無人島宝石盗難事件〜犯人が使った○○とは!?〜

深草みどり

無人島宝石盗難事件〜犯人が使った○○とは!?〜

*犯人は〇〇を使ってペンに残った犯行の手がかりを隠しました。読みながら○○の正体を探してみてください!


 本島から船で三十分ほどの距離にある小さな島。そのペンションのロビーに、現在この島にいる全ての人間である十五人が集まっていた。大きなソファに座るのは不機嫌な顔をした白髪の男性。その対面の長椅子に三人の男性が座っている。白髪の男性と三人の間には、制服を来た高校生探偵が一人。その背後に高校生の友人や他の宿泊客、事件と関係のないペンションの従業員が立っていた。

 「さてお集りの皆さん、いよいよ正午が近づいてきたました。この事件の真実をお伝えします」

 自称高校生探偵の谷藤祥吾は芝居掛かった動作で両手を広げた。

 「その前にもう一度状況を確認しましょう。今日の朝、常連の宿泊客である権田華兵(ごんだかへい)老人が朝食を食べた後にロビーで意識を失いました。その場に居合わせた人が老人を自室に運びベッドに寝かせました。そして権田老人が朦朧と目を覚ますと、覆面をした黒服の男が部屋に侵入しており、動けない老人の指を使ってスマートフォンのロックを解除。中に保存されていた暗証番号を手に入れ、金庫を開け20カラットのダイヤの指輪を盗んだ。そうですね?」

 大きな椅子に座った白髪の男性、被害者の権田が力強く頷いた。

 「調査の結果、容疑者は次の三人に絞られました。トライアスロンの練習をしに島に来た堀田誠司さん、島の風景を撮影しに来たカメラマンの巻淵智樹さん、そしてペンションのオーナーである大泊泰隆さんです。皆さんは午前中にロビーで寝ていた権田さんを三人で部屋に運び、それから三人とも外出され、ついさっき戻られた。一見アリバイがあるようですが、外にいたことを証明する人は誰もいません」

 長椅子に座った三人は渋い顔をしている。長椅子の前には三人が外出から戻った時の手荷物が並べられていた。堀田はランニングバックパックとその中身、タオル、ほぼ空の水のボトル、制汗スプレー、簡易救急キット、飴が三つ。巻淵は大きなショルダーバッグにデジタル一眼レフの予備バッテリー、小型三脚、カメラの手入れキット、タオル、養生テープ、島のガイドブック、コンパクトデジタルカメラ、キャラメルとペットボトルの水、小さな手帳。大迫はポケットの中の口臭ケアのブレット、ハンカチだけだった。いずれもスマホは別に持っている。

 「さて、ここに一本のペンがあります。これが何かわかりますか?」

 祥吾は手袋をはめた手でボールペンの入ったチャック付きのポリ袋を高く掲げた。

 「このペンションの客室や受付、ロビーで使われているボールペンですが、これは権田さんの部屋に置かれていたものです。そうですよね、権田さん?」

 「その通り」

 権田は荒い鼻息を立てながら立ち上がると長椅子に座るある男性を睨みつけた。睨まれた男性はなぜ俺がといった表情を見せる。

 「犯人よ。貴様は私が意識を失っていたと思っていたのだろうが、実は意識はあったのだ」

 「では犯人の顔を見ているのですか」

 楽しそうに祥吾が聞く。

 「いいや。やつは覆面をしていた。だが二つミスをした」

 「それはなんですか?」

 「一つは匂いだ。部屋の中に石鹸のような匂いがしていた」

 「石鹸、つまり制汗スプレーですね」

 祥吾は堀田の持ち物であるスプレー缶を手に取った。そこにはシャボンの香りと書かれている。

 「違う、俺じゃない」

 堀田は慌てて否定する。

 「それだけではない。確かに私の金庫の暗証番号はスマホの中にメモしてある。だがそれは番号そのものではない。一定の計算が必要になるのだ」

 「ああ、昨晩おっしゃっていた話ですね」

 昨日の夜、宿泊客が全員集まった夕食会で酔った権田は自分が20カラットの宝石を持ち歩いていること、金庫の暗証番号は数学を利用したメモに隠されていることを吹聴してた。本人が覚えているかは微妙だったが、あんなことを自慢すれば誰かがおかしな気を起こしても不思議ではない。

 「犯人のやつは私のスマホを見た後、電話の脇にある紙とペンを使って数式を解き、金庫の扉を開けたのだ。その時犯人の手には手袋などはなかった。つまり、私の部屋にあったペンに犯人の指紋が残されているのだ」

 権田の言葉にギャラリーが「へえ」とか「おお」と反応すし、一斉に容疑者である堀田を見た。堀田は不自然に汗をかき違うと首を振っている。

 「では皆さん、ここに簡易指紋検出キットがあります。これをこのペンに使ってみますね」

 そんなことをしていいのかというツッコミが観客からあったが、祥吾は気にせずポリ袋から取り出したペンを透明なフィルムの上に転がした。そしてその上に白い粉を吹きかける。するとフィルムの上に指紋が浮き出てきた。それを見た観客から歓声が上がる。

