私がアイドルになるまでの少し不思議な物語

にゃべ♪

クラスメイトからの恋愛相談

 それは私がアイドルになってすぐの頃、当然アイドルの仕事はほぼない訳で、レッスン漬けの日々。それと、時間に余裕があると言う事で学校にも割と真面目に通っていた。

 レッスンは放課後からなので、学校には毎日通う訳ですよ。有名でもないので周りには秘密って訳でもないけど、アイドルの事は話さない訳ですよ。

 今日も普通に登校すると、クラスメイトの男子が声をかけてきた。


「よお、今日もいい天気だな千春」

「気安く話しかけないで健吾」

「別にいいじゃん」


 この馴れ馴れしい男子、名前は田島健吾。このクラスになって初めて出会ったのにすぐに軽く話し合える関係になった。まぁそれだけだけど。


「千春はほら、話しかけやすいんだよ」

「千春ちゃん、おはよ。健吾君も」

「お、おう。じゃ、またな」


 私が健吾と話していると友達のみちるが教室に入ってきた。彼女、水樹みちるは小学生の頃からの仲良し。同じクラスになった時は嬉しかったな。この間の席替えで席も前と後ろになって、最近じゃよく話してる。あ、私がアイドルしてる事はまだ内緒。話すのはもう少し有名になってからって決めてるんだ。

 その日もみちるとは他愛のない話をしていたんだけど、昼休みに深刻な相談をされてしまった。


「あ、あのさ。ちょっと聞いてもらってもいい?」

「何、改まって」

「相談があるんだけど、いいかな」

「うんいいよ」


 友達からの相談! いいね! 何か青春してる感じがする。こう言うシチュエーションに憧れていた私は、胸を躍らせながら彼女の次の言葉を待った。


「私、健吾君が好きなんだ」

「え……っ。そうなんだ」

「彼、彼女とかいるのかな?」

「いや知らんけど」


 まさか、みちるの好きな相手が健吾だったなんて。チャラ男の健吾だったなんて。背の高さが平均よりちょっと高くて運動神経も学力も平均よりちょっと高くて魅力と言ったら笑顔くらいしか思いつかないあの健吾が好きだなんて。


「て言うか、あいつでいいの?」

「健吾君だからいいのっ!」

「あ、そう……」

「もういい! 千春ちゃんなんか知らない!」


 何気ない一言で私は彼女を怒らせてしまう。それからは何故か一方的に無視され続けてしまった。あれ、おかしいな? 私の求めていた青春てこんなだっけ? 

 私は大事な友達をなくすかどうかの瀬戸際にいきなり立ってしまった。こんな事ならもっと真剣に話を聞いてあげれば良かったよ。ああ~へたこいたァ~。


 結局下校時まで彼女の機嫌は直らず、私は寂しい気持ちでアイドルのレッスンに向かう。そんな気持ちで身が入る訳もなく、この日はトレーナーに怒られてばかりだった。

 家に帰った私は今日の出来事を真剣に反省する。やっぱり友達は大事だよ。人生の潤滑油だよ。


「仲直りするしかない!」


 そうと決まったら即行動と言う事で、まずはどうやって仲直りすればいいか顎に手を当てて考える。恋愛相談でこじれたのだからそれを手伝えばいいよね?

 と言う訳で、次に取る私の行動は決まった。


「で、また森に来たのかホ」

「お願い、師匠は恋愛の願いだって叶えるんでしょ? 私を助けて!」


 次の日の放課後、私はレッスンを仮病でサボってまたあの森へと向かった。願いを叶えてくれるフクロウ、トリ師匠のもとへ。

 森に入ると、師匠はすぐに飛んで出迎えてくれた。私は軽く挨拶を済ますとすぐに要件を口にする。


「分かったホ。詳しく話すホ」

「聞いてくれる? やった!」


 こうして強力な味方を得た私は、事の顛末を全て話した。友達のみちるの事、健吾の事、私の失敗の事――。

 師匠は私の話を首を動かしながら黙って聞いていた。


「……と、言う訳なんだけど、どうしたらいい?」

「告ればいいホ。友達にそう伝えるホ」

「え……っ?」


 私はこの言葉に思わす息を呑む。予想出来ない訳じゃなかったけど、即答だったものだから。

 私がすぐに反応出来ないでいると、師匠は急に震えだした。


「千春、手を出すホ」

「あっはい」


 言われるままに手を出すと、師匠は口から何かを吐き出した。私はそれをダイレクトに受け止めてしまう。バッチィ!


「なな、何ですかこれ!」

「これは恋愛のお守りだホ。みちるちゃんにあげるホ」

「こ、これを?」

「霊験あらたかな由緒ある神聖なお守りだホ! 気持ち悪がるんじゃないホッ!」


 こうして私は師匠からお守りをもらい、森を後にする。家に帰ってお守りをよく洗うと、それはきれいなピンク色をした勾玉だった。大きさは親指の爪の先くらいでちゃっちゃ可愛い。師匠の心遣い、プライスレス!


