超合神ロボ・カラテンガー3
澤田慎梧
超合神ロボ・カラテンガー3
――二〇XX年、日本は
何処からか現れた悪の秘密組織「ゴムゴム」が、日本征服を宣言し、戦いを仕掛けてきたのだ!
既に、日本各地ではゴムゴムによるものと思われるテロ事件が頻発していた。
前途ある
筋骨隆々とした虎型怪人が、全国の空手道場を次々に襲い看板を奪っていくという「驚異! カラテタイガー事件」。
結婚間近の男女を別れさせ、日本の少子化を加速させようという「破談! 別れさせ屋怪人イケゴリラー事件」。
……他にも細かい事件を数えれば、枚挙にいとまがない。
中でも日本国民を恐怖させたのは、ゴムゴムが操る「巨大怪獣」の襲撃であった。
週に一度、ゴムゴムが事前に予告した地域を高層ビル並の大きさを持った巨大怪獣が襲撃し、破壊の限りを尽くしていたのだ。
そのせいで、ゴムゴムが予告動画を配信している動画サイト「ゴムチューブ」は、今や日本でもっとも注目を集める動画配信サイトとなってしまっていた――。
もちろん、日本政府もただ手をこまねいていたわけではない。
「既に有事である」と判断した政府は、自衛隊を出動させていたが……彼らの攻撃は全て徒労に終わっていた。
「巨大怪獣」には、何故か飛び道具が一切通用しないのだ。
機関砲も迫撃砲も戦車砲も、誘導弾でさえも巨大怪獣に届く前に「謎のバリア」によって妨げられてしまっていた。
米軍も早々にゴムゴムとの不戦協定を結んでしまい――日本はただ征服されるのを待つのみかと思われた。
――だが日本にはまだ、希望が残されていた!
天才科学者・倉田博士――十年以上も前から「悪の秘密組織」の存在を世間に訴え、学会からは「いい人なんだけどちょっと頭が……」と生暖かい目で見られていた孤高の科学者が、ゴムゴムの巨大怪獣への対策案を政府にもたらしたのだ。
「巨大怪獣に飛び道具は通用しない……奴らにダメージを与えられるのは、懐に飛び込んでの近接格闘攻撃のみ!」
一見荒唐無稽に聞こえる倉田博士の説だったが、実はそれを裏付ける報告が日本政府に寄せられていた。
とある街に巨大怪獣が現れた際、旅の格闘家が避難勧告を無視して怪獣へと駆け寄ったという事件が起こっていた。
その格闘家は、「俺より強いやつと戦いたい」等と叫びながら徒手空拳で巨大怪獣に挑み――なんと、弁慶の泣き所を集中攻撃して、巨大怪獣をひるませたというのだ!
