雪の降る火

エリー.ファー

雪の降る火

 火をつけて、そうして少ししてから、町の人間に分かるように連絡をする。

 すると、町の人間がこちらに向かってライトを四回点灯させる。

 俺はそれを確認すると、また小屋に入る。

 そして。

 雪が降る。

 アンデネで暮らしていくには、雪についての情報が必要不可欠だ。白い砂漠がひろがるこの地域で、多くの動物たちを捕まえてはそれを干し、保存食として家で保管するのは当然だが、その際にどうしても雪の日だけは避けなければならない。

 雪が降ると、まず、このあたりの動物たちのたんぱく質が固形化する。そして食べる人間は当然体温がある訳だから、体内に入る時にその固形化が解け、細胞の中の水分が外へと出てくる。

 これが腹痛、下痢を引き起こす。

 そうだとしたら、そのような動物の干し肉を食べなければいいと思うかもしれない。残念だが、そうもいかないのだ。

 アンデネは元々、少数の民族の寄り合い所帯であり、決して一枚岩ではない。例えば、多くいるダフネ族とクエ族の仲は悪くないが、そこにロ族が入ると、急激に状況が悪くなる。だが、今現在森林伐採によって我ら少数民族の居場所は年々減っている。こうなると結託する必要があるのだが、そこで政府は我らにこのような注文を付けた。

 民族としての生き方を一切曲げなければ、今後は森林伐採も行わず、必要な医療などは無償で提供すると。

 結局のところ、観光の目玉として利用したかったのだ。

 だから、今も私はこの離れた小屋で外を見つめている。

 向こうの山から吹いてくる風に乗って、雪を降らせる雲が姿を現したら、皆に知らせなければいけないからだ。これも携帯電話や、実際、あの町の人間たちも私のいつ場所までこなくとも分かることではあるのだ。けれど、これが我が民族の伝統であり、観光客が喜ぶものなのだからしょうがない。

 しかし。

 その政府が最近、他の国との戦争に敗れ滅ぶこととになった。

 我らはどこに属していることになるのか、と考えたものの、その滅ぼしたとされる国は別段、興味を示してこなかった。

 気が付けば、観光の一環で始めたこの行為は私の仕事になり、そして意味のない行為には、今の価値があるとされている。

 私は白い息を吐きながら窓を擦る。

 空から降り注ぐ雪と、家の前の焚火。

 絵になるではないか。

 早速それをスケッチしようとペンを走らせる。部屋の外ではなく、中から見える風景としての寒さは何となく、自分の心に積もっていくかのようだった。

 悪くないと思う。

 いいできだ。

 早速、それを隣のテーブルに重ねていくが、枚数的には千枚を超えているので、もうすぐ倒れてしまうそうだった。

 昔は、これだけ書くとポストカードの絵に使えるということで、買い取ってもらい、絵描きやイラストレーター気分を味わえたものだ。なんとなく懐かしく思いながら私はペンも置いて扉を開ける。

 山の向こうをふと見ると。

 雪を降らせる雲ではない。

 雨を降らせる雲でもない。

 何か見たことのない、大きな雲がやってきているのが見える。

 雪の日は、火を。

 雨の日は、音を。

 私はその雲を見つめながらどう伝えるかを考える。

 気が付くと、押し付けられたルールの切れ端は、私がルールを作る時に必要な全てになっていた。

「魔法でも使ってみるか。」

 杖は。

 描き終わった絵を積み重ねている机の下の、小さな引き出し。

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