第17話『女神アポロニアよ、アルベルトとこのはに花束を!』
女神アポロニアは慈愛のまなざしでアルベルトとこのはを見つめる。
「アポロニア……」
アルベルトが呟いた。
『この時を待っていました。ファルキューレに英霊とともに眠る私の意識を、クラウスが目覚めさせてくれました』
その時、おぼろげながらもクラウスの影が見えた。
『殿下』
ファルキューレとは、パルパティア王国王都の丘にある英霊の神殿である。今、クラウスはその英霊となっていた。
『私は現世に干渉できない存在──ですが、思いを繋ぐことならできる。戦いに散った戦士たちの魂が、あなた方を助けるでしょう』
確かに、なだれ込む英霊の魂、高揚感とともに魔力が高まるのを感じた。
……魔力の蓄積が終わった。
もう撃てるが、アルベルトはこのはの方を向く。
アルベルトは顔を真っ赤にしている……このはの頭を撫でた。
「?」
「……コノハ……、結婚、してほしい」
このはが目を見開く。手で口元を覆い隠そうとするが、口角をにんまりと上げた。
「…………ばか。言うのが遅いよ」
ふたりは抱擁し、笑いあった。
……しばし笑っていたが、気を引き締め、アルベルトは言い放つ──
「これで終わりだ、グォーザス!!!」
双方の魔方陣が高速回転を始める。
魔方陣からエネルギーの奔流(ほんりゅう)があふれ、光が走った──!
* *
……パルパティア王国国王エアハルトは玉座に腰を沈め、軍務大臣からの報告を聞く。
「……そうか、アルベルトが……」
アルベルトが自らを犠牲に魔界皇帝を葬った──!
武官を中心に、その表情は苦悶にゆがむ。エアハルトも涙をこぼし、慌ててぬぐう。
エアハルトは立ち上がる──
「語り継ごう……アルベルトの意志は永遠だと。パルパティア王国は守られたと……」
民は海辺に立ち、沖合の炎を見つめていた……
「あの坊っちゃん王子がやってくれた……」
「勇敢だったな」
「今ごろふたりはファルキューレで結ばれていることだろう」
民が青空を見上げる──いつしか立ち込めていた暗雲は消え去り、空はどこまでも晴れ渡っていた。
……意識体となったアルベルトはこのはを抱きかかえる。
美しい裸に何もまとわず、生まれたままの姿で。
天国のようなこの世界。雲のベールがただよい、淡い陽が照らしていた……
彼らは永遠に生きて、この世界を見守っているのだ……
* *
…………どれほどの時がたったのだろう?
アルベルトとこのはは目を覚ました。
「うん……?」
透き通った青い海。きめ細かい砂浜を透明な波が包む。
「ここは一体……?」
このはが呟く。
「おーい! 大丈夫か!?」
遠くから誰かが駆けてくるのが見えた。黒髪に身長の高い大柄な男だ。年は五〇過ぎか──このはは驚いた!
「あ、
アルベルトがこのはに振り向く。
「大臣だと!?」
「
当然の疑問だった。荒垣はつけ加えた。
「補足すると、今は防衛大臣兼異世界担当大臣をやっている」
「異世界……担当……大臣?」
聞きなれない大臣職だ。
このはは辺りを見回した……コンクリート製の建物が目に入る。
「まさかここは────日本!?」
荒垣は頷いた。顔をそむける。
「その前におふたりさん、服を着た方がいい……」
バッ、とこのはは自分の身に視線を移す! ……なめらかな素肌、つつましやかな胸、腰が丸見えであった。アルベルトも同様だ。
「きゃぁっ!」
このはは胸と股を抑え、うずくまった。顔はかつてないほどに赤く赤く染まって、震えている……裸は、アルベルトにすら見せていない。
荒垣が自身のジャケットをかぶせてやる。【 防衛大臣 荒垣健 】と刻まれている防衛省のジャケットだ。
徐々に状況が飲み込めてきた。
今、アルベルトとこのはは現代日本にいる──!
「荒垣大臣! ここでしたか」
七〇になるかならないかぐらいのオールバックの政治家が歩み寄る。
「あ、
このはが異世界転生直前に家族と見ていたテレビに映っていた総理大臣だ。有効求人倍率などこのはの就活にも関係がある。
「総理大臣、懐かしい響きですな。今は副総理兼外務大臣ですが」
荒垣が威儀を正す。アルベルトが立ち上がった。このはも立ち上がろうとするが、股間を隠すジャケットの裾がめくれないように顔を赤らめながら押さえて立ち上がった。
「改めまして。防衛大臣 兼 内閣府特命担当大臣、内閣府特定事案対策統括本部──通称【
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます