最高の感触

伊崎夢玖

第1話

寒くて起き上がると、俺は服を何も着ずに寝ていた。

所謂全裸だった。

(昨日は確か、皆で午後からゴブリンキング討伐に向かって、俺は攻撃を奴らから受けて…)

風邪を引いてなのか、攻撃の後遺症なのか分からないが、頭痛が酷い。

とにかく今の状況が分からない。

昨日の出来事を思い出そう。


昨日は朝、パーティーの仲間であるアリス、カンナ、ヤマトと四人でギルドのクエストである『スライムキングの討伐』をしていた。

『スライムキングの討伐』自体は午前中のうちに終わり、正午頃にギルドに戻ってクエスト完了の手続きと報奨金の受け取りをした。

昼食を食べ、午後からやることがなくなった俺たちは、ギルドのクエストで数時間で終わりそうな手頃なクエストを探していた時、ふと目に留まったのが『ゴブリンキングの討伐』だった。

ゴブリン自体は倒すことは難しくない。

しかし、『ここ最近村の近くにゴブリンの国ができた』、『最近誕生したゴブリン王が統括している』、『おかげでゴブリンの討伐が難しくなった』、と噂を耳にしたことがあった。

この噂を耳にした時は怖くてしばらくはゴブリン討伐クエストは控えようと思っていたはずだった。

それが、昨日に限っては何をやってもできるような気になっていた。

「このクエストにしようぜ?」

三人に問うと、三人は否と答えた。

「いくらスライムキングを倒したとはいえ、最近では組織力が上がって強くなったゴブリンですよ?無茶ですっ!」

「そうよ、アリスの言う通りよ。タスクは少し調子に乗っているわ。今日は午後はのんびり休暇にするべきよ」

「二人の言う通りです。僕らのパーティーで火力が強いのは戦士ファイターであるタスクしかいないのです。もし、討伐に行ってタスクに何かあったら僕らは全滅です」

三人とも必死に俺を止めようとした。

それがなぜかすごく気に障って、意固地になって無理矢理クエストを受けてしまった。

「これで、行かなきゃいけなくなったぜ?」

ニヤリと三人を見渡すと、もう呆れ返ってしまってた顔が三つあった。

アリスは回復と支援で支えてくれる補助魔法使プリーストい。

カンナは攻撃魔法で的確に相手を葬る属性魔法使ソーサラーい。

ヤマトは防御タンク役で、アリスとカンナを守りつつ、敵の注目を自分に引き付け、俺が攻撃しやすいように援護してくれる大盾使シールドセージい。

俺は近接戦闘カウンターで前線に出て次々と敵をなぎ倒す戦士ファイター

本当はあと一人くらい戦士が欲しいんだが、今のパーティーに新しく仲間が入って連携が崩れることが怖かったし、今のままでも十分戦えてこれたので、仲間募集はかけていない。


そうこうしている間に装備を整え、すぐに村を出発した。

ゴブリンの国は村から出て小一時間も歩いていない場所にあった。

そこはかつて広大な牧場を経営していた仲のいい夫婦がいたが、ゴブリンキングによって殺されてしまい、ゴブリンたちに乗っ取られてしまった場所だった。

元牧場なだけあって、拓けた土地。

隠れる所なんて限られる程度だった。

(俺が奇襲をかける。その隙に攻撃を)

俺は三人に手信号を送り、息を整え、大量にいるゴブリンの中に身を投じた。

結果的に言えば、俺の奇襲は成功した。

その間にカンナが攻撃魔法の詠唱をし、アリスは俺とカンナに攻撃上昇の補助魔法の詠唱をする。

二人の詠唱を邪魔されないようにヤマトは二人を守る。

うまくいくはずだった。

奇襲によって、統率が崩れたゴブリンを倒すことは全然困難ではなかった。

(このままいけるっ!)

完全に調子付いてしまった俺はゴブリンキングの所まで一直線に向かった。

それが最悪の結果になった。

ゴブリンキングは一匹ではなかった。

情報にはない、二匹いた。

(なぜ二匹いる!?)

動揺してしまった俺は攻撃を躊躇ってしまった。

その瞬間を奴らは逃さなかった。

一匹が近接戦闘専門、もう一匹が後方支援専門。

俺たち以上に連携が取れていた。

(しまったっ!攻撃が…避けられないっ!)

俺の腹に毒が塗り付けられた刃が刺さり、その後ろから火炎弾ファイヤーボールが矢のように体に浴びせられた。

そこで俺の記憶は途切れた。


(そうか…俺は生きているのか…)

あの怪我からよく生きられたと我ながら思う。

きっとカンナが必死に回復ヒール魔法をかけてくれたんだと思う。

あとで礼をしなければ。

ベッドから起き上がろうと、体の横に手をついた瞬間、何か物凄く柔らかい物に触れた。

今まで触れてきた何よりも柔らかい物。

それが何であるか全然理解できなかった。

布団をめくってみると、そこにいたのは全裸で寝ているカンナだった。

「なっ…!!」

動揺した俺はベッド上で後退った。

すると、またしても同じような柔らかい物に手が触れた。

「えっ…!?」

ベッドの上から布団を全部めくると、俺を中心として左にカンナが、右にアリスが全裸で寝ていた。

布団をめくられて寒かったのか、二人がぬくもりを得ようと俺に擦り寄ってきた。

腕に二人の胸の感触が直接当たる。

(最高だ…)

しかし、これを誰かに見られたらさすがにヤバいと思い、ベッドから出ようとした時、運悪くヤマトが部屋に入ってきた。

「タスク、起きまし……これはどういうことですか?」

部屋に入った瞬間はいつもの穏やかな表情だったのに、俺の置かれている状況を見て急激に怒っている。

「違うんだっ!これは俺が起きた時からこうなってて…」

「言い訳無用ですっ!」

ガツッと鈍い音が鳴り、俺はヤマトに渾身の一発を左頬に食らった。

ベッドが軋み、その衝撃で二人の胸に手が再び触れた。

二人が目覚めた。

「何事よ…」

「何ですかぁ?」

最初は寝ぼけていた二人だが、俺の手が胸を触っていることに気付くと顔を真っ赤にして平手を食らわしてきた。

「何すんのよっ!」

「何するんですかっ!」

三人から食らった拳と平手で再び俺は意識を失くした。


「起きて…さい…、タスク」

遠くで俺を呼んでいる声がする。

何だよ、人がいい気持ちでいるのに…。

目を開けると、アリスとカンナとヤマトがそこにいた。

「やっと起きましたっ!」

「起きるのが遅いわよっ」

「無事みたいでよかったです」

三人は笑顔で俺を迎え入れてくれた。

(どういうことだ?)

布団をめくると、ちゃんと服を着ている。

カンナもアリスも服を着ている。

そっと頬を抓ってみると痛い。

どうやらさっきまでのは夢だったらしい。

(すごい現実味リアリティーあった夢だったけどな…。感触とか本物みたいだったし…)

夢は深層心理を表すというし、もしかしたら欲求不満だったのかもしれない。


まぁ、三人が嬉しそうだからいいか。

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最高の感触 伊崎夢玖 @mkmk_69

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