四葩の色

 あれから何度目かの六月がやってきて、僕は印刷会社に勤めていた。社会人になってからも、回数こそ減りはしたが図書館に通うことはやめなかった。一条も変わらず勤めている。

 あまり公園にはいかなくなった。一年に一度、紫陽花の前で手を合わせるくらいだ。その時には三鷹も呼ぶことにしている。

 今日はなんとなく、紫陽花の前に訪れた。なんだか一番初めに彼女と紫陽花を見た日の天気に似た曇りから光が漏れたような天候だったからだ。

 毎年ここにきているが、梶井基次郎の作品のように紫陽花が際立って美しくなるといったようなことはなかった。現実なんてそんなもんだ。紫陽花の色は変わらないし、僕や三鷹が犯罪者であることにも変わりはない。彼女が自分勝手で儚くて自由で素敵なひとだったことも変わらない。


 ただ、やっぱり彼女は四葩になったのだと思う。


 また来るよ、と返事が返ってくるはずもない空間に別れを告げ、足を公園の外へ向ける。狐の嫁入りでも起きそうな空だ。


***


 背の高い五月が気づくことはなかったが、紫陽花のその根元の花の色はその周辺の紫や青ではなく、混じりけもない白になっていた。これが四葉の花なのかは、きっと、誰にもわからない。



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四葩の色 更科 周 @Sarashina_Amane27

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