リアル異世界転生について書いてみた。

佐久 満

第1話 リアル異世界転生について書いてみた。

 ネット小説といえば異世界転生。だが転生する先が異世界とは限らない。輪廻転生は本来ヒンズー教や仏教の概念だ。日本には転生についての客観的な記録が残っている。その代表例である「勝五郎再生記聞」について書いてみる。


 前世の記憶がある、などと言うと、三秒後にはすぐオカルトの話と思われる。まずは、ほぼ事実と確定している例を挙げてみよう。平田篤胤の「勝五郎再生記聞」である。岩波文庫から「仙境異聞・勝五郎再生記聞」として出版されている。以下がアマゾンのリンクである。


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 これは今からおよそ二百年前に、勝五郎という八歳の子供が、自分の前世の記憶を語った記録である。当時江戸でも大騒ぎとなり、平田篤胤が勝五郎の話を記録した。実は勝五郎の住む村の領主である、幕府旗本多門伝八郎がうわさを聞きつけ、勝五郎の家族を江戸に呼んで取り調べをしている。そしてその調書を幕府に提出しているのだが、「勝五郎再生記聞」の冒頭にはその写しが転載されている。つまりこの記録は幕府公認なのだ。もしこの調書が虚偽であれば、「勝五郎再生記聞」は幕府の調書を偽造したことになり、平田篤胤自身ただではすまない。(彼は後に幕府を批判したため、晩年に江戸追放処分を受けている。しかし本書については、特に処分は受けていない)


「勝五郎再生記聞」については、秋田魁新報が二〇一五年に詳しい連載記事を書いている。以下にリンクをはりつけておく。


http://umarekawari.org/sakigake/index.html


 この記事を読んでもらえれば分かるが、勝五郎の経験から始まった前世に関する研究は、その後アメリカのバージニア大学医学部での研究の切っ掛けになった。バージニア大学での研究成果をまとめた書籍を挙げておく。


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 これらの事実が示すものは何だろうか? まずいえることは、前世の記憶を持つ子供が少なすぎるという点である。全地球上の人口に対して、前世記憶を持つ子供はあまりに少ない。(もちろんこれは学術的研究において、確定的な例のみを問題にしている)これに対する説明として考えられるのは、幼児期健忘と呼ばれる現象である。人は三歳頃までの記憶は、成長するにつれて失われてゆく。この現象にいては最近でも多くの研究があり、解明されつつある分野である。注意すべきなのは、仮に転生が起こりうるとしても、全ての人間に起こるかは不明であるという点だ。幼児期健忘が起こるとしても、このような事例があったからといって、全人類に当てはまるとするのは、結論を急ぎすぎている。


 もう一つ、書いておかねばならないことがある。世間では、自殺すると地獄行きなどといわれている。しかし、バージニア大学の研究によれば、自殺した前世を持つという事例が報告されている。つまり、自殺しても転生は起こる。自殺すれば地獄へ行くというのは誤りなのだ。そもそも聖書には、自殺すれば地獄へ行くと言う記述はない。キリストの死後、中世に教会が言い始めたことらしい。そして焼身自殺する僧侶の事例から分かるように、仏教でも禁止されていない。そもそも密教には即身成仏の教義があり、日本には即身仏が多数現存している。そして空海は入定したとされている。ヒンズー教には、殉死という風習すらある。


 つまり自殺が良くないというのは、支配階級が奴隷階級に死なれては困るので作り出した虚構にすぎない。そんなばかばかしいシステムに付き合う必要は全くない。臨死体験で自殺するとネガティブな体験をするという報告例があるが、検証しようがないので真偽不明である。どちらを信じるかは、自分で判断するしかない。


 さて、これでどうやらリアル異世界転生は可能らしいという結論にたどりついた。(ただしこの場合、異世界転生というより、リアル同一世界転生だが、しかし、同じ世界かどうかなんて検証しようがない。多少細部が異なる世界であっても、幼児期健忘ですぐ忘れてしまう。従って、リアル多世界転生である可能性すらある。)あとは方法が分かればいい。幸いなことに、すでに「小説家になろう」において方法論を書いた作品がある。「自殺プランナー」(https://ncode.syosetu.com/n7742cx/)である。世の中では、「自殺自由法」という小説まで出版されている。


 ここで書いておきたいのだが、筆者は自殺を勧めるつもりでこの文章を書いているのではない。自殺など、しなくてすむのならしない方がいいに決まっている。ただ、夢破れ絶望することがあっても、それで終わりではない。諦めてはいけない! 敗者復活、リセットは可能なのだ。


