【KAC2】2番目

霧乃

告白

「あなたのことが好きです」


 大学からの帰り際、唐突に女子にに引き止められ、飛び出した告白に、俺は思わず目を見開いた。講堂は確かに誰もいなかったが、あまりに唐突すぎて身動きできなくなる。

 しかし次に続いた言葉に、出ようとした曖昧な返答が引っ込む。


「…二番目にね」


 なんの、誰の、そんな突っ込みが脳内を駆け巡る。

 いったいなんなんだ!?





 そんな告白をしてきたのは、同じ大学の二回生、朝倉加奈だ。名前も素性も知っている。

 ただ話したことは数回、他愛のない挨拶とか、講義についてのやりとりとか、記憶にある限りそんなものだ。あとは、そう。先日あった大学の学院祭。その中で……。


「前田悠太くん」


 思考を巡らせていると、彼女が自分の名前を呼ぶ。


「そうだけど、なんなんだ?」

「私、前の学院祭でね」

「ああ」

「ミスコンに出たじゃない」

「…出てたけど」


 そう。ミスコン。

 大学内で美人だと思う女子生徒を決めるという、なんの変哲も無い学院祭での一行事に、彼女は出ていた。出るだけあって、彼女はかわいい。大きな目に、筋の通った鼻、しかし無理に飾り立てたりしない、自然な可愛らしさ。性格も明るいが、少し独特な感覚を持っているようで…なんて俺の感想はどうでもいいんだが。


「そのミスコンで私何位だったか知ってる?」

「…二位だったか」

「そう! 二番目だったの!」


 なんだ、自信があったのか…?

いやいや出たとか、誘われたからとか、色々噂話は聞いていたが、本人としてもまんざらでもなかったんだなと彼女の顔を見る。

 その彼女は嫌味でもなく、屈託無く話を続けている。


「もう来年からなくなるじゃない。ミスコン。時代に合わないって批判があって。だから私思ったわけ。私、永遠に二番目の女なんだなって」


 そういうものだろうか。

 彼女の中ではそうなんだろうか。


「それが俺に変な告白するのと、なにか関係があるのか?」

「永遠に二番目同士仲良くしませんか? みたいな?」


 永遠に…。

 その言葉にどう受け答えすればいいのか悩む。喜ぶべきなのか悲しむべきなのか。

 随分勝手な話だと思ったが、しかし言うべきはひとつ。


「…俺はミスコン、佐倉に入れたけど」

「…え!?」

「だから俺としては一番ってことなんだけど」


 しかし二番目にと言われたら…もう脈はない…のだろう、たぶん。


「…待って、ほんとに?」

「…嘘はついてない」


 頬が熱くなる。なにを言ってるんだ、俺は。

 無意識に踵を返し、奇しくも誰もいない構内を一気に歩き出す。


 彼女の顔を見ないように。


「待って! まってまって! 私もなの!」

「ほんとうは一番なの!」


 はたりと。

 お互い静止して向き合った。


「…一番になったら、告白しようと思ってて、でも二番になっちゃって、勇気が出なくて」


 それであんな変な告白をしちゃったの。と彼女ははにかんだ。

 気づけば沈みかけていた太陽がつくる、見事な西日に照らされてお互いの顔色は分からなかったが、もはや言うまでもないだろう…。


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【KAC2】2番目 霧乃 @okitsune-0w0

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