海へ

春風月葉

海へ

 海の日差しに焼かれた黒い肌、男は人の少ない冬の砂浜を歩いていた。

 彼は毎年、この砂浜で美しい一枚の貝殻を拾う。

 そして会いに行くのだ。

 愛する一人の少女の下に…


 海には似つかわしくない病的なくらいの白い肌。

 それは死んでしまった初恋の人の記憶。

 泳げもしないのに海が好きで、海の向こうにいる誰かに向かって歌を歌っていた。

 その歌が好きで、彼は海から顔を出し耳を傾けていた。

 でも、彼女と目が合うと恥ずかしくて、彼はすぐに海に潜った。


 彼女は冬の黒い波に攫われ消えた。

 彼が彼女を海に呼ばなけば、彼女は今も歌を歌えていただろう。

 彼は毎年、彼女の消えた日に貝殻を送り続ける。

 どうしたら伝わるのだろうか。

 彼女はこの海のどこかに今もいるのだろうか。

 ずっと言えなかった言葉を彼は貝殻に託し、それを砂浜にそっと置く。

 黒い波は貝殻を持ち去っていく。

 どうか彼女の下へと祈り、涙を海に流す。

 波の音は彼の口から漏れたたった一つの言葉をかき消した。

 それは彼女がその言葉を拒んでいるようだった。

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海へ 春風月葉 @HarukazeTsukiha

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