おちこぼれ魔法使いの僕が魔法を使えるようになったワケ

にゃべ♪

ユウカ、突然の来訪

 図書室で見つけた禁書から出てきたフクロウによって魔法の才能が開花した僕は、今では普通に学校に通っている。クラスの危機を救ったため最初はやたらクラス内が騒がしかったけど、色々あってようやく落ち着いた感じだ。


 そんなある日、クラスメイトのユウカが僕を手招きする。思い当たるフシは特になかったものの、特に無視する理由もないので僕はホイホイとその招きに従った。

 彼女は人気のない校舎の突き当りの場所まで僕を連れて行くと振り返り、真剣な顔で見つめてきた。


「ねぇ、ソウヤ君、聞きたい事があるんだけど」

「な、何?」

「この間、図書室に禁書があるとか何とか言ってたでしょ」

「え、えーと……」


 前にトリの秘密を調べていた時の話を蒸し返されて僕は困惑する。適当にごまかそうと口を開きかけると、ユウカがそれに被せるように言葉を続けた。


「禁書は魔法協会が禁止している書物。見つけたなら届け出ないといけない。それがルール」

「分かってるよ」

「ソウヤ君は禁書を見つけたんでしょ? だからあの時口に出た」

「い、いや、あれはただの例えだから……」


 僕はじいっと見つめてくる彼女の圧に耐えられず、思わず視線をそらす。その態度がますますユウカの猜疑心を強める結果になってしまった。


「私、あれから調べたんだ。そうしたら図書室に禁書なんてなかった」

「ほ、ほら、ないんじゃん。あはは」

「いや、私はソウヤが禁書を持って帰ったとみてる。これは重罪よ」


 彼女の目は笑っていなかった。完璧に僕を疑っている。確かにあの時に禁書を手にしたけど、今僕は禁書を持ってはいない。禁書は謎のフクロウに姿を変えたんだ。だから僕は禁書を持ち帰った事にはならない。それが事実だからいくら追求されたって無駄なんだよ。

 と、言う事で僕はユウカの追求に愛想笑いをして返した。


「いやそんなあはは……」

「じゃあ家宅捜索ね! 私の目は誤魔化せないから!」


 煮え切らない態度に業を煮やしたのか、彼女は真剣な顔で僕を見つめる。どうしてそんなに僕に迫ってくるんだろう? いきなり家宅捜索とか、穏やかじゃない。

 彼女の行動原理が理解出来ない僕は、何とか笑って話をそらそうとする。


「じょ、冗談でしょ……。あ、あはは」

「勿論冗談よ、あははは」


 僕の必死さが伝わったのか、ユウカはさっきまでの話は冗談だと言って笑う。何か目が笑っていないように見えるのは気の所為? とにかくそれで話は終わり、僕達は教室に戻る。

 何か心にモヤモヤを抱えてしまい、そこからの授業はさっぱり耳に入らなかった。


 帰宅後、まだモヤモヤが心を支配していた僕は自室でくつろいでいたトリに尋ねる。


「トリ、改めて聞くけど君は何者?」

「覚えてないホ」


 目の前の動くぬいぐるみはテンプレのように同じ返事を返す。本当に過去の記憶がないのか、それとも演技なのか――。それを確かめる術がなかった僕は一計を案じる。以前調べた時に唯一判明したワードだ。

 もしかしたら手がかりになるかも知れないと、切り札の呪文のようにそれを口にする。


「はてな!」

「ううっ! 頭が割れるよーに痛いホ!」


 はてなと言う言葉を聞いたトリは、その場で頭を抱えて苦しみ出した。これは使えると、僕は少し脅迫めいた行動に出る。


「本当の事を言わないとはてな攻撃だぞ!」


 今後、彼が意に沿わない行動をしたらこの手で行こう。これでトリの口から真実が聞けると僕がほくそ笑んでいると、苦しみ始めた彼は口から泡を吐いて気絶してしまう。しまった、やりすぎた。


 僕はすぐにトリを抱きしめて体をなでる。数分後、落ち着きを取り戻した彼はすやすやと寝息を立てていた。はてな攻撃はトリに負担が大きすぎると分かり、今後この言葉を使うのはやめようと強く心に誓う。


 それからは特に何の変化もない日常が戻ってきた。ユウカとも至って普通のやり取りしか交わさない。禁書のきの字も口に出さなくなったのはちょっと不気味ではあったのだけど。


 時間は飛んで次の休日、僕が部屋でまったりしていたところでその事件は発生する。彼女が、ユウカが突然家にやってきたのだ。この突然のアポなし訪問に僕は困惑した。居留守を使おうとしたものの、その前に両親が家に上げてしまい、そのまま彼女は僕の部屋にやってくる。

