すきすき大すき。

漆目人鳥

第1話 すきすき大すき

ルールその1

『私からの電話には何事より優先して出ること』


だが、藤村圭介は出ない。

出ない。

この私、杉村和子からの電話に素直に出ない。

ルールなのに。

全然守ってくれない。

だいたい、ル-ルなんてしち面倒くさいことでなくても、

普通に考えて自分の彼女からの電話よりも大切な事項ってあり得るんだろうか?

とか、考えるたりもするけど、私はよくできた彼女なのでその辺は忖度そんたくする。

まだ仕事が終わらないのかな?

会社に電話してみようか。



ルールその2

『相手の会社に電話をするときは私用だと気付かれてはいけない』


別に社内恋愛してるわけじゃないから、そんなに気を使う必要はないんだけど。

やっぱり、会社で変な評判を立てられて彼の出世の邪魔になってはお互い困るし、これはもう、嗜みというか、仕方のない事だよね。

とりあえず、圭介の会社に電話してみる。

すぐに事務の女が出たので、圭介を呼びだしてもらうことにする。


「もしもし、私、街道商事の立花と申しますが、藤村圭介様いらっしゃいますでしょうか?」


もちろん、そんなわけだからその都度偽名を使う。


「申し訳ありません、藤村は帰りましたが」


なんてこと!


「わかりました、それではまた明日かけなおします」


仕事じゃなかった。

と、いうことはルールその3だ。


ルールその3

『私がお休みの日に仕事が早く終わったら、まっすぐうちに帰ること』


なんだ、電話なんか掛ける必要なかったんだ。

まっすぐ圭介のうちに行けばよかったんだ。

圭介はきっと、ルールを守るために必死に家に帰ってる最中なんだ。

だから、電話にも気付かなかったのね。

そーいうところが圭介のかわいいとこだな。

好きになってよかったなって思うツボなんだよね。

私は、足早に圭介の家に向かった。

たぶん、ここからなら私の方が先に家に着くだろう。

早く合鍵がほしいなぁ。

陽気が温かいうちは外で待つのもいいけど、

できれば部屋の中で待ちたいよね。

雨の日とかは特に。

お掃除とかもしてあげられるし。

今年の私の誕生日までにはなんとか作ってもらおう。

私の部屋の鍵は……、いつ渡そうか。


圭介の家の前に着いてからずいぶん経った。

おかしい。

いくらなんでも遅すぎる。

あの時間に会社にいなかったとして、

まっすぐ帰っていればとっくに着いているハズだ。

何かあったんだろうか?

まさか。

まさか、ルールを破った?

いや、多少寄り道したってもうとっくに帰ってこなければおかしい。

とか、考えているうちに、人影が見えた。

見慣れた人影、圭介だ。

よかった、なんでもなかったんだ。

でも、あれ?

もう一つの影。

なんか、見様によっては寄り添ってるようにも見えるんですけど。

いや、絶対寄り添ってる、だって会話しているのがはっきり見えるもの。

信じられない!


ルールその4

『私の目の前では、私以外の女性とはそれが誰であろうとしゃべってはいけない』


圭介は私がここに居るとも知らずにほかの女とおしゃべりをしてる!

だいたい、誰よその女。

会社のひと?ご近所さん?お隣さん?まさか、妹?

誰であろうと許せない!

ルール違反。ルール違反は許せない!

私は圭介の前に飛び出していた。


「圭介!誰よその女」


私が詰め寄ると気の弱い圭介は心底びっくりしたように口元を引きつられてたじろいだ。

ざまあみろ。

女の方は目をまん丸く見開いて、圭介と私を交互に見ている。


「あんた!私の圭介とどういう関係!」


私は女にズイと詰め寄ると胸ぐらを掴む勢いで怒鳴った。


「ちょっと待って」


圭介が私と女の間に割り込んだ。


「ひょっとして」


怯える女を抱きしめながら、圭介が私をみた。


「ひょっとして、いつも非通知で僕に電話をかけてくるのってキミ?

あと、デタラメな会社名で職場に僕の居場所を確認してくるのも、キミ?」


じっと私を覗き込む。


「君、だれ?」


なんてこと!

5年間も追いかけていたのに、私の名前が伝わってなかったなんて!

こんなに想い続けたのに、何も伝わらないなんてことがあるわけないじゃない!

ずっと、ずっと、見ていたのに!

今日だって圭介のこと5時間も待ってたんだよ!


あー、もうだめだ。

あー、いくらなんでもこれはだめだ。

あー、これはあれだ。

ルールその5、だ。


ルールその5

『もしも、もしも、圭介が私の『マイ・ルール』をひとつも守ってくれなかったら、そしたら、いや、それでも。

私は、圭介のことが』



「すきすきだいすき」


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