ハロウィンだウエエエエエエエイ!

kanegon

ハロウィンだウエエエエエエエイ!

「ウエエエエエエエイ! 渋谷は燃えているでござるかぁぁっ!」

「ウエエエエエエエエイ!」

「ウエエエエエエエエイ! 燃えているぞぉっ! ガオー!」

「……ゥ、ゥェ、ゥェェィ……」

「おい! どうした! 後藤! 元気無いでござるぞ!」

「ぃゃ、げ、元気ですょ?」

「ハロウィンに渋谷に来るのは初めてでござるか?」

「は、はい。あたし、佐賀県出身だし、去年までは地元で浪人生だったから。先輩たちは去年も来たんですか?」

「おう! 去年も凄かったでござるぞ! なんか、ホタテ貝のビキニの仮装をしている四人組の美女がいて、無茶苦茶注目されていたでござるぞ!」

「そ、それって、露出狂じゃないんですか? 逮捕されないんですか?」

「いや、電車に乗って渋谷に来るまでは上にコートを着ていたらしいぞ。……あっ、ござる付けるの忘れていた、で、ござる」

「ハロウィンに参加する人って、ちゃんとルールとマナーを守っているからね。ガオー!」

「そういやさ。キモいオタクの連中がSNSで『ハロウィンに参加している奴らはマナーを守らないキ○ガイばかり』とか言ってハロウィンを必死に叩いているらしいよな。そういうのってキモいよな」

「オタクどもは、そういうキモいことをやっているから永遠にモテないんだって。ガオー!」

「……すいません、さっきから気になっているんですけど、柴田先輩の語尾の『ござる』と、松川先輩の『ガオー』って、なんなんですか?」

「せっかくハロウィンでサムライの仮装をしているでござる! だったらキャラになりきって楽しみたいので、語尾をござるにしているでござる! 高校の修学旅行で買った木刀が仮装の役に立つ日が来るとは感慨深いでござる!」

「俺も今夜は狼男だからね。ガオー! 満月じゃあないみたいだけど。ガオー!」

「え? じゃあ、中村先輩は?」

「俺はフランケンシュタインの仮装だけど、特にキャラ付けに使える語尾とか無かったわ。だからせめて、いつもよりは低い声で喋るようにしている」

「後藤のその格好は、何の仮装でござるか?」

「ゾンビのコスプレです。グリーンフェイスのメイクは、かなりグロテスクにできたという自信作です」

「ゾンビなのに、アイドルが着るみたいなフリフリのきらびやかな衣装なの? なんか特別なコンセプトでもあるの?」

「これって佐賀県ローカルの焼肉店のコマーシャルに出てくるキャラクターなんですよ。顔はゾンビでアイドル衣装。佐賀しか放送されていないはずなので、佐賀以外の人は知らないと思うけど、佐賀県民ならみんな知っているはずです」

「そんなの誰も知らないけどインパクトあるガオー!」

「お! 居た居た。っでござる。さっき言ってあった、友達のT大剣道部の連中を見つけた、でござる」

「よう! 柴田! 今年の仮装も気合い入っているな!」

「そっちこそ豪華ラインナップでござるな。メイドと巫女と忍者と吸血鬼でござるか。それも男四人で、ってのが気合い入りまくりでござる!」

「なあ柴田。そっちの、焼肉平和苑の仮装の人は、お前のところのサークルの子?」

「今年入学した一年生でござる」

「吸血鬼さん、平和苑を知っているんですか? 佐賀出身ですか?」

「親が全国転勤族で、中学時代に伊万里に一年住んでいました。平和苑さんは?」

「あ、自分は佐賀市内出身です」

「おおっっとぉぉぉ! 佐賀県民同士、早くもラブラブでござるかあああ!」

「後藤チャンスだぞ! 頑張れガオー!」

「ウエエエエエエエイ!」

「平和苑さん、明日、一緒にゴミ拾いしませんか?」

「ええええ? 吸血鬼さん、それって、ナンパですか? あたしみたいなキモいゾンビを誘って、いいんですか?」

「そりゃゾンビの仮装は、キモければそれだけメイクとして上手くできているってことですから」

「……な、なんていうか、キモいことを褒められるなんて、今まで経験したことありませんでした。まるで夢を見ているみたいです」






「……あちゃー。噂には聞いていたけど、見てみると、マジで酷いなあ。本当にゴミだらけになっている……」

「あ、平和苑さん! 遅くなってすみません。待ちましたか?」

「吸血鬼さん! おはようございます。今さっき来たところですけど……よくあたしが昨日のゾンビだって分かりましたね?」

「そりゃ分かりますよ」

「えー……それって、ゾンビメイクしていなくても、あたしの顔がキモいってことですかぁ?」

「そんなことはありませんよ。それより、ゴミ袋は持ってきましたよね? さっそく始めましょうか」

「はい。今日は、誘ってくださってありがとうございます。あたし、渋谷のハロウィンは初めてだったんですけど、昨夜は盛り上がって楽しかった反面、今は噂に聞いていた通りゴミでひどいですね。なんというか、強引に現実に引き戻された感というか、昨夜のことは夢でしたー、って夢オチをかまされたような気分です」

