『読書しない感想文』

桝屋千夏

「『ダサい』に私は胸を張る、明日から」

 竹内緋色様の自主企画『読書しない感想文』への投稿作品です。


 作者の大木奈夢様

 この場を借りて、失礼をお詫び申し上げます。



 ******



「『ダサい』に私は胸を張る、明日から──桝屋千夏」


 私はこれまで『ダサい』なんて言葉を使ったことがありませんでした。

 その『ダサい』という言葉の響きに、どことなしか嫌悪感を感じていたからです。


 何故そう感じるのか。


 それは、その言葉があまりに抽象的過ぎており、且つ中傷的表現として使われるからです。


「『抽象的』と『中傷的』で韻を踏みましたが、『ダサい』とか言わないでください」


 まさに主人公のこの台詞から始まるストーリーは、書き出しのふざけた感じからは一転、ページをめくる度に目にも止まらぬ速さで展開される本格ミステリーでした。


 全四話で語られるお話は各話とも実にミステリアスで、一話毎に『ダサい』についての謎が解明されますが、それがまた別の謎を呼ぶのです。


「まるで犯人は『ミステリオ』のようです。『ミステリオ』とはミステリーな男と書いて『ミステリ男』ではなく、スパイダーマンに出てくる敵キャラです。衣装がダサい、ダサいのです」


 この文章で私は犯人が誰かわかりました。

 まだ第二話でしたが、私は確証を持って読み進めついにクライマックスに達しました。

 ここまでくれば、もう私の読みは当たったも当然です。

 が、しかし、私の推理は外れてしまったのです。

 ラスト十ページもないのに、私が犯人とたかをくくっていた『金々正恩』が死んでしまうのです。

 私はものすごく焦りました。

 こんな展開は初めてだったからです。

 そしてラスト十ページしかないのに、自然と手汗が噴き出し、感動したことを今でも鮮明に覚えています。


 『ダサい』が誕生した五十年前。

 私はまだ産まれていません。

 なのにもうこんなに素晴らしい言葉、『ダサい』が存在していたことを思うと胸の高鳴りを隠せません。


 私は信じます。

 例え誰がなんと言おうとも。

 例えそれが都市伝説であっても、彼、彼女達がその時代を生きたことには、なんの偽りもないのですから。


 今はもう『ダサい』を聞くことにも、使うことにも嫌悪感を感じません。


 私は明日から胸を張って言いたいと思います。


『私はダサい。それを認めた私、priceless 』


 終



 大木奈夢様

 重ねて失礼をお詫び申し上げます。

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『読書しない感想文』 桝屋千夏 @anakawakana

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