サービスの悪い駅員

ーーーー次の……は……行きです。お乗りの方は12番線にお乗りください。



プロロロ…ピュィーーー!



「電車が発車する音かーーー?」



音は聞こえるけれど何も見えないのでわからない。そもそも、駅に行く予定が無かったのでこれはおかしい。


「駅だとしても…駅員がだれか介抱してくれてないのか…乗客の世話は仕事だろ、サービス悪いな。にしても、やけに静かだな。12番線くらいあればもっと多くの乗客の騒めきや足音が聞こえるモノなんだが」


考え込んでいると地下鉄の駅に地上出入り口から、入り込む生暖かい風が頬に当たる。


同時に匂いもする。だが排気ガスの悪臭ではなく澄み切った山の匂いがするのはおかしい。アロマ設備でもあるのかもしれないが、六本木駅でも無い限りそうした設備はありえないだろう。しかし、ただのアロマオイルではなく複数の香りが入り混じっている。


ーーー次の電車はご乗車いただけません。お客様はホームの近くに近寄らないでください。電車は666番線に停車いたします。お間違えのないようにお願いいたします。なお、間違ってご乗車したことによる一切の責任は負いません。




………?



なんだこれ。666番線っていう数字もおかしいが、間違って乗車したらどうなるんだ?それにしても目を開けても何も見えない状況はどうにかしないといけないな。これじゃあ自分が今どうなっているのかもわからない。



「記憶が曖昧なのはこの際どうでもいい」



ーーー666番線に当駅止まりの列車が停車します。誤ってホームに降りないよう、エスカレーターゲートを封印いたします。特別な許可証を持参していないお客様は通過することはできませんので、無理矢理ご乗車することはお控えください。一度ホームに降りてしまったお客様は二度と改札口には戻ることはできませんので、666番線にお越しのお客様は準備が出来次第お越しください。



どうなっているんだよ。二度と改札口に戻れないって、なんだここ。きっと夢なんだ。悪夢でも見ているんだきっと。なんかホラー映画でも見たっけ?



しばらく時間が経過し、さきほどのアナウンスによって自分の近くで数十人の人間が集団でどこかに移動している。この駅は乗車アナウンス以外に駅内に人がまったくいないため、おそらく666番線の客だろう。



ーーーすべてのお客様が乗車口に並びました。ドアを閉めます。前のお客様の後ろのお客様は5歩離れてお待ちください。巻き込まれてしまう可能性がございます。



なんだ?



当駅止まりなのに、乗客を乗せようとしているのにドアを閉めるのか?それとも左右の扉一つが改札口に繋がっているホームなのだろうか。



ーーーキリスト教圏以外のお客様はご乗車できませんので、当事者のお連れの方は今一度、ご自身の所属をご確認ください。無宗教の方の行き先の証明はお客様ご自身で判断されますのでご理解とご協力をお願いいたします。


キリスト教?…666。あ、なんか映画でそんなのあったような気がする。確か不吉な数字の並びだったそんな数字だっけ。


ーーー現在、天国駅は封印されており楽園駅下車のみとなっております。お一人の方は楽園までとなっておりますので門を開けるための鍵をお持ちの方は駅係員にまでお知らせください。


あー、確かそんな内容だった気がする。


ーーー仏教など地獄が存在する教圏区画に行かれる方は、隣の駅をご利用ください。無宗教の方はアナウンスがされるまで当駅にてお待ちください。


ここって、まさか地獄か天国行きのホームなのか?


ーーー無宗教の方はご自身が完遂できなかった人生情報を元に、ふさわしい世界に送り出すセレモニーを行います。セレモニー会場に移動してください。なお、この駅構内での出来事は新しい世界に行くまでの一時的な記録となります。この場所での記憶は消去されますので、ここでの交流はお控えください。


ーーーなお、特別待遇された方は専用列車がございますので、駅長にお尋ねください。


へー、そうなのか。よく異世界転生モノで神様とか引導を渡す役の人と出会う前の出来事、なんだろうな。この駅は。


ーーーお客様にご注意していただきたいことがあります。当駅での殺人行為を行うことは当駅の判断で処罰させていただきます。元の世界で恩讐相手との巡り合い等の事件があったとしても我慢していただくようご協力お願いします。


そりゃあ、無理だと思うんだが。


俺はそれから隣のホーム、666番線の様子を見ていた。何もすることがないからだ。しばらく見ていると身なりが立派な人物が両脇を駅員に抱えられてホームに降りてきた。


「離せ!私は権力のある政治家だ!こんなことをすれば、お前なんか社会的に抹殺できるんだぞ!」

「ここはあなたの法が届く世界ではありません。あなたのところの治外法権です」

「では人道的に扱え!」

「いいえ、あなたは人ではありません。あなたは現世で人道主義と言いながらも他の民族を抹殺する企てを実行し、その最中に抹殺相手の民族に殺されました」

「あいつらは、人類以下だから当然だろう。それのどこがおかしいのだ。私の民族では無学な者でも私の民族以外は人間ではないと本心から思う」

「そうですか。私たちは裁判官ではないので特に意見をいうつもりはありませんが、あなたは無宗教の括りでありますので、奥の階段を降りた先にある専用ホームにお進みください」

「ようやく私をVIP待遇するか。遅いぞ」

「はい、ではあなたをこれから特別待遇します。そちらに行かれる方の中で特別待遇の方は、この世界をごゆっくりお楽しみください。そのための永久フリーパスをご用意しております」


係員に両脇を抑えられていたその客は、俺が見ているのに気がつくと俺を指差した。


「あの者はなんだね?」


俺を始めて発見した駅員は、特に驚きもしなかった。他のホームにいた駅員が階段を駆け上がり俺がいるホームに降りてくるようだ。その間、さきほど指差してきた人物は専用階段を一人降りていく。


俺を見ている駅員が話しかけてきた。


「お客様、どこから此処にこられました?」

「どこからって…あれ?思い出せない…」

「迷子でありますね」

「はい…」

「では事務室へいらっしゃってください。ここでは色々と問題があります」


ここにいても何も起きるはずがないから、駅員と一緒に詰所に行く事にした。

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転生先不定、ホームレス 志泉 @shisen

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