第ニ按~『商陽』②
🐟
ここ数日しっとりと雨模様が続いていた森であったが、今朝の顔は平穏な陽光が満ちて晴れ晴れとしていた。
山と海とに挟まれた、緑したたる森である。
樹々の高い梢の隙間を埋めて蔦が渡り、そちらこちらの幹の
風は森の平安に憩う精霊の乙女の衣の袖を揺らして嫋やかに流れ、緑の大地のそちこちを潤して流れる小川の水は淀むことなくさりとて肌に刺さる冷たさもない。
九十九の森と名付けられたは、精霊と鳥獣を愛した吟遊詩人が終の住処を構えるために
しかしいずれにせよ太古の昔のこと。確たる由来はもはや、長久の天寿を約束されたエルフの古老ですら誰も知らない。
───その洞窟は、森の一番日当たりが良く風の通りも爽やかな処に在った。
洞窟を出て四半刻も歩けば海に出る。…とはとても思えぬ陸性のつよい雰囲気。大地が盛り上がり大欠伸をしたような出入口の傍には、まるで目印のようにひときわ幹が太く枝ぶりも良い果実の大木が生えている。そしてさらにその足元からは、こんこんと冷たい泉が湧き出して。
山中に籠もる賢人か仙人が、ひょっこりと白髭面を出しそうなシチュエーションである。もし人跡途絶えた山林に天然の隠れ家を求めるとしたら、これほど理想的なものは無いのだろう。
しかし洞穴の出入口にかかっていた
結びもせずに背中に流したザンバラの銀髪。それは陽光にさらされるや水を弾くように虹の輝きをまとい。幼いながらも均整のとれた手脚はさながら祝福された聖花の
街中で十人並みの器量の者が着ていればみすぼらしいだけの、
顔の造作も相当の美形を予想させるのだが、生憎と少女は目許をすっぽり黒木の板で覆っている。十代の前半だろうか、水辺の植物のように細くしなやかな体幹には、まださほど丸みを帯びてはいない。
美しいというより愛らしい、ソバカスだらけの頬にくっきりと笑窪を作り、
「あーッ…気持ちいい!───なんと穏やかに和む一日の始まりでしょう。絶好のお洗濯日和ですっ」
と、ピッコロのような声で呟いた。
少女は空模様を目で見たわけではない。視覚は完全に塞がれている。しかしバター色に日焼けした肌や細い手足に感じ取られる晴天の陽光と、鼻先をくすぐる健康な植物たちの呼吸の匂いが、彼女に天候と周囲の状況をまざまざと伝えてくれるのだ。
少女は両手に大きな木の桶を抱えていた。そこには大小の衣服や下着(やはり粗末なものばかり)、
「昨日も患者様が三人も来たし、一週間来院に途切れなしの快挙!これが続くといいですー♬」
ちなみにその三人の客とは、一人は
足跡もつけずに苔を踏み、足取りも軽やかに飛び跳ねるように水場へ向かう少女。
「ひゃっ」
唐突にはぐれ猪のような空気の塊がぶつかってきて、少女の髪を大きく乱した。その拍子に銀髪から飛び出した耳は三角にとがり、今し方の乱暴な挨拶をしてきた相手の気配を探って可動アンテナのようにくるくると動いた。
「ちょっと、こらっ!