――ちなみに、その格闘家はその後すぐに怪獣に丸呑みにされた。
格闘家は怪獣の胃の中でも生き延び、体内生物との死闘を繰り広げたらしいのだが……それは大筋には関係ない話なので、ここでは割愛する。
とにもかくにも、巨大怪獣に近接格闘攻撃が有効であるという話に裏付けが出来たことで、倉田博士の計画は実行に移される運びとなった。
――「巨大合体ロボット建造計画」である。
巨大怪獣と同サイズの人型格闘ロボットを建造し、格闘戦で戦おうというのだ。
博士は既に、実現可能なロボットの設計図と建造計画を完成させていた。
「なんで人型?」「合体させる意味はあるの?」という疑問は当然のように出てきたが、博士の、
「それが
という言葉を前に、人々は「よく分からんが天才の言うことだから、きっと意味があるのだろう」と納得せざるを得なかった――。
――そしてやや突貫工事気味に巨大ロボットの建造が進められ、完成した。
巨大戦闘機と巨大装甲車、巨大トレーラーの三つのメカが一つになって人型ロボットとなる「カラテンガー3」の完成である。
事前のシミュレーションでは、カラテンガー3の性能は圧倒的であった。今までに出現した様々な巨大怪獣、そのどれと戦っても完璧に勝利すると、コンピュータがはじき出していた。
だが――そんなカラテンガー3にも不安要素があった。
変形合体機構という複雑な仕組みを導入した為に、人型形態での活動時間に制限があったのだ。可動限界を超えると、最悪バラバラになってしまう。
その為、巨大戦闘機と巨大装甲車、巨大トレーラーそれぞれが分離状態で現場へ駆け付けることになるのだが……そこにも更に不安要素があった。
三機の変形・合体には、数分の時間を要するのだ。その間、カラテンガー3は完全な無防備状態になる。
しかし、その点を指摘された倉田博士は、こう答えたという。
「変形・合体中は攻撃しないのが
人々は「天才の言うことだからきっと次元が一つ違うのだろう」と無理矢理に納得するのだった――。
そして、遂にカラテンガー3の初陣の日がやってきた。
「ゴムチューブ」上に、巨大怪獣の襲撃予告動画がアップされたのだ。
その動画が指し示す次なる攻撃目標は――東京。カラテンガー3の初陣は首都決戦となった。
「――博士! 本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ……カラテンガー3と
隊長兼メイン・パイロットに抜擢された青年・藤岡が不安を口にするが、博士は自信満々だ。藤岡もそれを信じるしか無い。
「……ええい、ままよ! 一号機、発進します!」
藤岡の合図で、巨大戦闘機が、巨大装甲車が、巨大トレーラーが、それぞれ発進する。
怪獣は既に、富士山方面から現れ都心へ進撃中だった。最早一刻の猶予もない!
「――怪獣を視認しました! これより合体シークエンスに入ります!」
怪獣を目視した藤岡の合図で、各機が変形・合体シークエンスへ入る。
制御系はAIが完璧にこなしてくれるので不安は無いが……やはり合体途中で襲われないかだけが心配であった。
博士は繰り返し「大丈夫。そういう
だが――。
「――!?っ た、隊長! 大変です! 怪獣が……怪獣が猛スピードでこちらへ向かってきます!」
「な、何だとぉ!?」
変形しながら浮上中だった二号機――巨大装甲車のパイロットの報告に、藤岡が顔をあげると――そこには既に目前に迫った巨大怪獣の姿が!
(――あ、死んだ)
藤岡の頭にそんな言葉がよぎった刹那、巨大怪獣の亜音速の体当たりを喰らい、合体寸前だったカラテンガー3はバラバラのメタメタに破壊された――。
* * *
――その後の話を少ししよう。
倉田博士は、一連の責任をとって退任……というか専門の病院に入院した。
最後の言葉は「特撮の
なお後日、国連の協力を得て変形合体機構を廃止した「カラテンガー3ブラック」が開発・運用された。
「カラテンガー3ブラック」には、奇跡的に生き延びた藤岡らパイロットが搭乗し、ゴムゴムの巨大怪獣を見事に打倒したのであった――。
*以下、余談*
その昔の特撮・アニメ作品では、「主人公側の変身・変形・合体シーンがいくら長くても、敵側はその間には攻撃してこない」という
しかし作品が増えるに連れ、そこの部分を逆手に取り、「変身・変形・合体中に攻撃され苦戦する」という展開も生まれるようになった。
そこで後発の作品では、「映像では長く見える変身・変形・合体シーンも、作中では実は一瞬」であるとか、「変身・変形・合体中には謎の衝撃波やバリアが発生して敵が近寄れない」だとかいう設定が加えられることが多くなっていった。
作品によっては、更に逆手に取って「どうやって敵に邪魔されずに変身・変形・合体をするか?」で主人公たちが工夫するエピソードも存在する。
どうやら、倉田博士の知識は古すぎたらしい――。
超合神ロボ・カラテンガー3 澤田慎梧 @sumigoro
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