「紙 ペン 〇〇」〇〇に入る文字は何?

新巻へもん

DAY15

 燃え落ちた建物。鉄筋コンクリートは残るものの窓ガラスはすべて吹き飛んだビル。かつては繁栄を誇っていた都市が消えていた。人口一千万を超えていたメガシティ東京。あの日を境に状況は一変した。


 世界同時多発バイオテロ。

 どこかのトチ狂った連中がアメリカ陸軍感染症医学研究所USAMRIIDから持ち出したカテゴリ5のヤバいブツを全世界にまき散らした結果、世界は崩壊した。


 ウイルス性大脳皮質不可塑変性症。長ったらしい名前だが要はウイルスに感染するとゾンビになって人を襲う。襲われた人はゾンビになる。以下同文。


 幸いなことにこのウイルスは接触感染しかしない。ゾンビ化した元ヒトも頭を吹っ飛ばせば活動を停止する。初動対応さえ誤らなければ封じ込めはできたのかもしれない。十分な数の銃器と訓練された兵士がいれば。


 不幸なことに日本にはその両方が欠けていた。警察官の携行する拳銃には弾は5発。頭というのは素人が考えるほど標的として簡単ではない。しかもキモい化物を前にして命中させるのは至難の業だ。


 風にあおられて大量の紙切れが前方から吹き寄せてきた。バサバサと音をたてて足元を通り過ぎる。ブーツに張り付いた1枚を拾い上げる。福澤諭吉のへの字口が俺を見返してきた。今ではもう価値を失った紙を俺は風に放つ。


「コージ大丈夫? 顔色が悪いわよ」


 振り返ると恵理が迷彩模様の服に身を包み、手にしていたペンを胸のポケットに差しクリップボードをしまったところだった。肩からはウジを下げている。ごわごわしたポリパラフェニレン テレフタルアミド素材の服のでもその巨大な膨らみを隠しきれていない。同素材の手袋をはめ直しながら恵理はヘルメットのバイザーを上げてほほ笑みを見せた。


「やっぱり無理にでも止めるべきだったかもしれないわね」


 住んでいた場所の周辺住民の避難場所の構築が終わり、非日常が日常になると俺は他に生き延びたコロニーがないか気になり始めた。首都なら自衛隊もいるし、もしかしたら同じような生存者がいるかもしれない。そう主張する俺に恵理は首を横に振った。


「気持ちは分かるけど、人が密集しているということはそれだけ感染・増殖しやすいわ。パンデミックと同時に物理的なテロ攻撃も行われたみたいだし、期待は薄いと思う」


 それでも俺の懇願に結局恵理は折れた。そして、この結果がこのざまだ。恵理は正しかった。


「戻りましょう。いずれここも開放する。約束するわ」


 恵理は毅然とした声で言った。俺達コロニーの指揮官であり、どこかの国から送り込まれてきたスパイであり、俺の最愛の人。


 俺はうなだれて足元に視線を落とす。想像以上にかつての首都の惨憺たる様にダメージを受けていた。日本という国が消滅したことを改めて感じさせられる。地面に落ちていた燃えさし、恐らく子供向けの本だろう。その1ページに気を引かれた。


 であるとき、つぎの○○にてはまる言葉ことばなにかな?

 かみ ペン 〇〇


 不意にかつての平和な日常を思い出し、鼻の奥がツンとする。


 平穏な日々を失い、俺は恵理を手に入れた。負けない。この程度のことで負けはしないぞ。俺は決意を新たに恵理の元に駆け戻った。

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