おちこぼれ魔法使いの僕が魔法を使えるようになったワケ

にゃべ♪

トリの謎と古代文字

 図書室で禁書の封印を解き、そこで現れたフクロウによって無事に魔法を使えるようになった僕だけど、その頃からずっと考えている事がある。それはこの謎の生き物の事だ。

 自らをトリと名乗り、まだ魔法も使えない内から僕の使い魔になり、魔法を使えるように手ほどきをしてくれた。

 それ自体は有り難いんだけど、感謝もしているんだけど――。分からない事が多すぎるこのフクロウの正体が今も気になって仕方がない。


 実際、使い魔をフクロウをしている人はそこまで珍しくはない。クラスでも2割程度はいるはずだ。喋るフクロウだって、使い魔の契約をすれば……あれ? 

 トリは契約する前から喋ってたな、そう言えば。見た目がフクロウぽいってだけで本当にフクロウかも疑わしい。見ようによっては喋るぬいぐるみだし。

 何て言うか、僕にとってトリって使い魔って言うより頼れる友達って感じなんだよな。


 1人で色々と考えていても結論が出るはずもなく、直接聞くのが一番だと頭の中で結論が出た。

 と、言う訳で、自室でくつろいでいる時に僕はさり気なく話を振る。


「ねぇ……」

「何だホ?」

「トリってさ、結局何者なの?」

「俺様はトリだホ。前にも言ったけど、それ以上でもそれ以下でもないホ」


 返ってきた返事は最初の自己紹介の時と変わらなかった。もっと具体的な質問をするべきかな。


「どうして禁書に封印されてたの?」

「覚えてないホ」

「何で僕の使い魔に?」

「面白そうだからだホ」


 どうやら話には乗ってきてくれたようだ。よし、このまま行こう。


「魔法の知識とかあるじゃん。誰かに教えてもらったの?」

「覚えてないホ」

「年齢は? 仲間はいるの? 後、えっと……」

「そう言うのは全部忘れたホ。ソウヤ、細かい事は気にしたら負けだホ。大事なのは今だホ」


 トリはそう言うとそのまま眠ってしまった。やっぱり手強い。本人から聞けないと言う事で、今度は別の方面からトリの謎に迫る事にした。そう、あの禁書だ。

 まずは禁書にかけられていた封印、あの謎を解こう。見た事のない文字や記号で構成されていたから、まずは図書室に行かなくちゃ。


 と言う訳で次の日の放課後、僕は通い慣れた懐かしい場所へ。今までに読んだ書物にあの文字の事は書かれていなかったから、もっとマニアックな本を探さなきゃ。

 並んでいる本のジャンルを確認しながら本棚の林を奥へ奥へと進んで行くと、そこにいたクラスメイトにばったり出会う。


「あれ? ソウヤ君」

「ユウカ? どうしてここに?」

「よ、読みたい本がこの辺りにあるからよっ」

「そっか。じゃ」


 そこにいたのはユウカだった。選書のじゃまになってはいけないと思い、僕はその場を離れようとする。

 と、そこで突然彼女から声をかけてきた。


「待ちなさいよ! あなたもこの辺りの本を探してるんじゃないの?」

「まぁでも、ここに探している本があるかどうか分からないし」

「調べ物? 手伝おっか?」


 僕が図書室に来た目的を話すと、ユウカはそれに食いついてきた。確か彼女の家はそれなりに有名な魔道士の家系だ。ユウカ自身も魔法の知識はあるようだし、もしかしたら僕の目的にも役に立つかも知れない。

 そこで、物は試しと彼女に協力を求めてみた。


「じゃあ、お願い出来るかな? ちょっと知りたい事があって……」

「いいよ」


 ユウカは目を輝かせて即答する。その勢いに若干引くものの、折角なのでその好意に甘える事にした。まずは説明しなくちゃと彼女を席に誘う。

 お互いに席につけたところで、まずは紙とペンを取り出す。次にユウカの見ている前で禁書に施されていた封印の文字とか図形とかを思い出せる限り正確に書いて、それを見せた。


「これなんだけど、分かる? 記憶頼りだから正確に書けてないかもだけど」

「これ、どっかで見た事がある……」

「えっマジで?」

「ちょっと待ってね、思い出すから」


 ユウカは僕が書いた紙を手に持って真剣に眺めている。これで何か分かったらめっけものだ。

 僕が期待を込めてじいっと見つめていると、それに気付いた彼女は顔を真赤にして顔を隠すように紙を立てる。


「じ、ジロジロ見ないでよ、気が散るからっ!」

「あっゴメン。で、分かりそう?」

「……えっとね。多分だけどこれ、はてな文字だと思う」

「はてな?」


 ユウカの口から出たその聞き慣れない言葉を聞いた僕は首をひねる。図書館の主と化した僕は一年近く通いつめてかなりの本を読み、知識だけは身に付けてきたつもりだ。なのに、はてな文字なんて文字は全然記憶になかった。

