後話(完結)
「これだ、これ。ずっと不足していたんだよぉ!!」
僕が魔法で作った、どこにでも一匹はいそうな狼のような魔物をバサバサ切り飛ばしながら、アルマがご機嫌に叫んだ。
「……確かに、なんか足りなかったよね。これ」
僕はニヤッと笑みを浮かべ、自然界ではあり得ないほど巨大なレッドドラゴンを創り出した。
瞬間、アルマの動きが止まった。
「……こ、コイツは、とんでもねぇぞ。雑魚と遊んでる場合じゃねぇ」
アルマの姿がすっと消えたようにみえ、ウジャウジャいた魔物たちが体液を飛び散らせて、ほぼ同時に地面に沈んだ。
「……これでいい。さて、このデカブツはどうしたものか」
剣についた魔物たちの体液を払い、やる気なさそうに地面に寝そべっているドラゴンに向き直った。
「……あれ、アイツなんであんなに怠そうなんだ?」
そして、違う意味で僕も興味をもった。
「うん……五月病ではないか。時期的にあっているしな」
「……今僕が創ったばっかりで、もう五月病なのか。可哀想な事したな」
そもそも、ドラゴンがそんなものになるのかは分からないが、これでは可哀想で戦う相手にはならなかった。
「よし、大人しいならちょうどいい。今のうちに首を頂くとしよう」
……僕だけはね。
アルマが剣を構えた瞬間、レッドドラゴンが強烈な殺気を放った。
その巨体に似合わない動きで素早く起き上がると、アルマの顔を見つめて不敵な笑みを浮かべた。
「……おい、ドラゴンって笑みを浮かべるのか?」
「……アルマの方が専門でしょ。僕だって知らないよ」
思わずヒソヒソした僕たちの隙を突いて、ドラゴンが素早く息を吸い込んだ。
「おわっ、くるぞ!!」
「……ノープロブレム」
僕は素早く杖を構えて、呪文を詠唱した。
杖先から魔力光を放つ球体が撃ち出され、ちょうど大口を開けたばかりのドラゴンのその中に飛び込んだ。
瞬間的に大爆発が起こり、ドラゴンの頭が吹っ飛んで、粉々に砕け散った。
「……おい、お前が倒してどうするんだよ。しかも、あんなもったいない倒し方をして。昔の仲間が見たら張り倒すどころじゃないぞ」
アルマはため息を吐き、剣の切っ先を僕の首に押し当てた。
「ほら、次だ。いっておくが、このスイッチを押したのはお前だからな。疲れるから、私が一番気が済むヤツを頼む」
「……それが難しいんだよね。でも、やらないと我慢は無理っぽいね」
僕がため息をつくと、アルマはニヤッと笑みを浮かべた。
「当然。使い魔の我が儘を聞くのも主の役目だろう」
「そ、そうだったっけ!?」
僕はもう一度ため息を吐き、苦笑したのだった。
「おらぁ、暴れたぞ!!」
「……ドラゴンだけで、三十体近くいったもんね。よっぽど、ストレス溜まっていたんだ」
剣を鞘に収めたアルマが、僕をそっと抱きかかえた。
「ところで、今何時くらいなんだろ?」
「さぁ、もう完全に切り離れた存在だからね。ここはずっとこの時間っていうか、日当たりのままだよ。暗いままよりはいいだろうと思ってさ。時間移動を組み込むのは、ちょっと難しくてね」
僕がいうと、アルマが笑った。
「それならそれでいいじゃん。眠くなったら、工夫すれば寝やすく出来るでしょ。今日はどうするかな。疲れたし食材は豊富だし、ここでダラダラしよう。暫定的に夜として、私はドラゴン料理フルコースだぞ!!」
アルマが地面に僕を下ろし、大量に転がっているドラゴンに近づいていくと、魔力光が目映き他の魔物も含め、全てが一瞬で消え去った。
「……そっか、全部君の魔法で作ったんだよね。幻みたいなもんか」
「幻よりはリアルだけど、実体がないって意味じゃ一緒だね。ここには、僕たちしかいないってのは、紛れもない事実だよ。空間に穴を空けて……なんてやったら、こうしてる意味がないからさ」
アルマは苦笑した。
「なんだよ、せっかくドラゴンメシを食えると思っていたのによ。実は不思議と腹減ってないから、どっちでもよかったけどね!!」
「もしかしたら、もう食べなくても平気になってるのかもね。僕もそんなにたべたいわけじゃなかったんだ」
僕は笑って杖を背中に戻した。
「よし、それじゃこのまま寝ちまおう。どこで寝たって同じだ!!」
アルマは草原に寝転がった。
「こりゃ気楽でいい。おやすみ!!」
アルマは小さく笑って目を閉じた。
「……アルマはこの程度で収まるか。ちょっと、暴れん坊さんくらいだね。苦し紛れだったけど、なんとか精神結界が間に合ったみたいだ」
暴れ疲れて早々に寝息を立てているアルマを見て、僕は小さく笑った。
「これをみて、師匠がどう判断したかはすぐ分かるか。最後にここを閉ざす鍵を託してあるからね」
僕もアルマの隣に転がり、そっと抱きついた。
よく寝ているアルマの体が、ゆっくりと半透明になってきた。
「……ほらね、やっぱりだ。破壊神なんてもんは、一人で十分だよ」
僕は小さく笑い、アルマから離れた。
その姿がすっと消え、僕は小さく笑った。
「全く、一人にしては広すぎたね。まあ、退屈はしなさそうだ」
僕はそっと立ち上がって、当て所なく草原を歩き始めた。
「神は神、何があっても痛いだけのランダム要素なんていれてないよ。僕の理性……どこまでもつかわからないけど、適当に歩こうか」
こうして僕は、自分で張った結界の中とはいえ、初めて一人旅をする事になった。
無論、アルマの事は生涯忘れないだろう。
向こうは迷惑だっただろうが、僕はこの出会いを感謝していたのだった。
(猫の魔法使いⅡ・完結)
猫の使い魔Ⅱ 封印結界旅日記 NEO @NEO
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます