最後の三分は、ドッタンバッタン大騒ぎ

亥BAR

※地球滅亡まで、あと三分

『あと三分で地球は滅亡します』


 僕の箸からジャガイモが落ちた。

 沈黙。娘と妻の三人で食事中、全員が綺麗に停止していた。


 ニュースキャスターのお姉さんはさらに続ける。

『えぇ。皆さん、どうか……パニックに……』

 お姉さんの手が震え始めたかと思えば、机をバンと叩いた。


『なるわーーっ!! どうしろと!? わたしにこのニュースを読ませてどないせぇっちゅうねん!? アホちゃう!? ホンマアホやで自分! 自分や……いや、プロデューサー、自分のことやが』

『しばらくお待ちください』


 テレビの画面がお花畑に切り替わる。

 娘の持つ箸からニンジンがポトリと落ちた。


 その後、テレビの画面が普及。だが、出てくるのは文字だけ。

『地球上に住むありとあらゆる存在にお伝えします。最後の二分二十秒を悔いなくお過ごしくださいませ』


 三分から着実かつ非情に進む時間とともに、妻の箸から豚肉がズルリと落ちた。


「……えっと……この肉じゃが……うまいな。だよな?」

「……う、うん」

「……そう……よかった」


 沈黙。

「「「うんっ!?」」」

 ※一分経過、残り二分。


――

 一方その頃、B家では


「……えっ!? ちょ……、えっ!?」

 無意味にメシとテレビを交互に見る夫。

「……うん? うん? うん?」

 ひたすらにテレビの画面を睨み続ける妻。


「「ギャァアァアアアアアアアっ!?」」

 この夫婦、絶賛パニック中。

――


「これドッキリだよね?」

「だろうな」


 ……なんだろう。公式のニュースなのに、このまったくもって信じられない感。ていうか、理由は!? 理由は!?

 いや、本当に残り三分なら理由だけ聞いて終わっちまうのか……。


 ……どないせぇとっ!?

 そうだ、ググろう!


『【速報】【悲報】【朗報】地球滅亡、カウントダウン!』

『地球が滅亡まであと二分を切った件www』

『地球滅亡って聞いたけどワイ、バイト中。帰るっつったら、ダメって言われたったwwwwwww』


 スレが乱立していた。

 例えどういう状況でもネットに潜り込むやつはいるらしい。


 しかし、公式のニュースは一つもない。まぁ、最後の三分で仕事などするはず無かろう。そんな素早く作れないだろうし。

 あれ? 僕なんかすごく冷静だぞ?


 さらっとスレを覗いてみた。

『245.マジかよwww終わったwww』

『285.理由を述べよ!理由を述べよ!バンッ!!』

『452.どう考えてもジョークだろ?』

『764.マジかよ、これからカップ麺食おうと思ったのに\(^o^)/オワタ』

『842.>>764お前は俺か』

『843.>>764同じくww』

『844.>>764おまおれ』

~~~~

『951.>>764 おまおれ』

『952.>>764おまおれ』

『953.>>764おまおれ』


 取り敢えず打ち込んでおいた。

『982.>>764 おまおれ』


 ※十五秒経過、残り一分四十五秒

 ふぅ……スッキリ。


――

 一方B家では

「どうしょっどうしょっどうしょっどうしょっ」

「なんかないかなんかないかなんかないかなんか」

 家の中を無意味に駆け回っていた。

――


「で、どうする?」

 僕は落ち着きを取り戻し、妻に問うてみる。

「……カップ麺は食べられないよね」


 ……どうやら、妻も同じ思考回路らしい。君を好きになったことは、間違いではなかったと改めて実感したよ。

 時間の都合上、ハグはしないが。


 なお、テレビはあの文字もまた消えて、さっきからずっとお花畑の映像が続いている。あと一分四十秒後に見ている景色もあんな感じなのだろうか……。


「……あたし……ゲームしてくる」

「おう、してこい! 好きなだけして来い! 一時間以上してても怒らないからな!!」


 フラフラと席を立つと娘は任〇堂のゲームをしにいった。妻は普段なら「ご飯は残さない! 食事中に立たない!」と怒っていたが、今の妻は違った。


「……あたしもゲームしよ」

 そう言ってスマホに目を通し始める。


 ……だよね。そうなるよね、今の時代じゃね。手元に有るのはスマホかゲームだもん。取り敢えずそこに手を伸ばすよねっ!?

 にしても、どうしよう。地球滅亡まで一分半以上ある……。



 暇だな。


――

 一方B家


「け、警察!? 警察に電話!」

「え……えっと……番号……11……9?」

「バカ! 117だろうが!!」

「あっ、そうか!」

 現在の時刻を妻が聞いていた。

――


 まじ、暇だ。

 いざとなれば結構時間あるよね、余っちゃうよね。何しよう。あと一分半も遊べるんだぜ? ワクワクしかないね。


「キアタァ!!!」

 妻が叫ぶ!

「ログインガチャで最高レアゲットしたよ! ほら見てみて」


 ちらりと見ると、キラキラ輝くキャラクターが画面に映っていた。

「ツイートしよっと」

 妻よ、楽しそうでなりよりです。


――

 B家

「だから、時間なんていいら! 十二時二十一分をお知らせしなくていいよ!?」

「もういい! 話にならん。切れ! 切っちまえ!!」

――


そうだ、せっかくだし、YouTubeを覗いてみるか……、これほど美味しいネタ、逃さないわけがないよね?


『地球滅亡、最後の生放送をやってみる』

『俺の最後はビートボックスでしめる!!』

『地球が滅亡するらしいのでなんとかしたい』

『Let’s CountDown!! World of destruction!』

『Deliver to you guys. Last 3 minute of me.』


 さすがプロ。YouTuberは伊達じゃない。


「にしても……マジでネット重いよな」

「それな!」


 妻がビシッと僕に向かって指差す。

「時間がないってのに、回線遅いんだもん。……あぁ、イライラしてきた」


 どうやら、世界中の人々がネットを一斉に使い、パンク寸前らしい。

 そのおかげで妻の機嫌がどんどん悪くなってくる。やだなぁ。


――

 B家

「なんで、親にも電話つながらねえんだ!?」

「こっちも……やばいやばいよ! マジで繋がらない!? どうすんの!? どうすんの!? ねえ、どんすんの!?」

 電話の回線はパンパンになっていた。

――


 ※三十秒経過、残り一分。


 もう、完全にネットが繋がらなくなってしまった。やべぇ、本格的にすることなくなってきた。ネット繋がらないとか、マジどうすりゃいいんだよ。


「ったく、なんかいいテレビやってねぇかな……」

 お花畑の画面を切り替え、チャンネルを回していく。だが、全部似たような状況。海やボートや森や、ザーッやら、ピーやら。


 見るものもない。

 本当にやることないので、肉じゃがを一口食べた。うん、うまい。

 

「あぁ、もう、やってらんない。ゲーム落ちた」

 妻もスマホを投げだす。


 ただ、娘はオフラインゲームのため、たくましくゲームしている。

「「オフライン、最強っ!?」


――

 B家

「そうだ、避難だ! 避難の準備だ!」

「そ、そうか! なに持ってこう!? お金!? 水!? あぁ、スマホ。あぁ、あと充電器!!」

「それと、漫画。あぁ、俺の秘蔵コレクション!? これだけは命に変えてでもぉ!?」

 ※地球滅亡まで、あと三十秒。

――


 妻と僕、互いに顔を見合わせる。

「……」


 頷き合うと、走りよりゲームをする娘の横についた。

 僕と妻でしっかり娘を挟み込む。


 娘もゲームを置いて、僕たちを見てくる。

「お父さん……お母さん……終わるのかな?」

「……大丈夫。お父さんがついてるから」

 娘の言葉を心に染みこませ、ぐっと肩を寄せた。


「ほら、家族写真、とるぞ」

 妻の肩も引き寄せてスマホの自撮りカメラを起動する。


「はい、笑って。チーズ!」

 そうして、スマホの画面。いい笑顔に包まれた仲良し家族の一枚が出来上がる……より先にスマホの電源が切れた。

 ※十秒経過、残り二十秒。


――

 B家

「避難所!? 避難所!?」

「待って! アレ持ってない! アレまで持ってない!?」

「ねぇ、どこ逃げたらいいの? 俺たちどこ逃げたらいいの!?」

「うるさい! いいからあたしの指輪をっ!?」

――


「……あっ」

 痛い……ものすごく痛い沈黙。


 さっきまで地球滅亡とかいうしょうもないことに気を取られていたから、充電が残り少なかったことにすら、気づいていなかった。


「だ……大丈夫。あたしのスマホがあるか……しまった、机の上!?」

 ここからさっきいたダイニングの机までダッシュで五秒。スマホを一秒で取るとして往復合わせて十一秒……間に合うか!?


――

「指輪!? そんなのどうでもいいだろ!?

「ダメだよ! だって、だって……」

――


 ※十秒経過、地球滅亡まで残り十秒。

「俺に……まかせろぉおおお!!」

 僕、地球滅亡前、全力で男を見せてみた。

――

「あんたがくれた、初めてのプレゼントだもん!」

――


※9秒

※8秒

 僕はリビングに到着。

――

 夫、妻の言葉が心にささる。

――


※七秒

 颯爽と僕は妻のスマホを取る。

 そのままUターン。妻と娘のもとへ!!

――

「お……お前、そんなに……」

――


※六秒

 走りながら操作。カメラを起動……。

 しまった、ロックかかってる!?

――

「ケイコっ!」

「だから、待ってて!!」スカッ

 夫のハグはスルー。妻は走り出す。

――


※五

 こうなったら妻のもとへいち早くつき、一秒でロック解除をしてもらうために……

――

「いや、そこは抱き合いエンドだろぉお!?」

――


※四

「いぃっ!?」

 僕はドアのカドに足の小指ぶつけたっ!?

――

「いぃっ!?」

 妻がタンスのカドに足の小指をぶつけたっ!?

――


※三

 崩れ落ちる僕。

――

 もがき苦しむ妻。

――


※二

 立ち上がる妻。

 ボーゼンとする娘。

――

 駆け寄る夫

――


※一

 僕は小指の痛みに呻きつつ……。

――

 夫の手が妻の手に触れようとするその直前……

――


 ゼロ


 はい、ドッカーン!! 地✩球★滅✩亡。

 チャンチャン。



 さて、ここで皆さんに問います。


 残り三分で地球滅亡するとしたら、皆さんはどう、最後の三分を過ごしますか?

 正直、彼らのように、パニックになって何もできず終わるか、ネットに執着したまま終わるひとが……大半のような気がします。


 あれだわ、……ネット最強。あと、カド。

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最後の三分は、ドッタンバッタン大騒ぎ 亥BAR @tadasi

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