カクヨムで小説を書いて☆10000個を目指すたったひとつの冴えたやりかた

北乃ガラナ

トリよ永遠に。どこまでも高く高く飛べ!!

「バーグおねいさん! 小説ができたよ! ボクはこの傑作で☆10000を目指すんだ!」


「なんですかカタリくん。騒々しいですね。手に持っているのは原稿? 今どき珍しい。手書き派ですか?」


「えへへ、そうなんだ。だからあらすじを聞いて!」


「それは構いませんが、にしても☆10000個とは、おおきくでましたね」


「これでも少ないくらいさ。ぜったいにイケるからね。じゃあ、はじめるよ」


「どうぞ」


「あたしの名前は名探偵……」


「お、探偵ものか。いいね。自己紹介で名乗るところからはじまるのはどうかと思うけど、探偵ものはいい目のつけどころです」


「江戸川ナンコ」


「はいだめー」


「なんでだよ! 名乗っただけじゃんか! もうちょっと続きを聞いて! ここから盛り上がるから!」


「うーん。大丈夫かなぁ? 盛り上がるというか燃え上がるんじゃないかな? 名前だけで不安しかないけど……」


「ナンコはロリ美少女。ロリだから世間の大人に舐められる。だから隠れ蓑として幼なじみの父親を麻酔で眠らせて傀儡かいらいとして利用するんだけど……」


「いや、表現。傀儡かいらいとかやめようね」


「いつものように気軽に麻酔したら、昏睡状態のまま植物人間になっちゃって起きなくなっちゃったんだ。現代の医療ではどうしようも無いから、幼なじみの麟兄リンにいちゃんが悲しみに暮れて」


「まさかの展開。意外性?」


「湿っぽいのがどうにも苦手なナンコは幼なじみ家族のもとから潔く去ったんだ」


「クッソ外道? あと、潔くの使いかた!」


「でもすぐに麟兄リンにいちゃんに取り押さえられて。ナンコは警察に突き出された」


「……でしょうね」


「よかれと思って施した麻酔が招いた悲劇。けっきょく医療裁判になったんだ」


「ちょっと色々引っかかるけど……ま、いいか。ここで裁判モノ? わたし好きなんだ裁判モノ」


「たとえ法的には裁けなくとも、人の道として裁けることはある」


「……いや、思いっきり法的に裁けるかな。それ」


「『これで勝ったとおもうなよ麟! 未成年のナンコは法では裁けないんだよ! すぐに出てきてやる!』」


「うっわ……確信犯だよ。一生ブチ込んでおこうよ。こんな奴」


「ナンコは旅に出た。とあるうら寂れた地方にある……」


「いや、展開おかしい! 何があったの? その間! 裁判は? ねえ、裁判は?」


「埼玉の老舗旅館で」


「ぜんぜん、とある地方じゃ無い! 埼玉いっちゃってる! あ、でも、名探偵が老舗旅館て。ベタだけどいいよカタリ君!」


「草でもくってろ!」


「タイムリー! なんかタイムリーだよ。カタリ君!」


「女将がいうには。その地にしか生えない伝説の七つの草を集めて配合する薬はどんな難病にも効くという、たとえば昏睡状態の人間にも……。その薬を求めナンコは彼の地へはるばるやって来た。伝説の七つの草とは……」


「お、さすがに伏線回収ね。探偵も裁判も関係ないけど、よかったです。さすがに植物人間に陥れた友人の父親放置は主人公としてまずいよね」


「セリ……ナズナ。オギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、カブ……」


「めっちゃ七草じゃん! 昏睡状態にぜんぜん効かないから!」


「エターナルマンドラゴラリクサー」


「最後の一個ォ!! それだ! 超大事! それ効く、ぜったい効くやつ!」


「それらを集めて配合した薬さえ手に入れることができれば……」


「そうね。それらというか、最後の一個だけで良さそうだけど……。と、とにかく効きそうでよかった。これで麟くんの父親が救われる」 


「『こいつはとんでもないオーシャンブルーだ』いわれのない罪を受けたナンコにとって、失った平穏な人生を取り戻すために金は必須。人生の再建を賭けたビッグチャンスだと閃いた」


「謂われなくない! 人の家の平穏奪ってるから! まずは父親治してあげて!」


「しかし、七つの草にはそれぞれ守護する魔物がいて、一体一体倒さねばならなかった。『オーシャンブルー』への道は険しい」


「うーん。そうきたか。無駄な尺とるなぁ……」


「ハコベラの入手には特に苦戦した」


「苦戦そこ?」 


「ナンコ絶対絶命の窮地に駆けつけたのは、ナンコを追ってきた麟兄ちゃん。『かっての敵が今日の味方とはね……。いいわ。ここはいったん勝負はお預けよ。いまは目の前の敵に集中しましょう!』」


