ring(凛)
フカイ
掌編(読み切り)
背筋を伸ばし
肘を宙に浮かし
指先からは力を抜いて
そっと
筆を手に取る
薄く開いた目
髪をシニヨンにまとめ
彼女は、正座のひととなる
筆の先を
穂先に墨をふくませ
硯の岡で二度、余分な墨をのぞき
やがて
流れるような所作で
ま白な半紙に
筆が置かれる
穂先がつと、紙に触れ、
とどめ、
はしり、
おしつけ、
引き上げられる
息を殺して、
白い肌のひとは
普段は見せぬ怜悧な横顔で
書を、
―――描く
心のままに
筆の
おもむくままに
にすい、の偏
鍋蓋
白い世界に、
濃く、薄く
淡く、力強く
はねて
遊んで
留めて
舞う
やがて、自由な舞いの果てに、
紙の上には
凛
と読める
文字の絵画が起こされた
躍動感を含みながら、
どこか楚々として
彼女らしいイメージが、
そこに、あふれる
静かな集中と
鮮やかな奔放
彼女にしか出来ないやりかたで、
彼女は、瞬間の、芸術を
そんな妻の、
書家としての横顔を見るのが
なによりも好きだ
ring(凛) フカイ @fukai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます