第七章「邂逅篇」
第18話『異類婚姻譚に祝福を!』
王太子アルベルトと桜このはが再び転生したのは、
自由主権党総裁にして内閣総理大臣は
怪獣災害を鎮圧した
しかし、なぜ政府に異世界担当大臣なる役職があり、しかもみずから動くのか──
彼らは海上自衛隊の護衛艦やまとに風呂を借り、海水に浸った身を洗った。作業服も借りた。
艦内の士官室にて荒垣大臣との会談の席は設けられた。
同席した人物を見てアルベルトは驚いた。耳が笹のようにとがり、シルクのような金髪だ。年は二〇そこそこか。
「……精霊族!?」
精霊王国の女王、ミュラと名乗った。
──令和四年、日本国は剣と精霊魔法の異世界『方舟』と邂逅していたのだ!
……アルベルトが戸惑うこのはの代わりに経緯を説明すると、ミュラは頷き、荒垣は興味深そうに聞いていた。
「日本と異世界が邂逅するとき、巻き込まれたのかも知れないわね」
ミュラはそう結論づけ、阿部と荒垣も否定しなかった。
荒垣が話題を移す。
「日本国政府から、桜このはさんのことは、異世界専従調査チームである我々特事対に任されている。国内に戻ればマスコミの目もある。しばらく方舟でゆっくり過ごすがいい」
「はい。そうさせていただきます。──あの、父と母は?」
「自衛隊ヘリコプターでもうすぐ到着するよ」
このはは驚き、身なりを確認しだす。
精霊の血を受け継いでいるアルベルトは魔法で軍服を造成した。漆黒に深紅の差し色、金の装飾が輝く。近衛師団長、上級大将たる王太子としての軍服だ。
これから義理の両親に会うのだ、アルベルトは覚悟を決めた。
皆が護衛艦やまと後部甲板のヘリポートに向かった。
* *
「このは!」
ヘリコプターの回転翼が止まるのを待たずに、このはの両親は駆けてくる。
母親と抱擁し、父親が頭を撫でた。
元気にしていたか、怪我はないかとしきりにたずねる。
阿部副総理が目を細め、荒垣大臣が涙を浮かべていた。
ゴホン! とアルベルトが咳払いする。
このはも思い出したようだ。
「あ、お父さん、お母さん、この人が──」
「お会いできて光栄です。パルパティア王国王太子アルベルトです」
無理して敬語を使っているが、堂々としていた。逆に父親はそこを気に入ったようだ。
「そうか。この人とか……」
母親も、娘の結婚相手が王太子殿下と聞き喜ぶ。
「王子様を射止めるなんて、やるわね」
……士官室での話ははずみ、両親もアルベルトを大層気に入ったようだった。
「これからこのははどうするの?」
「私は、アルベルト殿下と一緒に方舟で暮らしたい」
母の問いにこのはははっきりと答えた。
「そうか、わかった」
去り際、父親はアルベルトの肩に手をおいた。
「娘を頼むぞ、アルベルト君」
アルベルトとこのはは顔を見合せ、笑った。
* *
その夜……
アルベルトとこのはのふたりに割り当てられた部屋。そのベッドにふたりは並んで腰掛ける。
このはがアルベルトにもたれかかり、甘えた。アルベルトはこのはに腕を回す……薄暗い照明の中でふたりのシルエットが重なりあう……
いざ決心すればいつでもこのはをめちゃくちゃに愛することができる。アルベルトは葛藤したが……手を引っ込めた。
「アルベルト……?」
彼は優しく、細心の注意を払って彼女をベッドに寝かせ、腕枕にすべく左腕を差し出し、右腕で彼女を抱きしめた。
なんだかおかしくなって、このはは笑った。
「ふふっ、そういう奥手なとこ、嫌いじゃないよ」
「う、うるせ」
アルベルトは照れていた。
アルベルトはこのはの額に
その物語の名は、アルベルト戦記。
王太子アルベルトの旅は、大切な伴侶を得て、ひとまずの終わりを迎えた…………
アルベルト戦記 外山康平@紅蓮 @2677
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