ケンカするほど、なんとやら。

亥BAR

 仲良くなんかありませんっ!

  ゲーム同好会。みんなでゲームを持ち寄ってワイワイガヤガヤする適当な同好会。

 そのなかで、傍から見たらどう考えても仲睦まじい、いつ爆発してもおかしくない二人組がいた。


「むむむ……っ」

「どうだ。もう、俺の勝ちで決定だな」


 オセロ盤を置いたテーブルを挟み、向かい合って並ぶ二人。

 そのうちの片方、ハルミが悔しそうに唇を噛んでいる。


「お前の頭じゃあ、それが限界だな」

 カイトにさんざん言われるハルミ。しかし、ふと窓の外に視線をやった。


「うん? あれ?」

「あぁ? どした?」


 カイトが窓を見た瞬間、すかさず端からコマをひっくり返すハルミ。そして平然と立て直す。


「あっ、てめ、ズルしたな!」

「ざっまぁ!! カイトの頭はお花畑だね! こんなんにひっかかるとか!!」


 してやったりとケラケラ笑うハルミ。今度、舌を噛むのはカイト。もはや、どこがひっくり返されたのかも分からず修正不可。

 カイトは愉快そうなハルミを黙ってみるしかないのか? いな!


「うん? なんか、あそこ、おかしくないか?」

 おもむろに立ち上がるカイト。廊下側を指出す。


「おかしくないよ。はい、カイトの番」

「……」


「あれ? もしかして、それ作戦? バッレバレ! はっず! はっず!」

「……コロす」

「ハハーッ、それは怖いね。がんばってー!」


 立ったまま廊下を情けなく指差すカイトを、全力でからかってくるハルミ。立ち上がり、カイトの前で両手をヒラヒラさせる。

 だが、それこそカイトが狙っていたもの!


 すかさず足を前に出す。その足に当たったのはテーブル。オセロ盤が大きな音を立てて引っ切り替える。


「あっ、手が滑った」

「足じゃん!?」


 あさっての方向を見てごまかすカイト。そしてムキーッと抗議するハルミ。


「さきにやったのはハルミだろ? これでイーブンだ」

「ざーんねん、あたし、そこまでやってないし。だいたい、勝負を投げ捨てるとか、男らしくない」


 すました顔を貫くカイトに、口に手を当てからかい続けるハルミ。


 だが、カイト。内心ちょっと焦っていたりする。

 正直、やりすぎた。盤をひっくり返すのは、なんかもう、いろいろとハルミに馬鹿にされる要素しかない。

 そのままでは悔しい。なんとか、態勢を立て直さねばと頭を回転。


「そうか。逆に最後まで勝利のため足掻いたハルミは実に男らしいな」

「どういう意味よっ!?」


 ハルミのローキックを避けつつ、カイトはガッツポーズ。

 これでイーブンである。


「……、あ痛っ! 痛い! 待って!? オセロのコマ投げつけるのはやめよ!? な!? やめよ!?」

「うるさいっ! 男なら受け止めろ!」

 床にばらまかれたコマを拾い投げつけるハルミ。


 カイトは迫り来るオセロのコマを避けつつ、床に落ちたコマを拾う。

「そこだ!」

 そして投げる!


「はうっ!?」

 ハルミの鼻にクリーンヒット。

「ざまみろ!」


 が、ハルミ。しばらくうつむいたまま動かない。

「……あれ?」

 カイト。血の気がサーっと減っていく。


 恐る恐る近づき、ハルミの肩に手をおこうとするカイト。

 と、その瞬間。思いっきりハルミの顔が上がった。


「はいウソー! 残念でした! 本気で心配してやんの!」


 トラップだった。

 だが、カイト。その返しは幾度となく経験していた。もはや、カイトにはそれは効かない。


「マジ、それはない」

 少し声のトーンを下げて、もともと座っていた椅子に座り直す。

「そんなんだと、本気で怪我したときも、ウソだと思ってスルーされるぞ」

 乱暴に肘をテーブルに立て顎をつく。


「えっ!?」

 ずっと愉快そうに笑っているハルミの顔が急変。

「あの……マジで怒った?」


 カイトは無言で明後日の方向へ首を曲げる。


「いや~、その~……少しはやりすぎたかな……なんて……」

「ふっ」

 ハルミの焦る姿に我慢していた笑いがこぼれるカイト。


「はぅぁ!? 笑いやがった! 演技か、チクショウ!」

「いい顔だった。傑作をありがとう」


 今度はからかうカイトに、仕返しするタイミングをはかるハルミの構図。互がにらみ合って、次の手を探り合う。


 そんな二人に近寄る女子生徒が一人。

「あんたたち、そんなに見つめ合って……夫婦ケンカ楽しい?」

「「してませんっ!!」」


 この同窓会のリーダーとも言える人物が言う言葉を全力で否定するカイトとハルミ。

 だが、そんな二人は次の瞬間、頭を叩かれていた。


「がっ!?」

「はうっ!?」


「だったら、さっさとオセロ盤片付けろ! コマ失くしていたら承知しないぞ!」


 リーダーの雷を落とされ渋々、しゃがみコマを拾い始めるカイトとハルミ。


「……って、散らかしたのカイトだよね……あんたが全部拾うのが筋じゃない?」

「あれ? コマを意図的に投げ飛ばしてあちこちに散らばしたのはどちら様だっけ?」

「……ちっ」


 文句をいい、互いに言い合いながらも一緒に散らかしたオセロを拾い集める二人。

 そんなのを眺めてリーダーはため息をついていた。


「ホント、あんたたち。仲いいね」

「「仲良くないっ!!」」



 カイトとハルミ。今日も仲良しイーブンである。

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ケンカするほど、なんとやら。 亥BAR @tadasi

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