半分以上笑いをまぶした少女の叱責は、魚群のようにひとかたまりに集う決して目には見えない小さな
少女はエルフであった。
森のあらゆる植生と調和し、あまねく精霊を従える仙力を生まれながらにしてその身に備えた種族。
他の種族には感知できないほど小さな素霊たちの声でさえ、彼女の耳は捉えることができる。そしてまたどんな精霊とも言葉を交わし、いわんや命令を実行させる力があるのだ。
「お師匠様が起きてくる前に、お掃除まで済ませられるかな。そしたらまた褒めて貰えるかも!」
謹厳な師匠の感心する様を想像するエルフの少女は、ウフフ…と無邪気な笑みを漏らしつつ、洞穴と水場を行き来して洗濯の準備を進める。
その足取りはいつものように陽気だが、少しばかり調子が早い。
外に出て、陽光に肌をさらし緑達の呼吸の匂いを嗅いだところ、彼女の感覚が告げていた。
───今日の空模様は移り気だ。まだ晴れ間があるが、そのうち天候が急変するだろう。
と。
実際、森の彼方の山脈の方角からは、もくもくと立ち昇るお化け茸のような白雲がたゆたってきていた。
「いっそげ、いっそげ!午前中に乾かして、できるだけ『たおる』の『すとっく』を準備しておかなきゃいけませんっ!」
白いさらしの布のことを、この世界のものではない言葉で少女は呼ぶ。発音が難しくなかなか口にならないこの単語は、他でもない彼女の師匠を倣ったものだ。
彼女の師匠はこの地に暮らして数十年を経ており、ちょうど現在は『ツユ』と呼ぶに相応しい季節なのだと教えてくれた。───師匠が遠い昔に、この世界の母親の胎内に宿る以前に暮らしていた場所にも似たような雨と曇りばかりの時候があったのだ、と。
「えーと、『えいせい』的なものを先に、普段着と下着は後だから…」
泉に直接汚れものを浸すような真似はしない。中くらいの平たい桶に小さな手桶、空の籠、それに竃から採ってきた灰を詰めた麻の小袋。
作業しやすいようにそれぞれの位置を調えると、少女はまず平桶の半分くらいまで水を入れた。
更に小袋の灰を水に溶いて、適度な濃さになったかどうかをスンスンと鼻で確認。
丁度良いと判断したところで灰汁に洗濯物を投じ、丹念にこすり洗い。順番はさらし布が先だ。
きつく絞って空籠にポンと投げ込み、みるみる小山ができていく。これを綺麗な水ですすいで絞る。
洗濯板も使わずに、およそ原始的で重労働であるはずの作業。
だのに少女は倦む様子も疲れた顔も見せず、いっそ楽しげに歌なぞを口ずさみつつ洗い物を続けていく。
「アナァタ〜カゥワリ・ワハァ〜ナイデスカ〜♬ヒゴト〜サム・サーガ〜ツゥノルィマッスゥ〜♬」
どこか哀調を浴びたメロディである。しかし楽しげな少女の歌声に誘われてか、あるいはエルフの周囲にあたたかな気を放つ性質のためか、果樹の枝に小鳥が集まりはじめ、泉の周りには栗鼠や野鼠や兎や狐が顔を出す。
「オンヌァァァ〜グォッコォロノオォ〜ミレン〜デショーォ〜♬」
自分の周りが動物たちのさえずりや鳴き声で賑やかになってきてもそれに気をとられることもなく、慣れた手つきでザブザブと衣類を洗う少女。
歌詞の意味は実は分かっていない。音節も単語も彼女の尊敬する師匠が時折用いるもので、そのほぼ総てがちんぷんかんぷんだ。
少女の師匠は酒精のたぐいに目がない。生業にしている治療の為に必須である消毒用の貯蔵酒に酩酊したときや、少し離れた川で(炊事洗濯の流れと垢を擦り取る流れを別にするのが『えいせいてき』なのだそうだ)水浴びしているときに歌っているものを、そのまま真似ただけ。
しかし、ただそれだけのことでも少女にとっては小さな胸を充足させてくれるものだった。
───憧れの師匠と仰ぐ者と同じ唄を覚えて、同じ言葉で歌うことができる。
それは純粋に、
「アンナタァ〜コイシィィィ〜♬キィィタァ〜ノォ〜」
メロディの盛り上がりが佳境に達したその瞬間。
まるで見計らったかのように、空から巨大な影が落ちてきた。風切り音よりもその本体の到達が速かったため、エルフの少女は身を伏せる暇さえなく。
どすぅぅぅぅん!
