生け都市バトル ラスト3分間実況

快亭木魚

生け都市バトルの実況と解説

「さあ、生け都市バトル最終戦、残り時間も少なくなってまいりました。実況は私、ロストワールド鶯谷、解説は生け都市バトルの第一人者、デスゾーン六本木さんです。


ここまでの展開をおさらいしたいと思います。


ビッグシティ板橋選手、最初からビルを生けてきました。このビルはその高さ、形からサンシャイン60だと推測できます。


高速道路をうねらせて配置し、車の交通量を調整していく板橋選手。さらに人通りの多いサンシャイン通りを作り、池袋の再現をはかっているかのように見えました。


ところが、東京タワーや東京ドーム、雷門やスカイツリーに六本木ヒルズまで建てていきます。どうやら東京都の再現を狙っているのかのように見えます。ここまでの展開をどう思われますか、解説のデスゾーン六本木さん?」


「生け都市ではビルや道路の生け方がポイントになりますからね。花を生けるかのごとく都市を生けていく。たとえ現実味のない都市が出来上がってもいいんです。生き生きしていることが大切です。


そういう意味では、板橋選手の都市はかなり生き生きしていると言えるでしょう。東京タワーもスカイツリーも器におさまりきらず、かなり斜めに傾いて生けられています。普通の都市の再現ではおかしく見えるんですけど、これは生け都市バトルですから、傾いて建っていて正解なんです。


あの傾き、小さな器にたくさんのビルや構造物を無理矢理詰め込んでいくところは、東京という都市のメタファーにも思えますね」


「そうですね。たしかに、デス六さんの言うとおり、都市を生ける器がけっこう小さいんですよね。かなり放射状にビルを突っ込んでいき、器の上でビルの花が咲いているかのように見えます」


「え、デス六って、ちょっとその呼び方ひどくない?六本木さんでよくない?」


「制限時間をどう使うかもポイントですよね、デス六さん!


さあ、残り時間が3分となりました。板橋選手、ここからどう展開していくのか?


あーっと!なんということだ、板橋選手、唐突にサンシャインシティや東京タワーをパンチで破壊していきます!東京ドームにいたっては、あの屋根が壊れて中の球場の様子まで見えていますね。9対0のスコアボードまで見えます。


板橋選手、いったいどうしたんでしょう?デス六さん、これは一体どういうことでしょうか?」


「これは生け都市技法の一つ『カタストロフィシティ』ですね。あえて生けたビルや構造物を破壊していくことで、都市の朽ちた美しさを表現しているのです。


廃墟が最近人気あるじゃないですか。人は廃墟、朽ちた構造物に美を感じるものです。ゴジラが都市を破壊するのもある種のカタルシスがありますよね。生け都市でそのカタルシスを狙っているんですね。


いやしかし、スカイツリー折り曲げないで欲しいなあ。個人的にこないだ天望デッキ行ってきたばかりだから、ちょっと悲しいものがありますね。


あと、六本木ヒルズを目茶苦茶に破壊してるよなあ。六本木に恨みでもあるのかなあ。マジデスゾーンになっていく六本木を見て、デス六へこみます」


「おっと、自分でデス六さん呼びを認めてしまうほどの衝撃なんですね!


さあ、板橋選手、残り時間少ない中で今度は高速道路に車をたくさんぶちまけていきます!」


「ああ、車がたくさん転がってきて高速道路が渋滞しちゃったよ。まさに混乱を表現していると言えますね」


「さあ、残り時間あと2分です!板橋選手、さらに道路にたくさん人を配置していきます。すごい!すごい勢いでビルから飛び出した人達が道路にあふれていきます!」


「人を生ける手際の良さがすごい!まさに巧の技ですよね。


東京ドームの試合、9回表で9対0かあ。まあ、ここから逆転は難しいだろうから、試合見守るより逃げるのが正解だよなあ。


ドームから逃げる人達のポーズが盗塁走者っぽいところも凝ってますよね。生け都市では人間の生け方もポイントになりますから。かなり生き生きした人達の動きが見てとれます」


「さあ、残り時間あと1分だ!ああ、なんと!ここで板橋選手、器の真ん中にあたる部分に長く光る棒を立てます!


