とまり木

 (僕の周りの)女性たちはいつも複数の男性を天秤にかけていた。その時、天秤の皿に乗る僕という分銅は『現実』に置き換えられた。特別素敵な見てくれでもなく、特別気が利いたり優しかったりするわけでもなく、特別裕福な訳でもない。中堅会社の普通のサラリーマン。同僚と比べても出世が早くはなく、かといって遅れてもいなかった。

 つまり、一般的に言って、僕は『普通』のカテゴリーにいた。しかし、彼女たちが(自分の限界と)現実を考えたとき、ランキングに於いて、ある種の妥協と共に僕の順位は急上昇した。それでも、常に僕は表彰台に上れるか上れないかの瀬戸際だった。それが僕の立ち位置だった。トゲもなければ、彼女たちの全てを包み込む力もなかった。誰の一番にもなれないことを受け入れてさえしまえば、案外、居心地は悪くなかった。みんなが少しだけ僕を必要としていた。

 疲れると彼女たちは僕のところにやって来た。話をするだけの場合もあれば、数日間(数ヵ月の事もあった)まるで彼女たちの1番が僕であるかの用な振る舞いをする事もあった。そして皆一様に笑顔で去って行った。

 彼女たちは島々を飛ぶある種の渡り鳥であり、僕はそのとまり木だった。特別な事は何もしていなかった。何かに疲れた彼女たちが僕という現実に触れることで、少しだけまた別の何かに立ち向かう元気を得たのだろう。たぶん。

 そんな彼女たちの結婚式に呼ばれることも少なくなかった。大抵の場合、式で初めて旦那さんを見ることになったが、彼らは新婦側の友人席に座る僕の事をどう思ったのだろう。

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僕たち 冲砂 伊織 @okisa

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