 「これでこのペンを触った方の指紋が取れました。では次に、三人の方の指紋をいただきましょう」

 「堀田さん以外の私たちもですか?」

 「ええ、念のために」

 堀田は焦るように、他の二人は平然と祥吾が差し出した透明フィルムに指を置いた。三人分の指紋が集まると、祥吾は透明フィルムに白い粉を吹きかける。三つの指紋が浮かび上がり、先ほどのペンについた指紋と並べられた。

 「そんな馬鹿な!? 違う俺じゃない」

 叫んだのは堀田だった。自分の指紋とペンについた指紋が一致していただの。

 「やはり貴様が犯人か! 返せ。わしの宝石を返せ」

 権田が堀田に掴みかかろうとするが、他の宿泊客に取り押さえられる。

 「これで事件は一見落着ですね。あとは警官が到着したら堀田さんを引き渡して終わりですか」

 オーナーの大迫が安堵する。

 「あ、一枚撮らせてください。無人島の密室盗難事件、ちょっとした記事になるかもしれません」

 巻淵がカメラを構えて青い顔の堀田に向けたが、祥吾がそれを遮った。

 「まってください。まだ犯人が堀田さんと決まったわけではないですよ」

 「どういうことですか?」

 「皆さん、考えてみてください。犯人は睡眠薬を用意し権田老人を眠らせ、しかもペンションの客が全員出払ったタイミングで部屋に盗みに入ったんですよ。思いつきではない、かなり周到な行為です。そんな犯人が素手で触ったペンを部屋に置いていきますか?」

 「だが私は見たぞ。やつは宝石以外何も持ち出していない」

 権田が堀田を睨めつけながらいった。

 「落ち着いてください。これは金庫のダイヤルに指紋検出フィルムを当てたものです」

 そういって祥吾はもう一枚のフィルムを出すとテーブルの上に置き白い粉をかけた。

 「フィルムに指紋は一つも浮かび上がっていません。これはおかしいですよね。普通なら権田さんの指紋は最低限残っているはずなのに。つまり犯人は金庫を開けたあと指紋を残さないようにダイヤルを拭いたのです。そんな犯人がペンを残すと思いますか?」

 「では犯人は誰なのだ」

 「犯人は、」

 祥吾はそこで勿体ぶって言葉を止め、容疑者とギャラリーを見渡した。

 「犯人は、あなたです大迫さん」

 びしっとまっすぐ伸ばした指をオーナーの大迫泰隆に向ける。名指しされた大迫は、何のことかわからないと首を傾げている。

 「私、ですか?」

 「そうです」

 「まったく心当たりがないのですが、理由を説明してくださいますか?」

 「簡単なことです。犯人は権田さんのスマホを触っている時、権田さんにぼんやりと意識があることに気が付いた。そこで一計を案じたのです。あえて権田さんから見える位置で素手でペンを握り、計算を解いた」

 「おかしな話です。それではやはりペンに指紋が残っていた堀田さんが犯人ではありませんか?」

 「いいえ。違います。犯人はあるものを使ってペンを素手で触りながら指紋を残さなかったのです」

 「あるものとは?」

 「それは○○です。触った物体に指紋が残るのは、指から分泌されている汗に含まれた微量の油分が原因です。しかし○○には油分を絡め取る働きがあります。あなたはペンに○○を使った上でその部分を握って紙で計算をした。そうですね?」

 「私は○○を持っていませんが?」

 「このペンションは清潔感を売りにしています。あなたも従業員の方も皆白い制服に白い手袋。あなたは口臭も気にされていますよね。なら○○が手の届く位置にあってもおかしくはないし、オーナーなら隠し場所をいくつもしっているはずです」

 「……仮にそうだとして、どうしてペンに堀田さんの指紋が残っていたのですか?」

 「簡単です。これは堀田さんが使ったペンだからです」

 「ならば、堀田さんが犯人、あるいは共犯者ということなのではありませんか?」

 「いいえ、違います。さきほどのダイヤルと同じですよ。このペンからは堀田さんの指紋しか出てきていない。これは不自然なことです。普通は従業員の方や宿泊客の権田さんの指紋が出るはずなのに。従業員の方、参考までに教えてください。ベットメイクの際、ボールペンの指紋を毎回拭き取りますか?」

 その質問に従業員は首を横に振った。

 「おそらくこのペンは、堀田さんがチェックインする際に使ったものでしょう。あなたは予め宿泊客の誰かを犯人役に仕立てるために指紋を集めていた。そして状況から判断して最も疑われやすい人物のものわざと部屋に残した。違いますか? 証拠が必要なら、このペンションもカウンターには防犯カメラがありましたね。堀田さんがチェックインした前後の映像を見せてください。あなたがペンを保管する場面が映っているはずです」

 「……やれやれ」

 そういって大迫は長椅子の背もたれに寄りかかった。

 「権田さんの意識があることを利用して、堀田さんへの疑いを強めようと色々しましたが、かえって逆効果でしたね。そうです、私が犯人です」

 こうして高校生探偵はまた一つ事件を解決した。




○○の正解はこの下


















*○○の正体は「制汗スプレー」でした!

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