おまけ ~魔法生物のジョー太郎~



 ワタクシの名前はジョー太郎。僭越ながら、東雲茉莉香どのの、パートナーをつとめさせてもらっているであります。

 今日は先日仲間となった静どのも交えて、茉莉香どのの部屋で夜のお茶会なのであります。


「というわけで、静ちゃんの歓迎を祝して、かんぱーい」

「乾杯」

「乾杯であります!」

 茉莉香どのの音頭に合わせて静どのとワタクシがコップをかかげる。

 もちろん中身はジュースなのでご安心を。

 それぞれ口につけてぷはーっと大きく息を吐き出す。

「いやあ、それにしてもしーちゃんが仲間になって本当によかったよ」

「いっときはどうなることかと思ったでありますが」

「ご迷惑をおかけしました」

 静どのがぺこりと頭をさげます。が、茉莉香どのは頭を横に振りました。

「いいんだよ、ぶつかりあうことでわかったことも多いし、しーちゃんのことをよく知ることができたから」

 そう言うと、何かを思い出すかのように茉莉香どのが遠くのほうを見ました。

「もしかして、茉莉香さんにアドバイスしてくれた人がいる?」

「えっ、えと、それは」

「もしかして、野々崎さん?」

「あ、あ~」

 静どのの立て続けの質問に対して茉莉香どのが耳も含めて顔を真っ赤にしてうつむきます。

 明らかにばればれといった様子であります。

「前々から思っていたんだけど、野々崎さんと茉莉香さんって付き合って、る?」

 静どののつぶやきに対して茉莉香どのがあわてて首を振りました。

「ううん、違うよ! 単に私の片思いなだけで!」

 言った瞬間、はっとなって、茉莉香どのが口をおさえた。

「なるほど、茉莉香さんは野々崎さんのことが好き、と」

 静どのの言葉に、茉莉香どのがこれ以上ないほどに顔を真っ赤になりました。それは聞き捨てならないであります!

「ええー、茉莉香どの、あのむっつりすけべのどこがいいのでありますか!?」

「むっつりすけべ……」

「う、否定はできないけど」

 静どのの言葉に対して、茉莉香どのも思い当たるところがあるのかしぶい顔を浮かべます。

「確かに、この間茉莉香さんが変身するところを見て、野々崎さんが今日は白にストライプかってつぶやいてた……」

 静どのの言葉に思わず茉莉香どのが顔を真っ赤にさせてパジャマのズボンをばっとおさえました。

 それを見て、ワタクシはうんうんとうなずく。まったく、神聖なる変身の場をいやらしい目で見るなど最低であります。

「まあ、それはともかくとして、野々崎さんは茉莉香さんのことをどう思ってるんでしょう?」

 静どのがつぶやき、それに対して茉莉香どのが、はうっと声をあげました。

 野々崎どのが茉莉香どのをどう思っているか、でありますか。

 そういえば、静どのと茉莉香どのが戦いながら絆を深めあっている間にワタクシは野々崎どのと行動を一緒にしたことがありました。

 ……あのときのことを思い出すと、いまだに背筋が震えるのでありますが。

「魔獣軍の将軍であるスコーピオに狙われたのでありますが、そのときスコーピオが野々崎どのに言ったんです。東雲茉莉香と恋仲の男というのはお前か、と。


 ぶふうっ。


 茉莉香どのが盛大にジュースを吹きだした。

「おーう」

 静どのが表情を変えないままにつぶやきます。果たして、話の内容に対してつぶやいたのか、それとも茉莉香どのが吹き上げる様子を見て思ったのか。

 横から伸びてきた手にいきなり体をぐわしっとつかまれました。

「ちょっと、ちょっと、ジョー太郎、そしたら健吾君なんて言ったの、教えなさい!」

「そ、そんな、がく、がくがくされては話せないでありますぅ」

 茉莉香どのにゆさぶられ、目を回すと、茉莉香どのが手を放してくださいました。

「で、野々崎さんはなんて言ったの?」

 静どのが無表情ながらも興味津々に問いかけます。


「え、えーとサソリ男がそう言った直後、野々崎どのがキレたんです」


 その言葉を聞いた瞬間、二人の目が点になりました。

「キレ……」

「た??」

 茉莉香どの、次いで静どのが呟きます。

「はい、そりゃもう。そのあとサソリ男に対してバッグを振りかぶって殴り飛ばすぐらい」

 あのときのことを思い出してワタクシがうんうんとうなずく。

「え? え? ってことは、つまり……」

 茉莉香どのが混乱したようにつぶやいたので、ワタクシは結論を言いました。


「つまり、野々崎どのは茉莉香どのと付き合っていると勘違いされて怒ったのではないでしょうか?」


「そ、それって、健吾君は私のことが嫌いってことじゃない!」

 うわーん、と茉莉香どのが枕に顔をうずめて泣き出しました。

 その様子を見て、事実とはいえ胸が少し痛むであります。

 それに対して静どのが何か考え込むように首を傾けます。

「ねえ、ジョー太郎。その前後のやり取りについてくわしく教えてもらっていい?」

 静どのにワタクシは懇切丁寧に事細かく伝えました。

 すると、

「ああ、そっか、うんなるほどね」

 一人納得したように静どのがうなずきました。

 静どのが視線を隣に向けると、相変わらず茉莉香どのが枕に顔をうずめていました。

 それを見ると、静どのはワタクシに視線を向けました。

 どうしてでしょう、心なしかその視線が冷え切っているように感じるであります。

「……とりあえず、今日のことは野々崎さんに言っておくから、ジョー太郎、頑張って生き延びてね」

 そういうと、静どのは親指を上げてワタクシのことを見ました。

 なんでしょう、激励を受けているはずなのに、なんか死刑宣告を受けた気分でありますぅ!



 そんなこんなで夜は更けていきましたが、静どのの言葉を理解したのはだいぶ経ってからでありました……。

 ただ一言述べるなら、茉莉香どのが魔法少女なら野々崎どのは魔王であります……ガクッ。



 後日、学校の校庭の隅っこの木にはぶすぶすと焦げたイタチのような生物がロープで簀巻きにされ、吊るされており、茉莉香たちの学校では保健所を呼ぶ騒動になったとか、ならなかったとか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

物語のとなりの人 螢音 芳 @kene-kao

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