 実用的アドバイスを書いておく。「勝五郎再生記聞」には転生を導く老人について描写されている。この人物が何者なのかは分かるはずもないが、あらゆる可能性を考えておくと、やはり転生するならチートである。当然だが転生先の環境、つまりどういう両親から生まれるか、そしてどういう能力を持つ体に生まれるかは重要である。日頃の行いには気をつけておくべきだろう。実行前には、献血などしておくとよいかもしれない。骨髄バンク登録、臓器提供意志登録などしておくとよいかもしれない。献血すれば確実に助かる命があるのだから、まさかマイナスにはならないだろう。無料なのだし、どうせ現世に未練はないのだろうし、ダメもとでやっておくべきだ。ただ現世においていじめで人を自殺に追い込んだりしている場合、今さら献血しても意味があるかは分からない。自殺するような人はたいてい自暴自棄になっていて、詰めが甘い場合が多い。どうせ死ぬなら、やれる事はやっておくべきだ。転生しても似たような極貧環境だった、なんて笑えない話だ。少しでもいい環境を目指すべきだ。


 人ごとみたいに書いているお前はどうなんだ、という声が聞こえてきそうだ。もちろん高いところから書くつもりなどない。いずれ私の番も来るだろう。死は万人に平等だ。それが一年後か、一カ月後かは分からない。しかし必ず私の番も来るだろう。既に覚悟はできている。もちろん転生が起こらない可能性もある。それならそれで構わない。来世なんてない方が楽かもしれない。死んでみれば分かるだろう。


 誤解しないで欲しいのだが、私は善行をしろなどというつもりも、徳を積めというつもりも全くない。そんなことはどうでもいい。このクソみたいな迷路からいかに脱出するか、それしか考えていない。金持ちが人殺しをしないですむのは、たまたま金を持っていたからにすぎない。そいつらが天国行きで、貧乏人は地獄行きなんてクソすぎるだろう。できることは何でもしておく。それだけである。


 さて、これは自殺を勧める文章ではないと書いた以上、まだ終わるわけにはいかない。


 そこで、可能な限り、「勝五郎再生記聞」を科学的あるいは哲学的に考察してみる。転生とは何か、と考えると、まず考えられるのはマインドアップロードの一種ではないかという解釈だ。現時点でクオリアや意識の正体が不明である以上、新生児の脳に前世の人格がマインドアップロードされた、というのが合理的解釈というものだろう。だとすれば「新生児の脳に記憶をマインドアップロードする方法がある」ということになる。しかし幼児期健忘によってやがて記憶は失われてしまう。それをマインドアップロードと呼んでよいかはともかく、以前の記憶が失われてしまうのでは、本来の目的は達成できないことになる。


 意識とはコネクトームである、とするなら、以上の議論自体が無意味だが、実験によってある程度明確にする事はできる。例えば、一卵性双生児やクローンベビーのグループを用意して、一般人グループとの間で、転生記憶を持つ者の比率を調査する。そして統計的差異が見られれば、コネクトームと人格との因果関係があるかが分かるだろう。ただしこの実験を行うには、大量のクローンベビーが必要だ。しかもクローンベビーといえども、コネクトームが全く同じわけではない。それをどのように比較評価するかという問題がある。


 脳オルガノイドを使えば、もっと精度の高い実験が可能である。脳オルガノイドとは何かは以下のリンクを読んでもらいたい。


https://ncode.syosetu.com/n3070ff/


 このリンク先の文章は、筆者が小説家になろうで書いたものだ。ここからはやや専門的内容になる。難しい話が苦手なら、読み飛ばしてもらって構わない。実際のところ、ここから先は蛇足である。では脳オルガノイド実験の話を続ける。このような実験を行う以前の問題として、そもそも脳オルガノイドは意識を持つのか? という問題がある。そして、有性生殖でもないのに、前世記憶はあるのか? それ以前に意識はいつ発生するのか? など解決すべき問題は多い。とにかく確認したいのは、


 脳オルガノイドが意識を持つとしたら、前世記憶を持つことは可能なのか?


 という疑問である。脳オルガノイドなら大量にコピーを作る事は可能だろうし、全て同一のコネクトームに加工することも(将来的には)可能だろう。そうであれば、コネクトームが意識の実体であるなら、脳オルガノイドのコピーは全て同じ記憶と人格を持つはずだ。そして、にもかかわらず、転生記憶を持つ脳オルガノイドが出現すれば、コネクトームに依存しない記憶、人格が存在することになる。この実験によって物理主義が正しいかどうかという議論に答えを出すことができる。


 ただ、転生記憶を持つという事実自体が、既に物理主義で説明することが難しい。どうやらわれわれの科学的認識は、再び根底から覆されることになりそうだ。


 そんな時代が来ることを、楽しみにしている自分がいる。








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