月の果実

花るんるん

第1話

 僕達は、何でもできる。

 僕達は、紙きれの上なら何でもできる。

 世界を終わりにすることもできるし、宇宙を創造することもできる。

 紙とペンさえあれば、何だって。

 フランスの小学校では多くの子どもが万年筆を使っていると。

 何を書いてもいいが、例えば、(お月さまのような)マンホールなんかどうだ? 万年筆のマンだけに。

 壁に貼れば、ペンを使ってダーツだ。

 ああ、それでいいだろ?

 僕達は、どこへだって行ける。

 マンホールのフタを開ければ。

 壁に貼ってもフタは開けられる。

 マンホールだから。

 美しい。

 世界は美しいと思う。

 「本当に?」

 本当だとも。

 都市とは、下部構造に支えられている。下水道は、モヘンジョ・ダロの頃からあったんだ。集団生活は、感染症を防ぐところから始まる。

 「本当に?」

 本当だとも。

 どうしたら僕達は幸せになれるんだろう?

 紙に「幸せ」とでも書けば、幸せになれるんだろうか?

 「本当に?」

 分からない。

 分からないことだらけだ。この世界は。

 紙とペンさえあれば、全ての苦難を乗り越えられる?

 「分からない」

 分からない。分からない。分からない。全て、分からないことにしやがって。

 チクショウ。

 チクショウ。チクショウ。チクショウ。

 ダーツを止めて、マンホールのフタを開け、僕は大声で叫ぶ。


 チクショウ❗❗❗


 「どうしたの?」

 どうしたも、こうしたもないよ。

 全てが嫌になったんだ。

 全てが嫌だったんだ、最初から。

 「そんなの」と君は言った。「ふつうじゃない? ディオニソス的存在が、アポロン的存在として振舞わなければならないのだから、そりゃ、息苦しいわよ」

 ふだんから、息が苦しい。

 そんなんで、マンホールを通じて、この世界から脱出できるか。

 閉所恐怖症には最悪だな。

 「『最悪』の言葉の意味、知ってる?」

 「最も悪」と書いて、最悪だ。軽々しく使うもんじゃない。

 「軽々しく使うもんじゃないよね。最も悪さん」

 僕には名前がある。

 「『モンブラン博士』という名前はどう?」

 『最も悪』さんの方が、まだマシた。

 「このダーツで決めない?」

 嫌だ。

 今日僕が二度目に発する、本気の言葉。


 イ・ヤ・ダ。


 「もうそんなに怒るのやめようよ、モンブラン博士?」

 強引だなあ。

 「何が『強引』なの? モンブラン博士?」

 世界は、それこそ強引なやり方で、いつ・どこでも、戦場になっておかしくない。


 (お菓子ないから)おかしくない。


 おかしくない。

 おかしくない。おかしくない。おかしくない。

 「戦場になる」と言われたけしど、幸いにも、「戦場になる可能性」しかなくて、それすらもメディアには伝えていない。

 ウソをつく必要なんかない。

 スポットライトを都合よく照らすだけで十分。

 十分なんだ、僕達には。

 紙とペンさえあれば、何だって乗り越えられる。

 マンホールのフタだって、♪ひょ、ひょいの、ひょいだ。

 乗り越えてみせる。

 今後君に降りかかる、あらゆる苦難を乗り越えられますように。

 「そんな大げさね」

 大げさなもんか。

 改めて訊くけど、♪ひょ、ひょいの、ひょいなんだろ?


 あなたはにっこり笑って言った。


 「何のことか、さっぱり分からない」


 そういういい加減さが、紙とペンによってもたらされた。幸せ♡

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月の果実 花るんるん @hiroP

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