【カクヨム三周年記念作品4紙とペンと○○】 泳  い  で  参  っ  た  !!!

ちーよー

第1話 紙とペンと牛追牽牛夏彦星に機織牛郎織女織姫

 あぁ やっと背中も慣れてきたし、これで落ち着いて温まれる。やっぱ広い湯船は良い。 それにしても泳いで天の川はさすがにキツかったな~



「ひ 彦星~ 織ってあった着物置いておくから、温まったらちゃんと羽織りなさいよ! 」



「どうせ 真っ裸になんだから、後で良かったぞ。お前も入ってこいよ 」



 ドガッ



「変態 スケベ! 」



 うわっ。浴室のドア蹴りやがった。っつーか、あいつ見た目は大人っぽくなったけど、中身は変わってねーな。何か安心した。ずっとここに居てーけどアルタイルでは牛が待ってるしな。



 浴室から出たは良いが置いてあるのは長襦袢に着物、羽織に帯か……普段着ないから着方が分からねー

 痛くならないように着ないとな。ってか、帯の結び方ってどうやんだ?

 何か違う気もするな。こっちを上にすると……だーー 分っかんねーー

 絶望的に分かんねーー


 適当で良いだろ、こんなもん。ど どど どうせ脱ぐことになるんだしな。これで行こう。



「遅かったね。ごはんの支度すんじゃっ……」



 すっげー見られてるけど、やっぱ着方がおかしかったか。



「格好良い……」



 え?



「な 何でもない。今の無しね。ノーカンノーカン」



「聞こえなかった。もう1回言ってくれよ」



 やっべ。思わず顔がニヤけそうになる。織姫はすぐ顔が赤くなり、こいつの感情を隠そうとしても隠しきれずに、顔に出てしまうとこが俺は可愛いと思ってる。伝えた事はないが。