 納得の行かない顔をする僕を見た彼女は、嬉しそうに口角を上げる。


「知らなかったでしょ。多分この図書室にも関連書物はないはずよ」

「どう言う事?」

「はてな文字は謎が多いの。まだほとんど解明されていないから本にも出来ないのよ。何も分からないから仮に『はてな』ってつけられたんだって」


 僕は詳しくスラスラと古代文字の事を話すユウカに感心する。ただ、そんな事を知ってる彼女自身にも興味が湧いた。


「でもどうしてユウカはその事を?」

「この文字、パパが研究してるからね。私も幼い頃からよく研究を手伝わされたから」

「ああ、そう言う……」

「はてな文字は2万年前に実在して今は絶滅したとされる『はてな民』が使っていたとされているんだけど……。どうしてその文字をソウヤ君が?」


 彼女の話を興奮しながら聞いていたら、今度は逆に質問されてしまった。正体を知らなかったとは言え、まだほとんどの人が知らない文字を知っていたら誰だって疑問に思うよね。

 僕はここでトリの事をユウカに話していいのか悩む。


「どうしたの? どこかでこの文字を見たの?」

「え、えっと……。どこだったかな……多分この図書室にあった本だったと思うんだけど……」

「この図書室に? 私は見た事ないけど……」

「ユウカだってここの本を全部読んだ訳じゃないだろ?」


 僕は咄嗟とっさにトリの存在を誤魔化した。今はまだ話さない方がいいと思ったんだ。いつかはバレるかもだけど、少なくとも今はその時じゃない気がして。

 それに図書室にあった本に書かれてあった事は事実だし、その意味で嘘はついてない。

 僕のこの説明を聞いたユウカは、不審そうな顔で首をかしげる。


「うーん。はてな文字の事を記載していた本なんて出版されてたかなぁ?」

「これだけ本があるんだから禁書だってあるかもだよ?」

「ここは学校の図書室だよ? そんな危ないものがある訳ないでしょ。冗談下手だなあ」

「だ、だよね。あはは……」


 僕が笑うと、彼女もつられて笑う。どうやらうまくごまかす事は出来たようだ。その後は用事を思い出したと言う体で僕は図書室を後にした。詳しく追求されたらボロが出てしまうかもと考えたからだ。それに文字の謎は解けたし。

 ユウカから得られたこの情報をもとに、もう一度トリに話を聞いてみよう。


「はてな文字ホ?」

「そう、はてな民が使っていた文字なんだって。その言葉に聞き覚えはない?」

「むむ……? むむむ……?」


 トリははてなと言う言葉に反応したのか、必死で何かを思い出そうとしている。これでトリの秘密が分かるかもと、僕は興奮しながら次の言葉を待った。


「な、何か思い出せそうな気がするホ! ここまで、ここまで来てるホ!」

「マジで?」

「はてな……はてな……はてな? うわああああああああーっ!」

「えっ何っ?」


 記憶を思い出そうと頑張っていたトリが、ここで急に頭を抱えて苦しみ始める。この想定外の展開に僕は困惑した。


「頭が割れるように痛いホーッ!」

「大丈夫? どうしたらいい?」

「ダメだホ。はてなの事を考えると頭が痛くなるようだホ。考えなければ大丈夫ホ」


 どうやらトリにとって、はてなと言う言葉は禁句らしい。他に有効な情報を見つかっていないため、僕のトリの謎の解明劇はこうして幕を下ろした。昔の彼に何か深い事情がある事は確かなようだけど、今はそれを気にする必要はない。

 僕は自分の身勝手な好奇心でトリを苦しめてしまった事を謝罪する。


「ごめん、苦しめるつもりはなかったんだ」

「気にするなホ。もう大丈夫ホ」

「怒ってない? まだ僕の使い魔でいてくれる?」

「当然だホ! ソウヤは俺様が育てるホ!」


 相変わらずの態度だけど、元気になって良かったと僕は胸をなでおろす。トリはさっきの苦痛で疲れたのか、そのままぐっすり眠ってしまった。


 はてな民とはてな文字、そして2万年前――。


 もしかしたら、僕が考えるよりもっと深い事情がこのフクロウにはあるのかも知れない。僕は幸せそうな寝顔を見せるトリの頭をなでると、今の彼を大切にしようと、そう心に誓ったのだった。



 次回『ユウカ、突然の来訪』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888886392/episodes/1177354054888886605

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