僕はペンギン君はミツバチ

八ツ波ウミエラ

ゲーム

 駅の噴水で待ち合わせ。


 あそこのベンチに座っているキリン?違う。クレープを食べてるイルカ?違う。風船を持った柴犬?違う。


「そこのタンポポに顔つっこんでる君だろ」

「あ、みつかっちゃった」


 ミツバチはタンポポから顔をあげて、こちらをみる。


「なんでミツバチなんて小さいものになるかなぁ~。みつけるのに手間取ったよ」

「えへ。ねぇ、どうやってみつけたの?」

「企業秘密だ」


 デート開始。ふたりで水族館に行く。水族館の中の喫茶店でパフェを頼む。白イルカパフェだってさ。かわいいね。喫茶店には、シャチと三毛猫のカップルもいた。ペンギンとミツバチのカップルと、どっちが珍しいかな。食べ終わると、アデリーペンギンをみにいく。ペンギンは少し驚いたような顔をする。僕をみたからだ。ペンギン君、僕はね、ペンギンだけど、ペンギンじゃないんだ。


 人間が人間をやめてから、もう何百年も経つ。つまり僕も何百歳ってことになる。何百年もむかし、人間はふと進化してしまった。いつでもどこでも誰でも、好きな姿になることが出来るんだ。最初は皆、美しい外見の人間になったものだったが、いつしか動物の姿にばかりなるようになった。キリンやイルカや柴犬に。これがなんなのか、誰も知らない。動物になってから、誰もこれについて調べようとしなくなったから。研究や探究って、結局は人間の習性だったんだなぁ。


「これにてデートはおしまい。よし、いつものルール確認だ。来週、僕はアデリーペンギンじゃない姿で噴水で待つ。君はそれをみつける。君はミツバチの姿のまま来るんだぞ。いいね?」

「らくしょ~、らくしょ~」

「笑っていられるのも今のうちだぞ」


 別れ際に宣戦布告。僕はニヤリと笑う。


 ひとつのゲームをしている。恋人という動物をみつけるゲームだ。


 駅の噴水で待ち合わせ。


 待ち合わせ時間ぴったりに、ミツバチがあらわれた。今回の姿にはかなりの自信がある。きっとみつけられやしない。ゲームは僕の勝ちだ!


 ミツバチは噴水のまわりを1周して、タンポポの花に近づい……


「みーつけた」

「な、なんで分かったんだ?僕はタンポポの花になってたんだぞ!動物じゃなかったんだぞ!!」

「いつもと同じやり方で分かったよ」

「いつものやり方って…僕と同じ方法か?君は僕をチラチラみてくるから、いつも視線で分かる!!でも花には目が無いから分からないだろ?」

「ううん、一番かわいいなって思う子に話しかけるの。そしたら、その子がきみなの」

「はぁ?!僕はどちらかと言うとかっこいい系だ!クールで、知的な……かっこいい系!!」

「あはは」

「笑うな!!」


 姿を変えて待ち合わせて、みつからなかったら、勝ちだ。僕も君も、このゲームに勝ったことがない。


 デートの最中にこんな話をする。

「僕、もともと人間だったのは覚えてるけど、男だったか女だったかは忘れたよ」

「あ、ぼくもだよ。おそろい~」


 人間をやめた人間は、明日はどんな姿になろうか。

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僕はペンギン君はミツバチ 八ツ波ウミエラ @oiwai

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