第13話「計画自殺」
断酒をしてからは前向きにこの「計画自殺」を真剣に考え、新たに生命保険をかけた。なぜかというとこの時期約30年間アルコール漬けだったオレの頭の中は断酒をして幾分混乱していたかもしれない。娘達に少しでも財産を残してやりたい、なぜかその思いが頭の中をぐるぐる駆け回っていた。考えてみると娘達が生まれてからもシラフの状態で真剣に愛情を注いできたことなど一度もないのではないか。常にアルコールが入った状態で酔った勢いでの真剣に愛情を注いできたつもりの馬鹿げた年月を費やしてきただけではないか。喜びも悲しみもつらいことも嬉しいことも全てアルコールというオブラートに包まれた目線で捉え表現してきたのではないか。アルコールを絶った今のオレには何もない、もはや死ぬことくらいしか残されてないのではないか。だったら自死を選んで保険金を娘達に渡したい。そんなことばかり毎日考えるようになった。そして馴染みのある保険外交のオバチャンを何度も家に呼び死亡保険に入る準備を始めた。
「死亡保険なんて例えば自殺目的で入っちゃう人もいるんでしょ?」
「いますよ。」
「へえー、自殺でも保険金て下りちゃうんだー」
「そう、でもね、契約してすぐ自殺しても保険金は出ないのよ。」
「えっ、なんで?]
「契約して3年経った後自殺すれば保険金は出るけどね。だって自殺を考えてる人って今死にたいじゃない、保険金目的で3年間も自殺の事考えてる人ってまずいないと思うの。自殺防止の事も配慮しての仕組みね。」
「なるほどねー、そりゃそーだね。」
しかし、オレには3年経っても自殺する自信があった。どこからくる自信かわからんが。
死亡保険の契約をして1年と半年が過ぎようとしている。断酒して2年半。少しづつ「計画自殺」という言葉が薄れ始めている。だが絶対自殺はしないという確証は今のところない。まだわからない。
「あー今日もこの雑踏の中で」
どうにかこうにか、なんやかんやな感じで生きている。
ああ、今日もこの雑踏の中で。 鳥殻モアイ @nhs-blood
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