「うるさい! 少し襟が崩れてる」



 織姫が近付いてくると腕を俺の首に回した。

 考えるよりも反射的に織姫を抱き締めた。突然抱き締められた織姫は顔を遠ざけようと、手をバタバタさせて逃れようとしてた。



「ちょ 突然、どうしたのよ」



「好きだ。365回言わなきゃだし愛さなきゃ行けねーから」



 俺が言うと織姫は大人しくなり顔をうずめてきては、バタつかせていて手を俺の背中に回した。

 その瞬間、背中に痛みが走った。


「あっ! いって~ から……」


「うん。私も会いたかった」



 そっちの意味でもあるけど、今のは痛い。って意味だ。と心で突っ込みつつ、その場に蹲ってしまった。



「ど どうしたの!? どこか痛いの?」


 俺は一度羽織と着物を脱ぎ、上半身だけ裸になった。


「え! なに この傷!? どうしたのよ」



「天の川泳いでる時にやられた」



「やられた。って、誰に?」



「サソリに一角獣にオオカミとか、色々いるじゃん」



 織姫はすぐに薬を持って来ると、優しく背中に塗ってくれた。



「無茶するから。バカ」



「無茶して会えるなら、いくらでも無茶する。年1だぞ? 年1の無茶位なら、どうってことねーよ」



 パシン


「いってーー」



 織姫は薬を塗った背中を叩いてきた。



「はい。これで大丈夫。ぢゃ あたしは365日無茶して毎日会いたいな~」



「お前の方がバカじゃん」



 織姫の頭をポンポンと叩くと視線が重なった。どちらからともなく、少してしてから唇が重なった。



 夕食も追えたし、後はメインイベントだけだな。

 織姫に目をやると少し緊張してるのか表情が強張っていた。



「大丈夫か? 俺はとても大事な事だと思ってるが無理強いはしたくない。止めても良いんだぞ」



「大丈夫。止めなくて良いよ。私たちの大切な日だし、ずっと待ってたから」



 俺は織姫の手を少しでも安心出来るようにギュっと握りしめ、部屋を後にし外に出ると心地良い風が吹き抜けた。その瞬間、細長い紙がヒラヒラと舞っては下に落ちていった。

 織姫は必死で掴もうとしたが間に合わず、織姫自身が落ちそうになったので慌てて後ろから抱き止めた。



「あっぶね。気を付けろよ。じゃ 今年もやります。俺たちはまだ2回目だから速さよりも丁寧さを重視するぞ。去年何て申し訳無さ過ぎる位に何も出来なかったからな」



 織姫が覚悟を決めたように頷き、視線を落とすのを確認してから俺も視線を落とした。

 そこには願い事が書かれた短冊が拡大されて映し出されていた。



「やっぱ、健康や恋愛に家族の事が多いな」



 なるべく多くの願い事を成就して上げたいが、それらは俺たちの役目ではない。短冊には俺たちにしか見えないナンバーが付いてあり、俺たちは織姫の父親である天帝に内容を確認し、それ相応の願い事を書いてある短冊のナンバーだけを送っている。それを成就させるかどうかは天帝と正直に言えば、短冊に書いた本人の気持ち次第だ。



 たかが細長い紙にペンを使って短い文を書くだけ。それを俺たちは読むだけ。なのに書いた方は少しでも伝わってほしいと願う。俺たちは少しでも伝えたい思いを読み取ろうとする。



 願いを読むと書いた人の置かれている状況や考えや悩みが分かるので、会ったこともないニンゲンに対して親近感が湧いてくるから不思議なものだ。



 横に視線を送ると織姫も必死に短冊を次から次に確認しては仕分けをしている。



「織姫。お前も短冊に書いたんだろ? 何て書いたんだ? 」



 織姫は仕分けをしながらも口を開いた。



「お 教える訳ないぢゃん」



 そう言うと思ったわ。どーせ、俺と毎日会えますように。とか、ずっと幸せに彦星と暮らせますように。とかだろ。



 ん? なんだこれ。何かニンゲンのとは違う短冊が目に入ってきた。



「これ、何かおかしいな」


「あーー あれ大犬のシリウスぢゃない。見て見て、もっふもふ」



 俺は織姫が指す方向に目を向けたが何もいなかった。



「何もいねーじゃん。ってか、さっきの短冊。何かおかしか……あれ、消えてる?」



「えー 消えてるなんてあり得ないー。彦星の見間違いじゃない ? 」



 わざとらしく頭をかく織姫。俺はこいつの隠そうとしても隠しきれず、表情がすぐ顔に出てしまうのが可愛いと思ってる。一応2回言うわ。



「お前、隠しただろ?」


「何よ! 格下って? あんたと私は同等よ」



 はぁ~ わざとらしく話を逸らそうとして視線まで逸らしちゃって。



「俺、さっきのナンバーは記憶してるから、後で検索ベースに引っかければ内容は分かるんだけど」



 織姫は慌てふためくと、両手を胸の前で合わせ、目は相変わらずキョロキョロしていた。



機織牛郎織女織姫ハタオリギュウロウショクジョオリヒメ。短冊に書いた欲望まみれの願いを彦星に見られとうなく、目が泳  い  で  参  っ  た  !!!」



 ぷっ 俺は我慢できずに吹いてしまった。やっぱ、こいつおもしれーわ。



「いやー。まさか、織姫があんな事書くなんてな。まぁ 分からなくもないが」



「え? やっぱ分かった!? お姫様抱っこされた時に気付かれたのかな……」



 なにが? なんか俺が想像としてたのと違うんだけど。



「あのね。ちょっとだけだよ。ほんのちょ~っと体重が増えただけだよ。彦星来る前にダイエットしてたけど間に合わなかったから、短冊に書いちゃったんだ。彦星に気付かれずに痩せますように。って」



「ぜんぜっん気付かねーから! むしろ今のままで良いから、今のお前が好きだから無理すんなよ」



 思わず叫んでしまった…… 織姫は照れてしまったらしく下を向いた。



「あーー 彦星の短冊見っけた」


 え? 俺のも落ちてたの?やばいやばい!!



「あれ! ケンタウルスじゃん。珍しいペルセウスと一緒にいる」



 俺は必死に指差しては誘導しようとした。



「興味ない。え~と。牛追牽牛夏彦星ウシオイケンギュウナツヒコボシの願いは。遠くからでもすぐに駆けつけ織姫を永遠に守ること。織姫にずっと好きでいさせるような男になること」



 一番見られなくない奴に見られた……



「えへへへ~。ひ~こぼし」


 気持ちわるっ! なに、その呼び方。ニヤニヤしながらすり寄って来てるし。



「ずっと好きでいさせてね」



 たかが紙とペン。でも、使い方によって力は絶大だ!

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