推定接触時刻11:46 出撃3分前
新巻へもん
パイロットの特権
「前方より敵艦隊接近中。各砲塔は砲撃用意。本艦は砲戦ののち機動兵器による接近戦で敵艦隊の攪乱を行う。推定接触時刻は1146。パイロットは1145までに各機にて出撃準備完了のこと」
内惑星連合に所属する戦艦SBスサノオの艦内にオペレーターの声が響く。
スサノオの中にある機動兵器のパイロットのたまり場では異様な光景が広がっていた。壁の戦術モニターに映し出される彼我の戦況図を無言で凝視するパイロット達の目の前には特殊加工された紙製の容器が置かれ、中からは
モニターの上部にある時計が11:42:00を差すと、パイロット達は一斉に容器の蓋をとり、スプーンで中身をかき混ぜ始める。時計回りに30回、反時計回りに30回ぴったりかき回すとスプーンで中身を口にかき込みだす。
控室の入口がシュッと開き、副艦長のジョンソン中佐が入って来る。
「お前らここで何をしとるんだ?!」
ジョンソン中佐は今回の作戦前にこの艦に着任したばかりで階級を笠に着た発言がクルーからの反発を招いていた。
パイロット達は返事もせず食事を続ける。食い終わったパイロットは自分たち内での会話を始めた。
「なあ、このインスタントカレーって200年前にはできてたんだってよ。控えめに言って天才だと俺は思うね。この200年で調理時間が1分に短くなっただけなんだってさ」
「准尉、この間もその話してましたよね。同じ話を繰り返すのはボケてきた……」
「フクダ曹長、偉そうな口を叩くようになったじゃねえか」
ジョンソン中佐は無視されたことで顔を真っ赤にして喚く。
「お前ら、一体どういうつもりだ?」
アンダーソン少尉が立ち上がり、カレーの容器に名残惜しそうな視線を送りながら返した。
「てめえこそ。何様だ。ここはパイロットのいる場所だ。てめえみたいにふんぞり返るだけの人間が入っていい場所じゃない。俺達パイロットは出撃時間までは好きに過ごしていいことになっているんだ。折角のランチが台無しだぜ」
4階級も下の者に横柄なセリフを吐かれ絶句するジョンソン中佐を尻目にアンダーソン少尉は空き容器を中佐に向かって投げつけ、自機のハンガーデッキに通ずるシューターの入口に向かう。部下たちも同じように次々と立ち上がり空き容器を投げつけ、シューターに向かう。
シューターに身を投げると10秒で愛機パルサのコクピットハッチ前に落下した。0.2Gの重力下ならではの軽快な動作で扉をつかんでクルリと回転し、バケットシートに納まる。自動的に6点ハーネスが体を固定、コクピットハッチが閉じた。
システムがアイドリング状態から発進準備完了へ移行するとヘルメットのインカムに向かって話しかける。
「こちらアンダーソン少尉。小隊各員応答せよ」
各員のオールクリアの唱和に満足したアンダーソン少尉は艦橋へと回線を切り替え報告する。
「アンダーソン小隊発進準備完了。いつでも行けるぜ」
オペレータの前の時計が11:44:55を差す。
「各機順次発進を許可する。幸運を」
「ああ。21年産のマルスワインを用意しておいてくれ。レーションCにはアレが一番だ。さて、ディナーの前に一仕事だ」
人類の命運を賭けた戦いが始まる。
推定接触時刻11:46 出撃3分前 新巻へもん @shakesama
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