彼女は月イチで郵送されてくる
南乃 展示
1話目
「つまりそうして、私が送られてきたというわけだな」
「うん、動機と過程は全く分からないけど、結論だけは今判明しましたね」
「なんだと! 普通の男子ならここでもっと喜ぶところだろう! “年頃の少女が自宅にいきなり押しかけてきてはわわっ……///”って感じのシーンだぞ、このばかたれ!」
「なんでちょっと古い少女マンガのネタみたいなこと言われた上に突然ディスられなきゃならないんですかね、僕?」
「そういうシチュエーションなんだよ!」
「寝起きにチャイム鳴らされて宅配便が届いたと思ったら超デカい段ボールが運び込まれて、怖いから放置しようと思ってたらいきなり内側からハサミで切り開けられて人がずるっと出てきたんですが」
「そういうシチュエーションなんだよ!」
「えっこれもしかしてホラーな話なの?」
「はははおかしな事を言うなキミは、花も恥じらうような美少女な私がホラー存在のわけないだろう」
「美少女かどうかは分かりませんが、とりあえずその顔の酸素ボンベ外したほうがいいと思うんですよ」
「いや……キツかったんだぞこれホントに……段ボールの中って蒸し暑いし暗いし、酸素も薄いし」
「じゃあ入るなよ!! なんで入ったんだよ!!」
「携帯酸素スプレーなるものも世の中にはあるらしいんだがな? しかしあれは長時間の使用に耐えきれないらしいんだ。だから大型のボンベを選択してみた。私は賢いんだ」
「入らないって選択肢はなかったんですかね?」
「それはないな」
「なにその使命感」
「まあ長旅の疲れもあるし、ちょっとお茶でもどうだろう?」
「それ家主の僕が言うセリフだと思うし、ボンベ装備した不審者に言うセリフじゃないと思うんですよね」
「そっか……」
「急にしょげられても困るんですが」
「……まあ今回は急だったし仕方ないな。私はお暇をいただくとしよう!」
「えっ帰るの!? いやホント何しに来たの!? あっしかも帰りは徒歩なのか!!」
「ふははは! さらばだー!!」
「うわ行っちゃった…………ん? "今回は"?」
「うん、やはりインスタント食品はいいな。かさばらないのに一食の食事として充分満足感があるな。特に私はカレーメシが好きだぞ」
「そうですね。僕も好きですよ」
「えっ…………!?」
「なぜ照れる」
「い、いきなりそういう事を言うのはやめたまえよ! 私は食事の最中に驚くとお米が鼻から出たりするんだ!」
「とてつもなく要らない知識を得てしまった……」
「ちなみに麺類が鼻に行くと、それはもう地獄だぞ」
「知らんわ! 知りなくもなかったわ!」
「い、いや、まあな? 私は美少女だし? そんなブサイクな事態は半年に一度くらいしか滅多に起こらないんだがな?」
「半年に一度でも多い気がするんですが」
「はは、細かいことはもういいじゃないか! さあ食事に集中しよう!」
「その前にそろそろ、あなたがまた郵送されてきた理由を教えてほしいんですが」
「理由…………?」
「いやそこで首傾げられても」
「強いて言うなら、そうだな……そこにラージサイズの段ボールがあったから、かな?」
「いやそこでキメ顔されても」
「ちなみにキミは郵送と言ったが、正確には郵送と配送は異なるものだ。郵送は日本郵便株式会社が、配送は他のクロネコヤマトや佐川急便が行う荷物の輸送を指す。だから郵便物と宅配物は全く違うものなんだ」
「いきなり早口になった……!!」
「そして郵送で送れるのは最大サイズの"ゆうパック"でも縦・横・高さの和が170cm、重さが30kg以下までなんだ」
「それ以上は送れないんですね」
「おい私のことを今くそデブ女乙とか思ったろう。そういうの私すーぐ分かるからな」
「思ってませんけど!?」
「…………まあ? 超絶スレンダー美人モデル体型な私でも? さすがにその制限はちょっとだけ厳しいから? 郵送以外の宅配便を選ぶしかなかったというわけだ」
「そこまで必死にならなくても」
「ちなみにオススメは佐川急便の"飛脚ラージサイズ宅配便"だな。あれは良いぞ、サイズ合計が260cm、重さも50kgまで運んでくれるからな」
「まさか佐川さんも人を宅配したなんて思わなかったろうなぁ……」
「これが定形外郵便だと、サイズが90cmまでだし重さは4kg以内までになってしまう。人を送るにはたいへん厳しいことが数字からもわかるだろう。手首から先だけなら送れるかもしれないがね」
「発想がサイコパスすぎやしません?」
「ははは、発想と発送がかかっているな! うまい!」
「上手くないし狙ってもねーよ!!」
「さ、話も盛り上がってきたし次はヌードル系を開けようか。長旅で何も食べてないから、私はおなかが減っているんだ」
「もう帰れよ!!」
「郵便、宅配便の歴史を語る上で欠かせないのが……」