 次の日、時間も経過してすっかり機嫌を直していたみちるに私は勾玉をプレゼントする。


「これを私に?」

「うん、恋愛のお祭り。後ね、ししょ……じゃなかった、占いの人に聞いたら告白するべしだって」

「私のために聞いてくれたの?」

「そだよ。だって友達じゃん!」


 そう言う流れで私は昼休みに健吾を呼び出した。彼は面倒臭そうにしながらもみちるの待つ中庭に現れる。私は影でこっそり見守っていたんだけど、どうやら告白は成功したようだ。

 健吾の癖に彼女を持つとか生意気だぞ。しかも私の友達だぞ。


「え? 付き合ってない?」

「まずは友達からだって。でもいい。それでもいいんだ」

「健吾の癖に何考えてんだよ」

「怒らないで。それに遊びに行く約束はしたんだ」

「え……?」


 彼女の話によると、告白を切り出された後、彼は付き合うのはよく分からないからと軽く断ったらしい。それで友達でいいからってみちるの方から食い下がって、それで友達なら一緒に遊んでもいいよねって流れに持ち込んだのだとか。みちるさん、意外と策士。


「や……やったじゃん」

「これも千春ちゃんのおかげ。お守りのおかげで勇気が出たの」

「で、どこ行くの? 決めてないなら相談にのるよ?」

「ありがと、でももう決めてるんだ。日曜日にカクヨムランド」


 どうやら既にデートの約束はその場で決めていたらしい。私は愛想笑いを浮かべると友達の恋を応援した。


「頑張って! みちるちゃんなら大丈夫」

「うん、頑張る」


 みちるはそう言うと可愛らしく小さくガッツポーズをする。小動物みたいなその仕草に思わず抱きしめたくなってしまった。



 それから時は流れて日曜日。私は友達の恋の行方が気になってこっそりカクヨムランドへと向かう。遊園地に付くと1人淋しそうに入口で待つ友達を発見。

 私はバレないように深く帽子をかぶると、先に入園して待つ事にした。健吾、まさかすっぽかすって事はないよね?


 それから10分後、あたふたしながら彼はやってきた。全く、遅刻だよ遅刻。女子を待たせるとはこの重罪人め。合流した2人はそのままカクヨムランドへ。

 みちるは照れて初々しい感じなのに、健吾の方は何か普段通りの振る舞い方。本当に友達以上の感情はないみたい。

 そう言う姿を見た私はどこかホッとしたりもしていた。


 この遊園地は地元の遊園地なので特に有名なアトラクションがあると言うでもなく、普通に無難な遊園地。個性があるとしたら大きなきぐるみのマスコットくらい。

 それは丸っこくてゆるゆるなフクロウで、どこかトリ師匠に似ていた。もしかしたら師匠をモデルにしたのかも。


 私は物陰に隠れながらデートをする2人を観察する。各種アトラクションに乗ったり、テレビゲームをしたり。割合と楽しげではあるんだけど、2人の間にはどこか温度差があるようも見えた。

 夢中になって見守っていると、突然背後から声をかけられる。


「あれ? 千春じゃない? 何隠れてんの?」

「しーっ!」

「は? 隠れんぼでもしてんの?」


 声をかけてきたのは冬野深雪、私の所属するアイドルグループのメンバーだ。この日はオフだったので偶然遊びに来ていたらしい。何でこのタイミングで出会うかなぁ。

 仕方がないので私は何とか誤魔化す事にした。


「えっと、そう、隠れんぼ」

「あそこの2人とやってんだよね? おーい!」

「ちょ」


 変に勘違いした深雪は事もあろうに今私が偵察中の2人に声をかける。こうして私の隠密作戦は唐突に幕を閉じた。


「あ、千春も来てたんだ。友達と?」

「あ、ああ、うん。そうなんだ」

「千春ちゃん、一緒に回ります?」


 この偵察は当然みちるにも秘密だったから、私が突然現れた事で目をパチクリさせている。変に気を使わせてしまうし、バレた以上は作戦終了だよ。


「い、いや、いいよ。今から帰るとこ、じゃあ深雪ちゃん帰ろっか」

「え、ちょ……」


 私は同僚アイドルの手を握ると、強引にその場を後にした。最後まで2人を見守っていたかったけど仕方ないね。

 十分に距離を取ったところで深雪には事情を説明し、私は素直に家に帰った。帰るって言った以上、もうここにはいられない。



 月曜日、教室に入ってきたみちるに私は謝った。


「ごめん、邪魔するつもりは……」

「うん、いいよ。でも今度からは前もって言って欲しいな」


 そう話す彼女の目は笑っていなかった。滅多に見せないその表情を見た私は背中にぞくりと冷たいものを感じる。その時、私達の姿を見つけて健吾が近付いてきた。

 ニコニコと憎めないあの笑顔を顔に貼り付けて。


「よお千春、来週の土曜ライブなんだろ? 見に行ってやるよ」

「なっ……」


 私はアイドル活動をしている事をまだ誰にも話していない。それなのに彼に知られていたと言う事実に私は動揺する。


「べ、別に来なくていいよ! 調子狂っちゃうし!」

「ほー。じゃあその顔を絶対見に行かなちゃだなっ!」

「か、勝手にすればっ!」


 この時、テンパっていた私はみちるにすごい顔でにらまれていた事に気付いていなかった。なのでその後急に口を聞いてくれなくなって焦ってしまう。思い当たるフシがないので今回ばかりはどうしていいか分からない。

 こうなったらまた師匠に相談しにいくしかないな。ハァ……。



 次回『私だけのオリジナルサイン』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888849038/episodes/1177354054888849223

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私がアイドルになるまでの少し不思議な物語 にゃべ♪ @nyabech2016

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