地面が揺れ、水面は空に向けて鯨の潮吹きのように波を打ち上げた。洗濯物が辺りに散らばる。
「きゃぁぁぁぁっ⁉︎」
遅れて、物凄い風が上空から吹き降ろしてきた。間髪入れず周囲に集まってきた風の素霊たちに守られて、少女の身体の上へ折れて落ちる枝や衝撃に跳ね飛ばされてきた石礫がふわりと傍らに避けていく。
尻餅をついた少女はあっけにとられ、前触れもなく現れた
「なんじゃなんじゃなんじゃぁ!誰ぞバズーカでもブッ放しおったんかぁ‼︎」
洞穴の筵を跳ね上げて、腰布一つの裸身の大男が巨体を現した。
一見すれば、熟練の
「お師匠様っ!」
「おおセツ、お前さんよう踏みつぶされずに済んだのう」
雄臭さが匂ってきそうなむっちりと割れた大胸筋には海藻を貼りつけたような胸毛がちぢれており、僧帽筋が山脈となっている双肩からはこれでもかというほど逞しい喉首が生えている。
そしてその一番特徴的な頭部は、凶暴な海棲獣のそれ…最も近い表現では「鮫そのもの」。
人外の者、凶暴にして貪婪にして淫猥な存在。人間に限りなく近くありながら人間性からは限りなく遠い生き物として人間から忌み嫌われる怪物。
───オーク、である。
魚頭人身の大男は、ずしずしと苔を踏みしだきながら腰を抜かしているエルフの少女の脇に来た。
「お、おおおおおお師匠様、なんか、なんか変なものが空から来ました!」
「おう、確かにこいつァ変なもんじゃなぁ…」
狼狽するばかりの少女…セツの両脇をヒョイとすくって立たせ、オークもまた「それ」を見上げて眼をすがめる。
「全く何度見てもおかしげな生き物じゃあ、この飛竜っちゅうもんは。ワシの生きとった世界の竜といえばもっとこー、細身でヒョロヒョロと長い───蛇の親玉みたいなもんじゃったがのぅ」
「えっ、蛇ですかっ⁉︎」
「あー、蛇はお前さんの苦手な生き物じゃったか。安心せぇ、こいつはそれとは違う。竜じゃ。───翼持ち
「ひ、ひりゅうっ⁉︎生き物なんですかこれって⁉︎」
視界を持たないセツには、飛竜のずんぐりとした脚が押し付けられて凹む土が立てる情け容赦のない音から質量こそ察せられたが、肝心の姿形までは分からない。巨大な存在に対する原初反応的な恐怖で膝がカクカクしているばかり。
オークが『飛竜』と呼ぶサンショウウオに翼を付けたようなその生き物は、オークとエルフの取り合わせを胡散臭げに睨み付けるが牙を剥いたりはしなかった。
そのかわり、背中に乗せてきた乗客が降りやすいように後脚を折って「待て」の姿勢になる。
「はぁいハリー!お久しぶりですわね〜♡」
額から抜けてよく通る、艶っぽい響きの女声。それに続いて全身これ白の衣に身を包む美女が、肘まである長手袋でスカートの裾を摘まみ、「タスン」と優雅な音を立てて舞い降りる。
さらに。
「ハリ〜♡逢いたかったですわぁ〜♡アタシのカラダはもう限界なの〜♡また貴方のテクニックで私をメチャクチャにしてくださるぅ〜♡」
と、やにわにオークの首っ玉に飛びついた。
「うへぇ、やめんかいパーディタ」
「いやんいやん。久しぶりの逢瀬なのに冷たくしないで頂戴なぁ〜♡うん、相変わらずいいカラダしてるわね〜。アタシのハリー♡」
眼を力無く細めて感情を露わにしているオークことハリー。白衣の美女ことパーディタはありがたさと対極にある相手の態度を意に介することなく、逞しい肉体のあちこちに手を伸ばす。
有様としては無骨な大男と痴女だが、そういうわけでもないらしい。
セツはハリー…彼女の師匠の腰布に隠れるようにしがみつく。
「お、お師匠様の知り合いなんですか?」
彼女の師匠を気易く名前で呼ぶその人物を、セツはまだ知らない。もとから盲目の少女にはパーディタの整った顔も印象的な青と紫の混ざる瞳も、口許にふわりと宿る慈母が如き微笑みも見えていない。しかし放たれる雰囲気から、獣人やエルフではなく人間らしいと分かる。
───けれど。
周囲の素霊たちの様子がおかしい。地面の下の妖霊たちまでが騒いでいる。パーディタの登場とともに一斉に色めき立ち、その相手のことを口々に高く低く告げているのだ。それもどことなく不吉な表現で。