「敵て。っうか、ぜったい麟兄ちゃんナンコを追って来たよね……もしくは自力で父親を救おうとして来たよね」


「魔物を倒して四つめの草……いや、ここはスーシン草とかがいいかな? スーが四? だったらシンいらない? バーグおねいさんはどう思う? 草って中国語で何ていうのかな?」

 

「急にわたしに振らないでよ。カタリ君、わからないことは書かない事。あと、そこはスルーしなさい。みんな薄々気がついている部分だから……」


「二人の共闘で魔物をすべて倒した。草をすべて手に入れ、見事伝説の回復薬を得たのだ。その過程でナンコと麟兄ちゃん。二人はわかりあえた」


「うんうん、いいね。雨降って地固まるだね」


「だが、それはそれとして。回復薬を手にしたナンコは、麟兄ちゃんを出し抜いて逃げだした」


「はい! 雨降ってぬかるんでましたッ!」


「大人の足にはかなわない。またもや、すぐに麟兄ちゃんに取り押さえられたナンコは、しぶしぶ薬を手渡した。悔しくて涙をはらはらと流す『大企業の製薬会社に売りつければ巨万の富を得られるのに……。愚かにも私情に走り、老い先短いおっさん如きに使うなんて徒労とはこのこと。今までの努力は何だったというのか、嗚呼。神はもはや消え失せた!』」


「そこで泣くな! 全部おまえが原因だろ! ほんっっとクズだ!」


「麟兄ちゃんの父親が眠る病院にやってきた二人。舌打ちをするナンコを傍目に伝説の回復薬を父親の口に含ませる」


「お、いよいよクライマックス」


「途端。ゴブォ……ゴキュ。ゴキュ、ゴバアアアア!」


「!? ファッ?」


「みるみる異形の化け物になったお父さんが二人を襲ったあああ!!」


「…………」


「『クッ。やはり人間には強すぎたか……。伝説の回復薬は神が用いるとされる神薬。使用者の身体が耐えきれないと重篤な副作用が起きるという』」


「それ知ってたなら、先に言お!」


「『麟兄ちゃん大人でしょ! はやくなんとかしてよ、この出来損ないを!』」


「おまえが出来損ないだ! マジで!」


「異形の化け物となった父親だったが。僅かに残る良心の発露から実の息子である麟兄ちゃんを前に動きが止まった」


「ベタだけど、ちょっと泣かせる展開ね」


「『チャンス! 手にもつ出刃包丁でとどめを刺せ麟! おまえの父親だろうが! 躊躇うなッ! それでも男か!』」


「せめておまえが刺せ! 血も涙もなさ過ぎる!」


「『……きっと父親もそれを望んでいる。貴男の手にかかって死にたいと。出来は悪くとも子にだけは迷惑をかけたくはない。それがせめてもの親心』」


「なにちょっといい感じに言ってるの! ちっとも望んでない!  少なくとも読者は!」


「麟兄ちゃんは止めを差した……」


「うっわあ……差しちゃったか。でも仕方がないか……うっわあ」


「ナンコの胸を突き刺して」


「えっ? えっ??」


「続けて化け物となった父親の止めも差す。かっての父親とナンコの亡骸を前にして、全てを失った麟兄ちゃんの胸に去来する想いはなにか。夕暮れの病院にパトカーのサイレンが響き、手錠をはめられた男が連行されていったのだった。──────END」



「…………」



「バーグおねいさん! どうかな? どうかな? この物語をカクヨムにアップしたら、きっと☆10000個貰えるよね?」


「うっ、うん。そうだねカタリ君。あ、そんなにキラッキラとした瞳をわたしに向けないで……困ったなぁ。どう伝えようかな。純真な少年の気持ちを折るような話をしなくちゃいけないのは、嫌だなぁ……」


「ああっ! なにをするんだトリ! 返せ! ボクの原稿を返してよ! それがないとボクの傑作がカクヨムに投稿できないよ! まだバックアップしてないから金輪際できない!」


「!? トリがカタリ君の原稿を咥えて飛んでいった? トリなのに飛ぶのが苦手な子なのに何故そんなことを? ……はっ、そうか。トリ、グッジョブ! ありがとうトリ! そのまま飛んでいって! 振り返らずに、いっけえええトリ!! どこまでも、どこまでも高く飛んで!!!!」

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