 部屋のドアを開けたユウカはジロジロと周囲を見回して、とんでもない事を口走った。


「ドモ、家宅捜索に来ました!」


 やはり彼女は諦めていなかったんだ。僕が禁書を持ち帰ったってまだ疑っている。この行為に納得の行かなかった僕はすぐに抗議した。


「突然こないでよ!」

「ガサ入れは抜き打ちが基本でしょ。証拠隠滅はさせないよ」


 どうやら彼女はやる気満々のようだ。目をキラキラ輝かせている。この状態でトリが見つかったらどんな反応をするか予想もつかない。

 僕はすぐに一番見つかったらヤバいものを隠そうと、使い魔の居場所を確認するために顔を動かした。


「ここがソウヤ君の部屋かぁ……」

「お前、誰だホ?」


 しまった……。隠す前にトリの方が先に部屋に乱入してきた厄介な客人に気付いてしまった。彼はユウカの前に立つと、フクロウらしく首をぐにゃんと曲げる。

 この状況を前に、どう説明したらいいものかと僕は焦った。ユウカはと言えば、初めて見るその物体に大変な衝撃を受けてしまう。


「ぬ、ぬいぐるみがシャベッタァァァ!」

「あ、これ僕の使い魔」


 詳しく説明するよりは分かりやすいだろうと、僕は彼女に一言で説明した。これで納得してくれるだろうと思っていたら、そうは問屋が卸さない。

 ユウカは少し落ち着きを取り戻すと、改めて僕の顔を見る。


「へ、へぇ……登録してるの?」

「へ?」

「登録せずに使い魔を使うとルール違反で捕まるよ」

「そっか、今度やっておくよ」


 そうだった。使い魔は全て魔法協会に登録しないといけないんだった。イレギュラーで使い魔を手に入れたから手続き的な事をすっかり忘れていたよ。


 普通は魔法が使えるようになった時に協会に申請して、組織経由で使い魔をもらう仕組みになっている。もちろん自分の好きな動物を使い魔にする事も許されていて、その場合は魔法使い側が協会に登録する仕組みだ。

 彼女は僕が見慣れない使い魔を使っていると言う事で、協会経由で手に入れていない事をひと目で見抜いていた。


 ユウカの追求はそれだけでは終わらない。彼女は僕の目を見て今度は別の質問をする。


「どこで買ったの?」


 そう、次の疑問はこの世にも珍しい喋るぬいぐるみの入手経路についてだ。この質問に対する答えを持っていなかった僕は、つい口を滑らせてしまう。


「いや、としょ……あ」

「図書?」

「え、えっと、学校の裏の森で見つけたんだよ」


 トリの正体を知られてはヤバいと、僕は咄嗟とっさに誤魔化した。すると、この返答に不審なものを感じたのか、ユウカは納得の行かない顔をして首をかしげる。


「こんなの、あの森にいたっけ?」

「こんなのとは失礼ホ!」


 彼女のその言い方にトリは気を悪くする。その怒号を右から左に受け流しながら、ユウカはこの喋るぬいぐるみに顔を近付けた。


「ねぇあなた……」

「俺様はトリだホ」

「あなた、本当に森にいたの? 何でソウヤ君の使い魔に?」


 どうやら僕に聞くより直接聞いた方がいいと、質問相手をトリに切り替えたらしい。この好奇心の塊少女の質問に、彼は胸を張って自信満々に答える。


「ソウヤが気にったからだホ。俺様がこいつを育ててやるんだホ」

「やっぱ怪しい」

「お前、めんどくさいホ!」


 自分の話を信用する気配のないユウカにトリはキレてしまう。じろりと相手を見定めると、フクロウの目から謎のビームが発生し、彼女の顔に直撃する。

 その途端、謎の衝撃を受けたユウカはひっくり返った。この想定外の展開に、僕は大声でトリに向かって叫ぶ。


「うわ何やらかした!」

「ちょっと記憶をいじっただけホ」

「だ、大丈夫なやつなんだよな?」

「全く問題ないホ! 俺様を信じるホ!」


 トリはそう言うと、誇らしげに胸を張る。その言葉を信用していいかどうか悩んでいると、倒れていた彼女がむくりと起き上がる。そうして何事もなかったかのように僕の使い魔に顔を向けると、おもむろに右手を軽く上げた。


「あ、トリさん、今日もかわいいね」

「そうはっきり言われると照れるホ」


 どうやら記憶操作の話は本当のようだ。ユウカは目の前のフクロウに全く何の違和感も抱いてはいない様子。

 心配になった僕は、恐る恐る彼女に話しかけた。


「ユウカ、大丈夫?」

「うん、今日は楽しかった、またね」

「あ、うん……」


 ユウカはそのままもう何も追求せず、素直に自分の家に帰っていった。あまりにも話がうまく行き過ぎて何だか気持ち悪いくらいだ。

 窓から帰って行く彼女を見送っていると、その背後でトリが満足そうな声でつぶやく。


「めでたしめでたしホ」


 僕は思った。僕がこのフクロウの機嫌を損ねたらどうなってしまうのかと。禁断の言葉は切り札として持っているけれど、あの洗脳ビームを先に放たれたら終わり。

 トリ、恐ろしいフクロウッ。僕は白目になりながら、このフクロウの存在に戦慄を覚えたのだった。



 次回『閉じ込められた2人』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888915224/episodes/1177354054888915785

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