乾いた魂が安息を求めて彷徨う

 前世では、最低のクズ親父に虐げられていた主人公。その親父を殺害したがために、さらなる苦界へと身を落とし、やがて失意のうちに死亡します。
 そして生まれ変わったのは、優しく暖かい家庭。アベルと名づけられた主人公は二親から剣と治癒術を学び、従者として貴族の家に召しだされることに。そこで冷たくも鋼のような少女騎士イース、そしてわがままで明るい令嬢カチェと出会い、やがて剣によって身を立てていきます。
 こう聞くとよくあるテンプレのようですが、この物語を単純な成り上がりモノとは一線を画した作品に引き上げているのが、主人公の内面の描写です。前世で報われることのなかった主人公。ひび割れ乾ききった魂は、己が何を求めているのかも分からぬままに大きすぎる欲望を持て余し、更なる力、戦い、暴力を求めて彷徨います。しかし天秤のもう一方では、今生の両親から受け取った愛情と倫理、出会い惹かれあった二人の女性がアベルの心を繋ぎとめてもいるのです。
 荒野を流離うアベルの魂はどこへゆくのか?愛を知って安息を得るのか、儚く一時の夢と散るのか、それともどこまでも遠くへ飛んでいくのか。大きなテーマを持った偉大な作品だと思います。

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