「配達されてきていきなりボンベ付けたまま話し始めるのやめません? めっちゃ汗かいてますし」
「む、すまない。これは濡れタオルか、気が利いているな。……あー生きかえる! 助かった!」
「おっさんかな?」
「おい、輸送コンテナも恥じらう美少女な私におっさんとはなんだ!!」
「シチュエーションがわからない! なんだそれ!!」
「あ、これ今回のお土産だぞ。日高昆布とかんぴょうだ」
「こっちのがすごく宅配便っぽい……けど、この人と一緒に段ボールに入ってたんだよなぁ……」
「乾物は保存がきくからな! 輸送と乾物、保存食は切っても切れない関係にあるんだぞ」
「人はナマモノですけど大丈夫なんですかね」
「よし今日もお邪魔するぞ、ずっと段ボールの中だったから酸素欠乏症、そしてエコノミー症候群になりかけていたんだ」
「全然大丈夫じゃなかった!!」
「さて、今回は"輸送の歴史の話"をするんだったな?」
「そんな約束も話す流れも無かったと思うんですが」
「輸送が特に重要視されたのは軍事関係だとされている。兵隊さんたちを運ぶのにも、遠くの戦地に物資を届けるためにも、計画された運搬技術は必須だったわけだな」
「ああ話始めちゃった」
「そこで出てくるのが、あの有名なナポレオン・ボナパルトだ! 彼はヨーロッパ内での転戦を行うにあたって兵站の輸送を重視していた! 今の貨物輸送を表す"ロジスティクス"は、彼の平坦部門の士官である"マレシャル・デ・ロジ"から取られたともされている!」
「すごい熱い語りだ」
「そして17〜18世紀のヨーロッパと言えば、最も流行っていたのが――」
「ん? 段ボールごそごそ漁って、どうしたんです?」
「――そう、トランプだね?」
「UNOだこれ!!」
「その時代のトランプの流行りは凄まじいもので、あのサンドイッチの逸話、トランプしながら食べられる食事としての話は有名だな」
「いや、あなたがシャッフルしてるそれはトランプじゃないんですけどね」
「ではこの7枚の手札がキミのぶんだ! さあ始めようか、2人UNOを! サービスで先行は譲ろう!」
「……あ、"スキップ"が3枚あったので同時出しで」
「えっ」
「あと"2"が3枚揃ってるのでこれも同時出しで。ウノですね」
「えっ」
「あ、今出された7と同色の7を出します。上がりですね」
「…………」
「いや2人UNOってだいたいこんな感じになっちゃうような……というかシャッフル全然混ざってないような……」
「くそう、楽しいな!! もう一戦だ!!」
「楽しいのこれ!? まあいいですけどね……次はこっちがシャッフルしますね」
「ショットガンシャッフルはだめだぞ、カードを痛めるからな」
「こんな分厚いカードの束じゃやり辛いししませんよ……」
「ははは」
「じゃ配りますね。ところで」
「んー? お、いい手札が来たな……」
「僕、来月から留学することになっちゃいまして」
「――――えっ」
「いや……唐突な話になっちゃって、なんかすみません。二週間くらい前に大学のイギリス留学試験に通っちゃったんです」
「……そうなのか」
「このアパートも一回解約して、来月からは海外に行くことになりそうです」
「そうか……いや、それは仕方のない、うん、仕方のないことだな」
「すみません」
「はは、なぜキミが謝るんだ。少なくとも私のような段ボールに入ってくる不審物に謝ることはないだろうに」
「あ、その自覚はあったんですね」
「なあに気にすることはない、観光もかねて国外の空気を楽しんできたまえよ」
「ええ、そうですね」
「よしっ! これでウノだな! さあ来い!」
「………………」
「ん? どうした?」
「なんと言えばいいのかわかりませんけど」
「うん?」
「最初は驚きましたけど、意外と楽しかったですよ。こういうの」
「ふむ」
「……あ、僕もウノですね」
「ぐぬぬ、同時ウノか……! まあ何にせよ、キミが楽しんでくれたのなら私も月イチで宅配されてきた甲斐があったというものだな」
「はい、ありがとうございました。いやお礼を言うシチュエーションなのかが分かりませんけど」
「ははは、キミもようやくシチュエーションにこだわるようになってきたな」
「お、上がれました。……もう一戦しましょうか?」
「うむ、遊ぼうじゃないか」
「………………」
「国際宅配便には幾つかのサービスがあるが、問題になるのはやはり関税だな。国ごとに物品税や荷物の付加価値税が掛けられることがある、ここが国内便とは違ってやや面倒なところだな」
「海外まで来た……!!」
彼女は月イチで郵送されてくる 南乃 展示 @minamino_display
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