カット・アップ

夏冬春秋

カット・アップ

「あー、あーあーあー、マイクテストマイクテスト」

 男はマイクの調整をしていた。

 息を整えた男は、調整の終えたマイクに声を乗せる。

 顔は勿論、カメラに向けて。


「それじゃあ、生放送スタートと行こうか。誰か質問のある人はいるかな?」

 チャット欄が猛スピードで流れていく。

 男の眼球も蠅を追うように速く動いていた。

「んー。じゃあ君だ。“はるたし”くん。『好きな芸能人は?』いいねー。こういうのが良いね。ずっとこういうので良い。好きな芸能人はほらっ、あの子、今ドラマ出てる。……松、松なんとかちゃん。 あ、そう!それ松川ちゃんね!ありがとう」

 男は普通に話し、笑っている。

「じゃあ、これで一個目だね」ぐしゃ

 男はまだ笑顔だ。

「次!“ぷてらのどん”くん。『いつも心がけていることは?』あれ?抱負みたいな事?そうだなぁ、汚れてもやりきることかな?何でもやってしまったことはやりきった方が良いからね。はい、これで二個目」ぐしゃ

 まだ笑っている。

「“ACE”くん!『何でこんなことしてるの?』なんでだろうね?ちゃんとよく見て、よく考えてみろよ。なぁ?」

 少し語気が強くなった。

「これが三個目」ぐしゃ

 顔が青くなり引きつってきている。

「“qえーD”くん。『じゃあさ、なんであんなことしたのww』それはさぁ、ほんの出来心っていうか、そういう趣味だよ。君達もさぁ、自分の好きなもの否定されたら怒るでしょ?好きなことだからだよ。はーい四個目―」ぐしゃ

 息を荒らげ、虚ろにカメラを見つめている。

 限界を超えている。

「ラスト!“やま”くん!『もうこんなどっきりやめてくれない?』

あははははははは!!やめる訳ねぇじゃんか!!どっきりでも何でもねぇよ!本当だよ?事実だよ?全部お前らのせいなんだからな?お前らがそんなに望んだんだからやってんだよ!お前らの言った『死ね』の言葉でホントに死ぬところを見せてやるよ。被害者の親だか知り合いだか知らねぇけど、自分の目でよく見ろよ。これが人が死ぬてことだ、これが死刑だ。これが、普段お前らが人任せにしている“殺し”だ“死”を軽んずるなよ。この国は、何でも軽く見ている。

 これが最後だ」ぐっ、ぐちゅ

 

 巷を騒がせていた連続バラバラ殺人犯は、自らを切り、世間を切っていった。

 SNSでは、事件当時から男の死を望む書き込みが複数見られていた。

 六件目の事件後SNSで犯人とおぼしき男が特定された。

 この男である。 




 

 後の調べでは、この男は事件と一切関わりが無いことが判明した。







『ホントに死ぬのは草』『スクショ完了』『やりますねぇ!』『は?』『首切って死ぬのはワロタww』『犯罪者が語ってんなよ』『トラウマ確定』『今きたけど何があった?』『完全に逃げ』『なんか知らんが泣いた』『セルフ死刑は草』『何が言いたかったの?』etc.etc.

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カット・アップ 夏冬春秋 @KatouHaruaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