『魔法の火の匂いがする』『こっちにゃ肉脂の焼けた音が残ってるぜ』『呪いの欠片、くっつけてるし』などなど。
セツにしか届かない彼らの叫びに、彼女は警戒を深める。
これは、悪いものだ。
セツは意を決して師匠のオークの前に回り、自分の五倍以上もある巨体を庇うがごとく腕を張り広げる。
しかしパーディタの反応は意外にも友好的なものだった。
「おやまぁ。まぁ?まぁまぁまぁまぁまぁ!ハリー、そこのお嬢さんはなぁに?なんですの?貴方いつの間にそんな可愛らしいお嬢さんを手に入れたの?」
「おいパーディタ、なんか唐突にオバちゃん
「失礼な。アタシはね、逞しい殿方と可愛らしい子には目がないだけですわ。特にこういう、もうなんていうか清純無垢な恥じらいすら知らぬげな子なんか好みで…」
一点の染みもない手袋に覆われた細い指先が自分に向かい伸びてくるのを感じ、少女は吠えた。
「黙れ魔性の者。素霊達が怯えているではないか!お師匠様に害を為し、この森の清浄を穢す気か⁉︎…ならば許さない!」
「あらまぁ、小鳥みたいに可愛らしいのにお城の衛みたいに居丈高だこと」
「あっコラ、セツ!またそんな無礼な口をお前さんは!」
鉄拳制裁を下そうとするハリーを、パーディタはきゃらきゃらと笑いながら止める。
「なるほどそういうことですの。ハリーのお弟子ちゃんなのね?───セツちゃんというの?元気な子は私、大好きよ?でも…」
すい、と肘までを覆う白手袋をはめたままセツの頬を手挟み、パーディタはあくまで典雅にそして極めて優しげに微笑んだ。
「女はみんな、魔性をその身に宿すのですもの。貴女の言葉はやがて貴女自身に返ってくるわよ。保証するわ…だって貴女、とっても可愛らしいもの」
そう、彼女こそその存在を知る人からは「白衣の魔女」として畏敬を込めて呼ばれる無敵の魔法使い、パーディタである。
「───あら。もしかしてあなたもエルフ?そうなのね?」
パーディタは何気なくセツのザンバラ頭を気にしていたが、その青白い銀髪の中に埋もれた耳の特徴的な形に気がついた。
「だったら、どうしたッ⁉︎そんなにエルフが珍しいか‼︎」
一瞬気圧されたセツは、相手の迫力に一層対抗心を燃やしているようだ。そんな己の弟子の様子にハリーもため息を一つ。
「───まぁ、まずは遠路はるばるよう来たな、
もう一人、遅れて飛竜の背から飛び降りた浅黒い肌の少年が、小柄な体躯を活かして宙を舞い、黒衣の裾を高々と翻しての踵落としをハリーの首元へとめり込ませた。
「オネエサマニ、チカヨル、ナ。バケモノ!」
少年の渾身の蹴りを筋肉の薄い鎖骨あたりへまともに受けても、ハリーは倒れるどころかよろめきもしない。ただ軽くケホンとむせただけである。
そして何事もなかったように首を回してパーディタに尋ねた。
「むむ?お前さんこそなんじゃあ、このチビッ子は?新しいツレかぁ?」
「そうですわ。ツレというよりは見習いとして、魔法その他、人界で生きる術を教えているところなのですけれど…シェルト!初対面の人を相手にそういうことをしていいと、私がいつ言ったかしら?」
めっ!と指を立てるパーディタに、シェルト少年は一礼をすると大人しく一歩下がる。その頭に掌を置いて、白衣の魔女は困ったように微笑を漏らした。
「シェルトがいきなり不躾な挨拶をしてごめんなさいね、ハリー。この子、まだ人にも獣人にもオークにも…というかアタシ以外の存在に慣れていなくて…気を悪くしないでほしいわ。アタシはただ、またいつもの治療をして貰いにきただけなんですのよ」
済まなさそうにシェルトに頭を下げさせるパーディタに、ハリーは鮫そっくりに耳まで裂けた口から雷鳴のような笑いで応える。
「ええよええよ。お互い弟子を躾るにゃあ苦労しとるようじゃのう。師匠としてワシらの方が未熟ちゅうこった。さ、中に入んな。そんな乗り物に乗ってきたんじゃ、ケツが痛ぇじゃろうて」
