忘却彼方探偵事務所
くりこ
1,何を忘れたのか忘れる
ここは都内某所のオフィス街、からは外れた3階建ての建物に間借りして経営している忘却彼方探偵事務所、事務所内には特に目立つものはなくありふれた探偵事務所と言える、と思う。他の探偵事務所を知らないのでこれは勝手な憶測である。一番目立つ物といえば、壁に貼られた大きな張り紙、この探偵事務所のルールがいくつか書かれたものだ。
その張り紙の横で何やら作業をしている人物が一人、二人きりで切り盛りしているこの探偵事務所の所長である『
そしてそれを見ているのがこの事務所のもう一人の従業員『
「所長、お茶なら向こうの棚に置いてありますよ」
「え?…あ、本当だ、ありがとう葉須くん」
ちょっと周りを見ればわかるのに…なぜ僕がここで働いているのかというと経緯は忘れた。僕は人よりちょっと忘れっぽいようだ、ちょっとだけ。
僕自身には全くそんなつもりはないのだが、他人との会話の始まりは大抵『また?それこの間も言ったよね?』なのでそう思おうという努力をしている。でもこっちとしては言われていないのだからまたも何も…。
それはさておき、今日は事務所にお客さんが来ることになっているらしい。この探偵事務所の説明を心の中でする少し前に彼方所長が言っていたのだ。流石にそんな旬な話題は忘れない。
時計を見ると今の時間は午前9時過ぎ、何時に来るのかは忘れたがここでデスクワークをこなしていればいずれその答えもわかるであろう。とりあえずノートPCを開きながら僕は所長に話を振った。
「あの、さっき言ってたお客さんの依頼ってどういうものなんですか?」
「あぁ~なんか探しものがあるから手伝って欲しいって内容だったなぁ。詳しいことは来てから話してくれるみたいだよ」
聞き慣れた彼方所長のなんだか適当で間の抜けた返事、お茶のパックも見つけられないのに大丈夫だろうか。
先程の話に少し戻るが僕はなぜかこの人に関しての記憶は一度も飛んだことがないようなのだ、まぁ上司だし?気を張ってる的な?と思う。
僕はちょっと忘れっぽいが所長に関することは忘れない、そして所長は一度見聞きしたことは忘れない。が、他人から忘れられてしまう特異体質の持ち主なのだ。なぜみんながそんなにこの人のことを忘れるのかと僕は不思議でしょうがない、ちょっと忘れっぽすぎる、病院に行ったほうがいいのではないか?若年性何とやらであると疑わずにはいられない。
「探しものと言えば、僕も探しものをしているところでした。依頼人が来る前に解決しないと」
「手伝おうか? 何を探してるんだい?」
「忘れました」
覚えているわけがない。きっとそれを覚えていられたら、最初から何かを失くす訳がないんだ。
そんなことを考えていると突然事務所のベルが鳴る。すると30代くらいの主婦らしい女性が入ってきた。
何だこの人急に入ってきて、うちは事前に連絡した人からの依頼しか受け付けていないのに、張り紙に事務所のルールが大きく書いてあるのだから間違いない、こわっ
「あぁ~お待ちしてました、
「あっ…」
僕は所長の言葉でこの人はうちの依頼人なんだと理解した。
忘却彼方探偵事務所 くりこ @anokonchi
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