鋼鉄女子マネージャーが侵略者⁉︎

愛澤あそび

第1話

扉町とびらまち高等学校運動部の侵略者。

ㅤ鋼鉄女子マネージャーこと神田花。


ㅤ彼女はマネージャーとして運動部に入部しては、練習の改善、戦略の見直し、体力の底上げ、レギュラーメンバーの入れ替えなどのマネジメントを行い、今までパッとしない成績の部活動を、全国大会や、その他に優秀な記録に導いてきた。


ㅤ途中からの入部にも関わらず、監督やコーチ、先輩方を気にせず、今までのやり方を全否定し、自分の意見を通す彼女は、鋼鉄のメンタルと言われ、いつのまにか鋼鉄女子マネージャーという異名がつけられた。


ㅤ彼女が、高校三年までには、野球部、サッカー部、バスケットボール部、バレー部、ラグビー部、陸上部、ソフトテニス部、バドミントン部、水泳部、剣道部。

ㅤ全てに何かしらの結果を残してきた。


ㅤそして、結果を残すと彼女は退部し、他の部活へと入部し、また結果を残す。

ㅤその繰り返しでつけられたもう1つのあだ名が、運動部の侵略者。



「というのが、超人神田花だ。しかし何故こんなことを繰り返すのか。こんなことを繰り返していたら人間関係も相当なストレスがかかると思うのだが」

ㅤ演説するように語る彼だが、彼の前にはひとりの女子生徒しかいなかった。

「その行動理由が謎だと?」

「そうなんだよ、確かに結果を残してはいるが、部活を転々としたり、既存のメンバーやコーチ、顧問と揉めながらも、活動の改革をしたりと、何故わざわざそんな事をしているのか」

ㅤ気になる。と呟く彼は、高校二年、八木崎英斗やぎさきえいと

ㅤ図書館の隣にある小さな古書室を拠点にしたミステリ同好会の代表である。

ㅤそして、二人だけしかいないミステリ同好会のもう一人、彼の話に相槌を打つのは一学年下の飯口葵いぐちあおい


ㅤミステリ同好会。

ㅤ普段はミステリ小説を読み、文化祭では文芸部と一緒に部誌を発行するのが主な活動だが、時々八木崎先輩は、どこかから謎を持ってきてはそれを解きたがった。

ㅤ今回は、鋼鉄マネージャーこと扉町高等学校三年神田花の行動理念が気になるらしい。


「見てくれ、ここ三年の校内新聞。これまで、運動部の記事なんて一切なかったのに、彼女が入学した年から全国大会に出場を果たした。なんかの記事だらけだ」

ㅤ図書館で手に入れた過去の校内新聞をバサッと机に置いて言った。

「八木崎先輩。人の行動理由を謎っていうのもどうなんですかね?ただ彼女が超人だったってことじゃ無いんですかね?」

ㅤ葵は熱気のこもった室内の換気のため窓を開けた。

ㅤ夏の生ぬるい風が、彼女の肩まで伸びた黒髪や机の校内新聞を揺らした。

「確かにそれを言われたら、誰が何を考えてるかなんて、それぞれだよな。飯口も今時ミステリ同好会なんて珍しいよなぁ」

「私のことは今は……まぁ、いいじゃないですか」

ㅤ会話を遮るように言うと、彼女は続ける。

「実は何故彼女がそんな事をするかって、私知ってるんですよ」

「へぇ……え?知ってるのかよ」

「まぁ偶然ですけどね。ただ教えるのもあれなんで、探偵よろしく推理してみてくださいよ」

ㅤからかうように彼女は笑い、「ヒントは近くにあるかもですよ」と呟いた。


ㅤ近くにあると考えるとこの校内新聞だろう。

ㅤ一通り目を通したが、彼女の記事があるものもあれば、ないものもあった。

ㅤしばらく眺めていると、ふと気付くことがあった。

「スポーツ記事担当の記者、飯口俊いぐちしゅん。君と同じ名字だな?」

「おや、鋭いですね。飯口俊は私の兄ですよ」

「へぇ、飯口に兄がいたのか、しかも広報部とはね」

ㅤと再び記事に目を落とすと、それまで気にも留めなかった記者の欄。つまり、校内新聞の中で、その記事がどの生徒が書いたのかが書かれている欄。そこのスポーツ記事の担当は全て飯口俊の名前があった。

「これ、全部君の兄さんが書いたのか」

「そうなんですよ。うちの兄貴、スポーツライターを目指してるんですよね」

ㅤそうか、なんとなくわかり出した。

ㅤ飯口俊が関わっているから、妹である飯口葵もまた、鋼鉄マネージャーの内情を知っていた。

ㅤでも、いったいどんな関係?

ㅤそうか。

「つまり、スポーツライターを目指す飯口俊に記事を提供する為に、鋼鉄マネージャーは、運動部への侵略を繰り返し良い成績をあげさせていたんだ」

「おぉ!さらに鋭い」

「そして、鋼鉄マネージャーは、自分の功績を新聞という形で残してもらう。つまりギブアンドテイクの関係であったと」

ㅤ自信満々の八木崎は決まったとばかりに話を終えた。

「鋭いって言ってあげた途端これなんですからね」と飯口葵はため息をついた。


「途中まではあっていましたよ。鋼鉄マネージャーこと神田先輩は私の兄貴に記事を提供する為に、入学当初からあのような活動を繰り返してきました」

ㅤでも、と彼女は続ける。

「決して、新聞に自分の功績を残したいとかギブアンドテイクだとかそんなんじゃなかったんです」

「私の兄貴と神田先輩は幼馴染みでして、兄貴の夢も昔から知っていた。だから、だからこそ、早い段階から彼がスポーツ記事で活躍できるようにあんな行為をした。

そこまではあってます。

ただ、彼女の行動理由は別にあるんですよ。それがわかりますか?八木崎先輩」

ㅤ突然振られた質問に沈黙で返してしまう。

「愛ですよ。神田先輩は昔から兄貴が好きだった。愛ゆえの侵略。だからこそ、彼女は周りの視線や理不尽な言われようにも耐え、功績をあげ続けたんです」

ㅤこれが解決編ですよ。


「まさか、愛とはな。出てこないわこれは」

ㅤ下校を告げるチャイムが鳴り、校門へ向かう途中八木崎先輩は笑った。

「推理は途中まで鋭かったのに、そういうところは鈍いんですね」

「女子の行動理由なんてなぁ」

「まぁ、先輩にはまだ、わかんないですよね」

ㅤからかうように言うと、校門でそれぞれの帰路に別れた。

ㅤ振り返り、夕焼けに照らされた先輩の後ろ姿を眺める。

ㅤ先輩、恋した時の行動なんて自分にだってわからないものですよ。

ㅤミステリーをたしなまなかった私がこの同好会に入ったように。

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鋼鉄女子マネージャーが侵略者⁉︎ 愛澤あそび @asobizaka

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