にも考えてたことなんだけど、父が途中まで手がけていた外宇宙探査ね。あれを重点的に扱う新しいセクションを、本格的につくったらどうかなと思うの」

 そう言うノアの視線はナオトに向けられていたが、どこか遠くを見つめているようでもあった。

「父の夢だったんでしょ。銀河系の外を探検するのって」

「ああ。そうだね」

 とたんに真面目な顔になって、ナオトもうなずいた。

「せっかくこれからって時に、お亡くなりになってしまったからね」

「それ、いいじゃん!」

 タカオが後ろから声をかけた。

「うん。僕も賛成だよ」

 シンゴも大いに賛同してうなずいている。

「あら。いいわね。私も参加したいわ」

 サヨが残念そうにそう言った。

「ええ。あたし、考えたんだけど……」

 ノアはそんなサヨに答えるように話をつづけた。

「すべての惑星の宇宙探検センターにこのセクションを設けるの。そして、みんなで力を合わせて外宇宙への探査の旅に出るのよ」

「それはいい考えだ」

 珍しくケイタが興奮気味で賛成する。

「僕も、そのセクションが火星にできたら、ぜったい参加するよ」

「そりゃおもしろそうだな。オレも火星のセンターに入ろうかな」

 ケイタにうなずいて見せながらヨリも口を出した。

「あら。そうしなさいよ。そしたらみんなで宇宙に出れるじゃない」

 ノアが嬉しそうにそう言った。

 そして、彼女は再びナオトに顔を向けると彼の顔を見つめた。

「ねえ。どうかしら。ナオト博士」

「もちろん……」

 すると、ナオトはノアにニッコリ微笑んでみせた。

「きみの言うことは何でも聞くよ」

「わぁ!」

 彼女は嬉しそうに飛び上がると、手を取り合って仲間たちと喜んだ。

「ところで、ノア」

「?」

 ノアはナオトの声に振り向いた。

「その新しいセクションの命名はきみがしてくれるんだろうね」

「名前? う…ん。そうねえ……」

 彼女はしばらく考えると、パッと顔を輝かせた。

「こんなのはどうかしら」

 彼女は全員の顔をぐるりと見回してから、ゆっくりと口を開く。

「セクション・DD7」

「DD7?」

 異口同音の声が上がった。

「それはいったいどういう意味なんだ?」

 シンゴが訝しそうに聞く。

「ディープスペース・ディスカバリー・7」

 ノアは『どうだ』といわんばかりに胸をそらして見せた。やはり自慢ぐせは抜けないようである。

「略してDD7計画よ」

「DD7計画か!」

 ナオトが復唱した。

「深宇宙での発見か……君らしいね」

 すると彼は不思議そうに首をかしげた。

「しかし、7っていうのは?」

「わたしのAOA7から7をちょっとね」

 ペロリと舌を出してみせるノアであった。

「まったく、自己主張の強い女だなあ」

 シンゴが呆れたように言った。

「あら。悪かったわね。自己主張強くて!」

 ノアは、シンゴにベェーと舌を出して見せた。

「いいんじゃない? 7をつけるとゴロがよくてしっくりくるじゃないの」

 そこへサヨが助け船をだした。

「うん。そうだね。ゴロは大切だと思うよ」

 変なところで賛同するケイタである。

「オレもいいと思うぜ。そのDD7って」

 ヨリも賛成した。

「ありがとう。みんな」

 ノアはとても嬉しそうである。

「よし。じゃあ。きまりだね」

 ナオトも嬉しそうである。もっとも彼の場合は、ノアがそばにいればいつでも嬉しいのだが。

「きみたちがセンターに入るころには、セクション・DD7は始動を始める。名付けてこれを……」

 そして彼はこうしめくくった。

「宇宙探検DD7計画と呼ぶことにしよう」




 それから約一年後。

 DD7・セクションは総統にも認定され、地球を本部とし太陽系、そして太陽系外の各宇宙探検センターに設置された。

 各センターでは有志をつのり、宇宙探検センター初の大がかりな特殊連携チームが結成された。

 ほとんど地上にとどまることのない、そのチームのリーダーはもちろんノアである。あと隊員にはシンゴが、タカオが、そしてサヨにケイタ、火星のセンターに入所したヨリが集まり、そのほか各惑星のおもに若者がノアたちのもとにつどった。

