紙とペンと勇気

百合好き

書ける、読める、言えない

私の恋は"普通"じゃない。

でも、"普通"って何なんだろう。別に辞書に出てくる意味がわからないという訳ではない。世の中の人がべらべらと話す哲学的な言葉で意味を問いたい訳でもない。ただただ疑問に思うだけ。答えも別に求めてない。


私の恋とは、同じ高校の同じクラスの子を好きになっただけ。"普通"な恋だと思う。たまたま隣の席になって、よく話すようになって、友達になって好きになった。それだけ。

私の通う高校が女子校でなければ"普通"な話。



自分がその子に惚れているのだと気づいた後、ネットで調べてそういう気持ちを題材にした作品を総じて「百合」と呼ぶのだと知った。本屋さんで百合漫画を買って読んでみたけど、自分自身の恋心と比べるとやけにドラマチックだなと感じた。


別に百合漫画に限った話ではない。恋愛を主軸とした話はどれも出会い方などにパンチが効いていた。

私と彼女との関係は傍から見れば「仲の良い友人」位のものだろう。当たり前だが、不倫関係とかそういうものではない。"普通"の関係。"普通"の友情。



百合漫画を読んで、私も自分の気持ちを伝えたくなった。思い立ったその日に便箋を買って帰る。行動を起こすのは割と早い方なのだとその時知った。

シャーペンを握り、とりあえず思うままに気持ちを書く。好きです。付き合ってください。でも、付き合って何をするんだろう。わかんないや。そもそも恋人居たことないし。


中学生の頃、所謂"普通"の恋をした。相手は部活の先輩で、気持ちを伝えることなく気付いたときには大して好きじゃなくなっていた。恋って伝えなくても終わるんだなと初めて知ったのがその時。伝えてたらどうなっていたんだろうとも思った。



書き終わった紙を畳んで封筒にいれる。宛名に……フルネームは少し恥ずかしいから下の名前だけ書く。その子の名前を書くだけで顔が緩くなる自分が馬鹿みたいだなと可笑しくなる。

封筒の裏に自分の名前。マスキングテープで封筒を閉じれば、あっという間にラブレターの完成だ。もっとドキドキするものかと思っていたけど、案外普通なんだなってちょっとガッカリ。



さて、このラブレターをいつ彼女に渡そうかな。靴箱なんかに入れて万が一彼女以外の人に見られたら嫌だ。それに、うちの学校の靴箱には鍵がついてる。鍵をかけてない人も多いけど、彼女はしっかりかけているのを私は毎日見ている。そういうしっかり者な所も好き。あっ、これもラブレターに書いておけば良かった。


メールで呼び出すのが無難かな。どうせお昼は一緒にお弁当食べるんだし、ちょっと大事な話があるとかなんとか言えば外で二人っきりになれるはず。よし、この方法でいこう。明日のお昼に話をしたいと彼女にメールを送り、了解の返信が来たのを確認して眠りについた。





"普通"じゃないって凄いことなんだな。"普通"じゃないってわかってるだけで、私の体は私のものなのに、体を動かす機能が最初から備わって無かったみたいに固まってしまった。


書いてきた手紙を彼女に渡そう。この前読んだ百合漫画みたいに告白しよう。好きだって彼女に言おう。







今日のお弁当のピーマンの肉詰め美味しそうだね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

紙とペンと勇気 百合好き @cu_i

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