「俺も最初に見た時はショッキングでしたねー。ハロウィンを批判する人の言い分も分かるような気がします」

「……昨日、うちの大学のサークルの先輩たちも話していたんですけど、ハロウィンを批判しているのは、いわゆるオタクっぽい人たちらしいですよね」

「ああ、確かに聞きますね。でもそれに関しては、自分たちに無縁な場所だから批判している、とも言われていますよね。それに、いわゆるオタク系の人たちも、大勢集まってわいわい騒ぐような場所では、群集心理が働いてマナーを守らない、っていう指摘もありますよね」

「……あー……」

「……あれ? どうしました平和苑さん。具合が悪い、とか……?」

「いえ、あの……正直言ってあたし、どちらかというと、オタクサイドの人間なんですよね、アニメとか好きだし。サークルの先輩の、ウェーイっていうノリには、なかなかついて行くのがやっとという感じで」

「そっ、そうだったんですか? 昨日は平和苑のCMのゾンビそのまんまで、ノリノリだったじゃないですか。……あ、そこにもティッシュ落ちてますよ」

「え、どこですか?」

「そこの、陰になっている奥です」

「……ああ、すみません、前しか見ていませんでした……あたしって、昨日、そんなノリノリでした?」

「完全にゾンビそのものでしたよ」

「……まあそりゃ、ノリというか、付き合いが悪くてサークルの先輩たちに愛想尽かされても困りますし。でも、先輩たちがオタクの主張を批判しているのを聞いていると、どうしても、あたしの心の中で反発が生まれてしまうんです」

「……うーん、まあ、物の考え方は、多様性があってもいいというか、多様性がある方が健全なんじゃないでしょうか?」

「でも、今、吸血鬼さんが言ったように、オタクの人だって、徹夜禁止のイベントに徹夜で並んでいる人がいたりして、ルールやマナーを守っていない人もいるんですよね。そう考えると、何が正しくて何が間違っているのか、なんか、よく分からなくなっちゃって……」

「じゃあ、俺たち、今、ゴミ拾いに来たけど、これも批判する声があるのは知っていますよね? 平和苑さんはどう思います?」

「あー、やっぱり、お見通しですか。誘っていただいて、こんなこと言うのもアレなんですけど、あたしはゴミ拾いについてもどうかなって思っているんですよ。自分たちで汚しておきながら、ゴミ拾いした様子をSNSに投稿して『いいことしました!』アピールっていうのは、なんか違うんじゃないかなー、って思っているんです。お察しの通りです」

「そういう疑問を持つのは間違いではないと思いますよ。ゴミ拾いをして、ましてやそれをSNSにアップして善人アピールをするのは偽善行為と言われても仕方ない部分もあります。でも、やらない善より、やる偽善だから。偽善偽善って言うなら、災害が起きた時に被災地に対して義援金を寄付するのだって立派な『やる偽善』です。俺って全国あちこちに住んだことがあるから、どこの地域で災害が起きても、他人事とは思えないんですよ。だから、額は少ないけど、災害が起きた時は毎回募金に寄付しています。一方で、ゴミ拾いや義援金を批判している人は、恐らく99%がゴミ拾いも募金もせずに口だけで批判しているだけです。やらない善が全く駄目だとは言いません。何事にも批判というのは、あっていいし必要だ。でも俺は、それよりもやる偽善を選びたい。平和苑さんはどう思いますか?」

「……言われてみたらあたし、今まで災害義援金の募金とか、したこと無かったです。バイトもしていない浪人生でお金が無かったのもありますが、自分の行ったことの無い地域ばかりなので、完全に他人事でした。なんというか、自分の考え方がオタクサイドに偏り過ぎていたっていうのが、吸血鬼さんに指摘されて分かったような気がします。目が覚めたというか、これからはもっと視野を広くしないとダメですね。ありがとうございます」

「そんな。お礼を言われるようなことではないですよ、平和苑さん」

「あ、あたし、後藤っていいます。……吸血鬼さんのお名前も聞いていいですか?」

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