勇者の腰巾着
仲仁へび(旧:離久)
第1話
我らがクラスの最底辺の2番手は実は1番手だった。
何言ってるのか分からんと思うけど、とりあえず最初からはなそう。
その瞬間が来たのは、唐突だった
特にまばゆい光があったとか、神々しい演出があったとかではなく、ほんの一瞬だった。
ぱっと目を開いて、「あ、ちょっとゴミが入ったかな」と思ってちょっと目を閉じてみた次の瞬間に、景色は切り替わっていた。
視界にあるのは、だだっ広い草原のみ。
教室にいたはずの俺達は、一瞬で別の場所に移動した事になる。
物分かりが良かったクラスメイトは、刺激に対して鈍く出来ている連中ばかりだったらしい。ある意味で世間ずれしていると言えば良いのか。いわゆる最近はやりの異世界転生だと一瞬で皆が気が付いた。
特に驚き慌てふためるわけでもない彼らが頼ったのは、そこら辺にいるかもしれない召喚主……ではなく、クラスのまとめ役だった。
そいつは、女子からは好意の感情を込めて氷雪の騎士と呼ばれ、男子からはやっかみと達観の感情を込めてリア充野郎と呼ばれている
時限が違う人間なんて漫画やアニメの中だけの存在かと思っていたけど、一応存在しているらしい。
竪月氷雨は、見ず知らずの土地に降り立ったにもかかわらず、驚異的な適応能力で順応し、右も左も分からない自分を含めたクラスメイト何十人を、無事な場所まで引っ張って見せた。
前々から生まれる世界を間違えたチート野郎だと思っていたが、その認識は間違いではなかったらしい。
思春期特有のオラオラな男子学生でも、こいつになら負けても仕方がないと思えるくらいの人間だった。
……おいこら、何ガンつけてんだ、あ?
あ、すいません氷雨さん。以後、気を付けます!
あー、ごほん。
話を戻すけど、間違いなく勇者として召喚されたのは竪月氷雨のみだろう。俺達はきっとオマケにすぎない。
か弱いお姫様から「世界が実はピンチなんです、助けてください勇者様」と言われて、二言目で頷ける懐の深さを見せられるのも、アイツ以外いやしない。
この異世界に召喚された俺達の中で一番勇者としてふさわしいのは、竪月氷雨ぐらいのはずだ。
お城から脱走したお姫様(息抜きしたかったらしい)を助けたり、治療費の足りない少女に薬を渡してあげたり、はたまた借金取りに売り飛ばされそうになった綺麗なお姉さんを助けてあげたりと、どんな聖人だよって思うがな。
なのに当の本人は「僕は所詮2番目にすぎない」との事だ。
まったくもって意味不明だ。
けれど、唐突な異世界転生事件から早一か月。
勇者ご一考として俺達もまとめて、魔法やら武術やらを学んで、慣れ始めた頃。
その理由は分かった。
竪月氷雨の周囲には、腰巾着みたいな男がいる。
チンピラっぽい男で、路地裏でいたいけな少年少女を脅してカツアゲしてそうな奴。
名前は、
名前のキラキラっぽさは、竪月氷雨と良い勝負だけど、性格や能力はまるで正反対。
暁紅蓮はあんまり頭の出来がよくないようだし、気にくわない事があると所かまわず、誰彼構わずケンカ腰だ。
だから誰もが思った。
暁紅蓮は竪月氷雨のおこぼれが目当てで周囲を付きまとっているんだと。
けれど実際は違った。
忘れる事も出来ないあの日……。
って行っても分かんないから、説明するけど。
美味しいお宝があるとかの情報を手に入れた俺はクラスメイトの何人かと連れ立って、異世界をぶらついていた。
それでうっかり町の外に出てったりして、ダンジョンを見つけて、あっこの中じゃね? ……って流れになって入って行った。
途中までは良かったんだけど、(それは途中からはそうじゃないって言ってるようなもん)案の定痛い目にあった。
ヤバい異世界生物にわんさか出会ってしまい、必死こいて逃走する羽目になってしまった。
美味しい所を山分けしようという事で誰にも言わずに町の外に出たから、生存は絶望的だったな。
けれど、クラスメイト達はそんな俺達を探していてくれたみたいでさ、間一髪助かったってわけだ。
驚いたさ。
その時に一番に駆けつけたのが、あの暁紅蓮だったんだから。
でも最初は、対した能力もないし、頭も良くないのに、よりによってお前かよって思ったな。
だって、いつも魔法の特訓も武術の練習もさぼってばっかだったから。
案の定その通りで、アイツの方が俺達よりひどいピンチになってた。
でも、そこからが生憎と違ったんだ。
火事場の馬鹿力っていうの?
大した力もないくせに、馬鹿力と体力で食らいついてって、足りないところは悪知恵で何とかしのいでって。
で、そんでももう限界が来てもう駄目だってなった時に、やっと本当の助けがやって来たんだ。
城を抜け出したやんちゃなお姫様や、治療を受けて元気になった女の子や、借金のかたに売り飛ばされそうになったお姉さんがやってきて、魔法を撃ったり、武器で攻撃してくれたりして、あっという間に敵を撃退してくれた。
ナンデ?
……て思ってたその時の俺らの顔は相当面白いもんだったんだろうな。
その場に駆けつけてきたクラスメイトの一人、あの滅多に笑わないクールな竪月氷雨が大笑いしたくらいなんだから。
で、俺達は当然聞いたわけだ。
あれは何なんだって具合に。
そうしたら竪月氷雨の奴、意地悪そうな顔して言ったんだ。
「君達は誤解している。暁紅蓮が僕の周りにいるんじゃなくて、僕が彼に付きまとっているんだよ。なぜって? 彼がいつもひっきりなしに色んな事に巻き込まれてくれて、面白いからだよ。僕はその中の最後の一つまみ……美味しいところのおこぼれだけを頂いているのさ」
その時分かっちまったんだよな。
俺達を助ける為に駆けつけてきたその女の子達を、本当に助けたのは……暁紅蓮の方だったんだって。
一番優秀な我らが期待のホープ、竪月氷雨は2番目の腰巾着だったんだって。
つまりだな。
そんなアイツに、全部の後始末の部分『だけ』を任せて来た、期待すらされてなかった2番手の腰巾着の方が実は凄かったって事。
勇者の腰巾着 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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