子供の頃に感じた透明な好奇心や恐怖や不安。
それらを大人になってから、ふと思い出す。
そうした物語は、児童文学の系譜にしっかりとある。
芥川龍之介の「トロッコ」などがその代表選手だ。
好奇心に駆られて、労働者と一緒に石切りだし用のトロッコを押して、乗せてもらって好奇心を満たすが、行きついた先で放逐され、夜の闇を走って我が家に帰りつくまでの、不安と恐怖。家の明かりに飛び込んで母にしがみついて号泣する少年。
だが、肝心なのはその先だ。
大人になった少年は、日々の生活、仕事、家族とのやり取りに疲れた時、目のまえに、暗い夜の底に続く、一本のトロッコのレールを思い出す。
アイオイ氏の書く少年期の作品はどれも粒だった真珠のような名品だが、この作品も素晴らしい。
「自分にしかできないのだ」と、自分を肯定できる瞬間。
爪を立てるフクロウの雛がふと力を緩める、受け入れられた瞬間。
瞬時に自分を切り裂く力を持つ熊が、自分の台になってくれる協力。
それらが子供の心に刻み込まれる。
そして最後の、大人になってからの振り返りの一文。
アイオイ文学の透明感に、拍手。