「あ、あのー、お師匠様。そちらにいるのは何者…どなたですか?先程から私の周りで素霊達が不安だ不吉だと教えているんですが…」
「あーそうか、セツにゃあ初めてになるのかぁ」
やっと金縛りが解けたセツにおずおずと腰布を引かれ、ハリーは自分の顎を荒っぽく掻いた。
「この女は人間じゃ。パーディタっちゅうてな。乳はデカいし、黙っとりゃふるいつきとうなる美人なんじゃが、これがまた色々と物騒でのう…職業は必殺仕事人ってとこか?」
「ヒッサツシゴトニン?なぁにそのおかしな言葉は?またハリーの前世の表現なのかしら?ちゃんと魔法使いと言って頂戴な」
理解できない言語で雑に紹介されたパーディタは、腰に手を当ててむくれてみせる。
「いいことセツちゃん。アタシは愛と正義と平和を愛する可憐で無害な魔法使いよ?このオークの冗談なんか真に受けちゃダメよ〜?」
「なぁにが可憐で無害じゃ、あちゃこちゃで賞金首やら山賊やら殺しまくって恐れられとるくせに。そっちの、出会い頭ワシにキックしてきたんがお前さんの内弟子なんじゃな。…シェルト、でええかの?」
「一応の扱いはそういうことですわ。改めてよろしくねセツちゃん。貴女もエルフだなんて、これは奇遇だわ〜」
パーディタがシェルトを前に押し出して挨拶させようとするや、セツは野兎よろしくサッと飛びすさり威嚇する。
「あらあら〜おかんむり?ハリー、貴方のせいで嫌われちゃったじゃない。せっかくこちらにも同じエルフの子がいるから仲良くしたいのに〜」
パーディタに目線で促され、浅黒の肌の少年はハリーの前に一歩出て布冠を外す。その下からピョコンと屹立する、やはり黒々とした尖った長耳に、ハリーも少しく片目を見開いた。
「ヨオシク、オネガイ、シマス。ボクワ、シェルトト、イーマス。オネエサマノ、デシ、デス」
パーディタの日頃の躾の賜物か、エルフの少年は先程出会い頭に攻撃した様子とは打って変わり慇懃に一礼する。───もっとも、気品ある物腰には、まだどこか相手に対する敵愾心とでも言うべき頑なさがあったが…。
「シェルトはアタシの教え子ですわ。とっても可愛い自慢の一番弟子なの」
「うむうむ。確かにこれまためんこいチビッ子じゃのう。ワシはハリー。このセツは弟子じゃ。よろしく頼むぞ」
セツもたハリーに押し出され、エルフの二人はしばし対面する。
(この匂いは…呪いが微かに混じってるけど…エルフのもの…?でも
失われた視覚器官を板で塞ぎ、鼻を空気にかざすようにして自分のことを探っているセツをチラリと
「…メガ、ミエアイオ、カ。アワレダナ」
「───何?お前、今セツのことを何と言いました?ちょーっと聞き捨てなりませんねっ」
「エウフガ、マルデ、イヌノヨオニ、ハナオナラシテイル。コッケイ、ダ」
気色ばむセツをおしのけて、ハリーはシェルトの前にゆるりと腰を落とした。
「エルフっちゅうのはみんな、顔が綺麗でカラダの線の細っちいもんなのかのう。…んで、お前さんはついとる方かい?」
「…?」
人と
「シェルトは男のコよ」
「おう、そうかそうか!」
オークは破顔一笑、シェルトに詰め寄ると高く抱き上げた。
「こりゃ御誂え向きじゃあ!セツ良かったな、お前にも丁度ええ友達が出来たのう!」
普段であればハリーの顔面を蹴り付けているだろうが、師匠であるパーディタの手前シェルトはハリーのなすがままにされていた。
ただし、唇を噛んだ物凄く邪険な表情で。
「良かったわねえシェルト。可愛らしいお嬢さんのエルフだなんて、うってつけのお友達じゃないの。これから仲良くしてもらいなさいな」
パーディタも自分の弟子の不機嫌など意に介さず、コロコロと喉を鳴らして素直に喜ぶ。
「友達なんて…私、お師匠様以外の者なんて要りませんもん…」
そしてセツはまた、彼女なりの理由から下唇を噛むのであった。
オークあはき師くっ殺修行~姫騎士に怒鳴られ弟子エルフに懐かれています~ 鱗青 @ringsei
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