復活の福音

ベームズ

夢の中で、

フワフワとした意識、体の感覚はあやふやで足元がおぼつかない。


が、不思議と全能感に包まれ、今ならなんでもできるきがする。



ずっと同じ場所にいるような、

でも同時に世界中を飛び回っているような不思議な感覚。



私はこの感覚を『精神体状態』と名付けた。


この精神体状態では、頭がボーっとして、まともに思考することも移動することも難しい。


移動速度は速いが、ものに触れることはできない。


そして、言葉では説明しずらいが、何だか空気の中に、流れのようなものを感じて、全身の力を抜くと、フワッと体が浮いた。


自分はどうなっているのか、深くは考えられない。


この状態になってから一体どれくらいの時間が経っただろうか、


私は、自分が生きているのか死んでいるのかすらわからないような中、ただ流れに身を任せるままに、漂っていた。


そんなある時、


気がついた。


今までは、テレビの前で番組を見ているような感覚だったのだが、


画面に触ってみると、テレビの中……の人間に入ることができたのだ。





人間の中に入って、その体を自由に動かすことができた。


自由に出ることもできるし、入っている間はものに触れることもできた。


世界中を飛び回りながら、気になったものがあれば近くの人間の中に入り、手に入れる。



そんなことを繰り返しながらさらに移動し、さまざまなものを見ては手に入れてきた。


今まで見たことのないような美しい渓谷に、キラキラと朝日を反射して輝く湖。


真っ暗な洞窟の中には光る苔が星のように光って、まるで夜空を見上げるようだった。


燃える山を見た時はその力強さに心踊った。


氷の大地に足を踏み入れた時は、この世の終わりにいるような感覚になった。



さまざまなな場所には、それぞれ不思議な力の源となっている場所があり、そこに目的の物があった訳だが、


そこへ立ち入り、目的のものを手にすることは、困難を極めた。


なぜなら、


人間の中に入る必要があったからだ。


精神体でなら、簡単に入ることはできたが、目的のものに触れることが出来なかった。


だからといって、そこらの人間の中に入ってそこへ行こうとすると、捕まった。



そこは当然立ち入り禁止の場所だからだ。





何度も見つかって捕まった。



捕まるたびにその体から抜け出して別の体にはいる。


別の体で入ろうとしてはまた捕まる。


時にはバッサリと斬り殺されたこともある。


その繰り返し。



意識は常に朦朧としていて、深く思考はできない。


思うように体を動かすことも難しい。



何度も無理だと思った。


今にも泣き出しそうだった。


こんなのおかしいだろうとやけになったこともある。



だが、


だからこそ、目的を達した時の達成感は最高だった。


一歩、また一歩と祈願の成就へ向けて前進していく感覚は、どれだけの時を生きても嫌になることはない。



だから、


「ふふ……ふふふ……」


ゆっくりと目を開ける。



だから、ついにこの時を迎えることが出来たのだ‼︎



この目覚めを噛みしめるかのごとく、ゆっくりと体を動かす。


私の復活を祝うかのごとく、大地は震え、空は暗く光を閉ざし、海は荒れ渦巻く。


動作を確認するかのごとく、翼を広げ、首を回す。



ついにこの時がきたのだ。



指を鳴らしたところであらためて感じる。


――生きている。と。


「人間どもよ‼︎神々よ‼︎私の姿を見よ‼︎貴様らがその記憶から消し去った、この姿を‼︎」


長い眠り、長い夢から覚める時が、


「そして思い出せ‼︎何千年経とうと、世代が変わろうと、決して忘れられないよう、本能に刻み込んだ恐怖を‼︎絶望を‼︎」


私の体をバラバラにして、燃える山に、秘密の湖に、誰も知らない洞窟に、誰も立ち入らない氷の大地に、隠して埋めた神々への恨みを晴らす時が、


「私は蘇ったぞ‼︎貴様らが平和にボケて捨てたものを思い出させるために‼︎」


だが、


今は"そんなこと"どうでもいい。


今はそう、この目覚めの時を喜ばねば、


「最高の目覚めだ……最高の目覚めだァ‼︎」


さァ、始めよう‼︎


あの時の続きを‼︎



「――逝くぞ‼︎」


この日、邪神の『最高の目覚め』と同時に、一つの世界は終わりを迎えた。

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