離婚危機

森乃 梟

第1話

 「もう耐えきれません。離婚してください!」

帰宅した途端、靴を脱ぐ間もなく言葉が飛んできた。

「何が耐えられないんだい」

息子が走り寄ってきてを様子を伺っている。


 どうやら鬱憤うっぷんを溜め込ませてしまったらしい。

「早朝のお弁当作りは楽しいけれど、返ってくるお弁当箱には好き嫌いがあり、残ってる。パセリは飾りじゃないんです! 栄養を考え、配色を考えて入れてるんですから。

 タクマさんにはもっと言いたい。

どうして、朝の目覚まし時計で起きてくれないんですか? 二人共、いつも私が起こしに行ってるんですよ。

それに、起こしに行く度に機嫌悪くて悪態をつくでしょ。

その上、起きたらそのままにして行っちゃう。起きたらベッドメイクでしょ? 仕方なく私がやっているけど。パジャマを脱ぎながら移動しないで下さい。いつも脱ぎっ放し。

二人が出掛けたら洗濯と掃除をしていますが、洗濯物は専用のカゴに入れて下さい。いつも脱いだものがくしゃくしゃに入っていて、それを裏返したりするのに時間が掛かるんです。

 お部屋を片付けて下さい。なぜ書類を床に山積みにしておくんですか。大切な書類ならデスクに置いて下さい。誤って捨ててしまって、怒られてばかり…。読んだ本は平積みにせず、本棚にしまって下さい。」


 「タクヤさん、リビングに広がる玩具オモチャもです。玩具用のキルトを広げて、その上で遊んで下さい。お客様が見えたら、四隅を持てば一発で片付くのですから。」


 「ゴミの分別もです。なんでもかんでもいっしょくたにいれてあります。全部、私がやり直しているんですよ。」


 「帰ったら、手を洗い、うがいをして下さい。外の菌を運んでくるのですから、しっかりと落として。私は菌に弱いのですよ?」


 「二人が居ない間には、たくさんやらなければならないコトがあるんですよ? もっと効率よくやらせて下さい。」


 「洗った洗濯物を放置しないで、部屋に持って行って下さい。私が一つずつ心を込めてアイロンを掛けて畳んでいるのですよ? どうかクローゼットに持って行って下さい。放置されたままの洗濯物を見ると悲しくなります。

せっかくお天気になっても、私の心は雨ざらしです。」


「洗濯の後のお風呂掃除。使ったモノは元の位置に戻して下さい。これも私が片付けてるんです。」


 「そうそう、お夕飯には、みんなで食べたいので、用事がある時は必ず連絡して下さいと何度も言いました。それもおざなりです。

家族は団欒だんらんが一番です。

それなのに、食事もそこそこにゲームを始める。ゆっくりと話したいのですよ?」


 「父さん、もうヤだよう!」

タクヤが泣きながら言う。

「お願いだから、初期化して」

そのまま、私に抱きついてきた。

「そうだね。《離婚》って言われたら設定を変えるか、違うMam-AI に買い換えなきゃね。せっかく感情も豊かになって、言葉も聞き取りやすくなってきていたんだが…。最新のMamなら、もっと優秀で初期化しなくても良いと聞くが、到底買えないしな。

今度は《おふくろモード》を7に上げて、《マムモード》を4に落とすか?」

「《教育モード》を8から4にしてくれればいいよ。《愛情モード》は今のままがいいや。」

「後、15項目あるぞ。」

「うん!」


 この星の人類は雌雄一体の生物だから一人で子供が産むコトが出来る。しかし、子供が出来たら、雌雄どちらかの性別を選択し、人工知能を埋め込んだAI アンドロイドの連れ合いを購入し二人で子育てをしなければならない。

 子供が成長し、雌雄の選択をする時の為に必要であり、またこの星のルールであり、絶対遵守なのだ。 


 子育てをさせるだけあってMam-AIシリーズは人気があり、最新ではないが07タイプを購入できた。

しかし、Mamが《離婚》と言ったら、設定を変えないとオーバーヒートを起こしてしまう。もうかれこれ30回は設定をし直し、9回は初期化しただろうか?   


「私ハ Mam07 、フツツカモノデハアリマスガ ヨロシク オ願イ致シマス。」


今度は上手くいくことを願うばかりだ。


         終わり

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