 そして、いよいよノアたちが最初の目的地に出発する日がやって来た。

「こんなことになるとは思っていなかった」

 宇宙港でナオトがぐずっている。

「またはじまった……」

 ノアの横でシンゴが彼女にそっと囁いた。

「…………」

 彼女は黙ったまま苦笑した。

「私にまかせておけ。ナオト」

 すると、銀色の髪、そして紅い目をした精悍な顔つきのレナンド・ガリーがナオトの前に進み出た。

「私がオブザーバーとして随行するからには命にかえても彼女らを守ってみせる」

 まるで、どんっと胸でも叩きかねない勢いである。彼の横に立っていたホルダーが『やれやれ』といったふうにため息をつく。

「あら。ステキ……」

 サヨが頬をポッと染め、呟いた。

「………」

 そんなサヨを、横でケイタが眇めた目で見つめる。

「………」

 ナオトは恨めしそうにガリーを見つめた。

 それはまるで『おまえが一番あぶない』といっているようにも見える。

「パレス総裁。本当に安心してくださいよ。オレたちだってついていますから。ノアのことは心配しなくても大丈夫」

 ヨリが珍しくその場の雰囲気を和ませようとしている。

「まったく!」

 ノアがたまりかねたように声を上げた。

「そんなにあたしのことが心配なら、とっとと仕事かたづけて追っかけてきたらっ」

「ノア!」

 たちまち顔を輝かせてナオトが叫んだ。彼にとってはこのノアの言葉は感無量だろう。

「は───……」

 彼女はこれ見よがしに大きくため息をつく

「あ……」

 とたんに情けない顔へと変わるナオト。

「しかし、こうもきみが彼女に弱いとは思わなかったぞ」

 ガリーがナオトに耳打ちした。

「ほっといてくれ」

 憮然とした表情でガリーをにらみつけるナオト。

「…………」

 それを不思議そうな目で見ながら、ぼそりとガリーが言った。

「わからんな」

「え?」

 彼の言葉に訝しそうな顔をするナオト。

「こう言ってはなんだが、きみほどの男がどうして彼女に入れ込むのか、私には理解できん」

「…………」

 ほんのわずかのあいだ、ナオトはガリーを見つめる。そして、おもむろに言った。

「それは、あなたが彼女の笑った顔を見たことがないからだ」

「笑った顔……?」

「そうだ」

 ナオトは視線を遠くに向けると、何かを思い出すように喋りはじめた。

「その昔、私は彼女の屈託ない笑顔に救われたことがある。そのころの彼女はあまりにも幼すぎて、もう覚えてないようだが、私は生涯忘れることはないだろう。天使のような笑顔……なんてこの子は幸せそうに笑うんだろうってね。私はその時から決めたのだ。彼女のその笑顔を守るためだったら何だってすると。そして、彼女の微笑みを………」

 ナオトは自分の顔にも笑顔を浮かべ、言い切った。

「私だけのものにするんだってね」

「ふむ……」

 ガリーは眩しそうにナオトの顔を見た。それはまるで、ナオトの微笑みこそ守るべきものだといいたげな表情だった。

 それからふたりは、ノアやシンゴたちの消えていった搭乗ゲートを見やる。

 すると突然ガリーが言った。

「本当の君を知ったら彼女はどう思うだろうな」

「!」

 ナオトは驚いてガリーの横顔を見つめた。

 彼のその言葉に、一瞬なつかしそうな目をする。そして、かつて口にしたその言葉をナオトは再び繰り返した。

「いつか本人に聞いてみるさ」

「できるかな」

 ガリーは含み笑いをして彼を見つめた。

「できるさ」

 ナオトはノアには絶対見せたことのない、不敵な笑いを顔に浮かべた。ガリーを見つめる瞳の奥には、ゲート内へと消えていった愛しい人の面影が浮かんでいる。

「さて……」

 ガリーは組んでいた腕を下ろした。

「では私もそろそろ行くかな」

 彼は控えていた部下へと視線を向ける。

「ホルダー」

「は……」

 ホルダーは軽く頭を下げて、それにこたえる。

「行くぞ」

 ガリーはそう言いながら歩きだした。

「私が行くまで、指一本ふれるなよ」

 ナオトはガリーの背中に向けて言った。

「それは約束できんな。男と女の間は誰にも予測できるものではない」

 ナオトにこたえて一瞬たちどまるガリー。

 彼は背中を見せたままだが、声の調子から笑っているようだ。

「せいぜい頑張ることだ。君が追いかけてくるのを待つほど、私は気の長いほうではないからな」

 ガリーは捨てゼリフを残して去っていく。

「…………」

 あとには、ナオトだけが残された。

「絶対に追いつくぞ」

 そうつぶやくナオト。

 そして、ガリーの消えていったゲートを複雑な目でいつまでも見つめていた。




 それからほどなくして、ノアたちの乗った宇宙船は宙港を飛び立っていった。

 彼らはこれより深宇宙の探査へと旅立っていくのだ。それはノアの亡き父、銀河連邦の偉大な英雄ケンイチ・ケレス総裁の長年の夢でもあった。

 次代の若者たちに受け継がれていく英雄の夢────

 彼らは元気に宇宙を飛び回り、その若い才能を惜しみなく冒険と探検に注ぎ込んでいくことだろう。

 宇宙は果てし無く広大だ。

 そんな無限に広がる驚きと発見の宝庫である大宇宙────

 彼らはこれからも、どこか見知らぬ宇宙の果て、名もなき星々を発見していくことだろう。

 そして、彼らの見つけた未踏の星たちは、その輝きを永遠のものとし、未来永劫いつまでも燦然と輝きつづけるにちがいない。



            初出2001年11月19日

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宇宙探検DD7計画 谷兼天慈 @nonavias

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