これは一体何を表現しているのでしょうか?この光る棒に向かって吸い寄せられていくように人を配置してますね」


「天に召される人を表現しているのかなあ?その割にはちょっとポーズとかマヌケな感じなんですよね。


天に召されるというより逃げている途中の人が光の柱に吸い寄せられて昇っていく表現になってますよね。これ何だろう?」


「さあ、残り時間は30秒をきりました!ああ、なんとここで板橋選手、光の棒の頂点に逆さまにした器を取り付けます!これで、板橋選手の生け都市は、上下にちょっと深めの器で挟まれた形になりました!


器を中心にして、花が咲くように朽ちた高層ビル群が生けられています!


最後、板橋選手はビルの角度を調整して、全体のかたちを整えていきます!


そして…3、2、1!終了です!


制限時間の30分を最後まで使い切りました、板橋選手。さあデス六さん、完成した板橋選手の作品を見て、どう思われますか?」


「いやあ、残り3分が怒涛の展開でしたね。まさか池袋から東京都になり、さらに破壊されるとは、っていうね。


しかもですね。この器、一番下と一番上で同じ形のものを使ってますよね。これ、僕気づいたんですよ」


「どういうことでしょうか?」


「これ、最初の段階で妙に小さくてモダンなデザインの器だと思ってたんですよね。最後、器をひっくり返して頂点に置いたところで分かりました。


この器は空飛ぶ円盤なんですよ!」


「円盤?UFOですか?」


「そう!UFOを表現しているんですよ!上のUFOから光の棒が垂れ下がってきて、それに人々と都市が引っ張られてる表現なんですよ。


上のUFOと下のUFOで挟んで、東京の都市ごと生け捕りにしてるんです!『生け都市』だけに!」


「なんと!都市ごと誘拐されていたということですね!」


「そういうことです。UFOによる東京のアブダクションでなんですよ。


だから、逃げまどう人達も何が起こってるかよく分かってないんです。マヌケな人のポーズで、その混乱もうまく表現しているんですね。


災害や攻撃で都市が破壊されたのではなく、強引に都市ごと誘拐したから、その影響でビルや構造物が壊れてしまった、という表現なんですよ。さすが板橋選手、一流の生け都市リストと言えますね」


「さあ、審査員と観客による投票が行われます。板橋選手の得点は果たしてどこまでのびるのでしょうか?」


「これは高得点行くんじゃないかなあ」


「はい、集計が終わって…得点が発表されます!


出ました!27点、38点、39点、合計104点!今期最高得点が出ました!


104点、トシ点です!2位との大差をつけて、ビッグシティ板橋選手、堂々の優勝です!」


「これは拍手喝采ですよ。30分で、よくここまでのストーリー展開を作り上げました。圧巻です。ただ六本木は壊しすぎだけどね」


「場内から一斉に巻き起こる拍手。ビッグシティ板橋選手、満面の笑みで観客にお辞儀しています。その顔は、まさにやりきった人間そのもの。さすが板橋選手ですね」


「うん、すごいすごい。でもやっぱり六本木は壊し過ぎだよなあ。確かにどこが1階か2階かも分かりにくくて、初めて来た人が迷いやすいスポットだけどさあ。破壊されて余計どこが1階か2階か分からなくなってるしさあ。デス六悲しい」


「まだ言ってますね、デス六さん!


さあ、第26回生け都市バトル、優勝はビッグシティ板橋選手で幕を閉じました。


ここまでの実況は私、ロストワールド鶯谷、解説は生け都市バトルの第一人者、デスゾーン六本木さんでした。


生ける都市こそ生ける花。咲かせてみせよう都市フラワー。


生け都市バトルはまだまだ続きます。次回、第27回大会でまたお会いしましょう!それでは、シーユーイケシティ!」


「シーユーイケシティ!デス六、イジケシティ」


(終)

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