第27話 国家錬金術師


「……国家錬金術師って何ですか?」


 アレクさんとゴードンさんは唖然とした表情で俺を見ていた。


 そもそも、俺はまず国家錬金術師というものが何なのか知らないのだ。役職名は何やら凄そうな雰囲気を感じるが、一体どういうことをする人なのかがさっぱり分からない。


「ホープくん。君にまず、錬金術とは何か教えよう」


 ゴードンさんは真剣な眼差しで話し始めた。


「いいかね? まず錬金術とは卑金属を金属に変えるというのが大元であった。しかし錬金術で行える幅は時代とともに変化し、もはや『神の御業の再現』ともいえる域に達した」


「魔法とは違うんですか?」


「魔法は自身のマナを性質変化させて行使するのに対し、錬金術は100%スキルによるものだ。スキルの使用にマナは消費しないからな」


「なるほど」


 これだけ聞くと魔法より錬金術の方が優れているように思う。


「錬金術のスキルを持つ者は割といる。しかし、錬金術の行使には必ずを必要とする。錬金術によって引き起こす事象が高度になればなるほどその対価も比例して跳ね上がる。この対価が枷となり現代では殆ど錬金術を使うものはいない」


「それでは国家錬金術師さんもちゃんと対価を払っている、ということですか?」


「それが違うのだよ」


「え?」と俺は思わず口にした。

 錬金術の行使には対価を支払う必要があるため、いくら万能なものといえど錬金術を使う者はいないという話のはずだ。

 それを、違う、と。ゴードンさんは言った。


「彼はユニークスキルによって対価を払うことなく錬金術師を行使することができるのだ。リスク無しの錬金術などもはや反則だ」


 ゴードンさんは呆れたように苦笑を浮かべた。

 つまり、高度な錬金術をいくら行おうとも国家錬金術師さんはノーリスクでそれが行使できる。まるで欠点が無い。


「何がやばいってな、アイシャは錬金術で若く健康な肉体を自身に錬成し続けているという話だ。俺がガキん時からアイシャの見た目は変わってねぇ」


「自身の肉体をも錬成の対象にしているのだろう。魂にも干渉出来ると聞く。まったく馬鹿げてるよ」


「不老不死ってことですか!?」


「そう言う者もいる。実際のところは彼にしか分からない」


「なんですかそのとんでも能力は……」


「君も人のことは言えんがね」


 ゴードンさんはため息を吐いた。


「いや、さすがにアイシャさん程じゃ……」


「それはない。先ほど君の【ユニークスキル】の説明を読んだが、私の解釈通りなら君は無敵だ。誰も勝てない」


「【アンフェア】のことですよね? でもあれはただ相手のステータスを『1』上回るだけで」


「その『1』が問題なのだ。本来ステータスに数値などない。全てアルファベット表記だ。もしそれぞれに数値が存在し、それらを『1』のみ上回るなら実際大したことはないのだろう。しかし、これはただのスキルではなく【ユニークスキル】であることを忘れてはならない。必然的にこの『1』というのはと捉えるのが妥当だろう」


「越えられない……壁……」


 話を聞いて思い当たる節がある。

 先ほど追い剥ぎ集団に襲われた時にまるで赤子の手をひねるかの如く楽に対処できた。それも自分より体格の優れた相手にだ。

 ただ相手よりステータスが『1』上回っていただけなら実力はほぼ拮抗していたはず。


 ゴードンさんの仮説通りなら、この【アンフェア】というユニークスキルはそのままの意味で実に不公平極まりない。


「何か思い当たる節があるみたいだね。君がこの歳まで無名でいたことが信じられないよ。アレク、お前が匿ってたのか?」


「いや? ホープと知り合ったのはつい最近だぜ? なんでも記憶喪失らしい」


「記憶喪失? これはまた……難儀なものだ」


「記憶喪失のユニークスキル二つ持ちだぜ? こんなのほっとける訳ねぇよな。総会に報告した方が良いと思うぜ?」


「当たり前だ。私の方から報告しておこう」


「頼んだぜゴードン。そんじゃホープ、アイシャのとこ行くぞ」


「はい」


 俺はゴードンさんに軽く頭を下げると、アレクさんに続いてギルドを出た。


 いよいよ国家錬金術師のアイシャさんと会う。

 話を聞く限りではとんでもない人ということは分かってるが、実際はどんな人なんだろう。


 会うのが楽しみだ。

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マモノの勇者 五巻マキ @Onia730

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