最強チートは異世界に行けない

亀吉くん

異世界には行けません



 僕は一見どこにでもいる真っ当な普通の高校生、西京さいきょう 智威徒ちいと


 だが、名前通りサイコキネシス、再生力、知能、武道、超感覚等の能力を生まれ持つ。


 今は東京都、江東区に住んでいる。


 でもそんな能力とは無縁の普通の生活を意識的に続けてきた。


 続けてきた。



 ある日、コンビニの前を普通に、つまり二本足で歩いていると目の前に女の子がいた。


 ふむふむ、僕の能力は彼女が異世界の人間であると告げている。


 俗な言い方だが、オーラが違う、彼女がまとっている物体はこの世のものではない。


 世界の男性の半分は彼女を可愛いと判断するという脳内統計がとれた。


 もう少しだけよく『見て』みる、ふむDNAはこの世のホモサピエンスと少し違う。


 能力なんかなくてもオレンジの髪、ローブ、この世界には無い素材の杖を見ればわかるが。


「私の世界を、助けてください。私はレイラ。私の世界は魔王軍が押し寄せ——」


 どうせそんなことだろうと思っていた、予測どおりの要求だ。



 「あなたの世界の人口は」


 僕はこの力をもってすれば世界の一つや二つ、助けられると確信している。


 だが、僕の勘は告げている『他にも沢山の救われるべき世界がある』


 だから、僕が救うべき世界の一つの目安として人口を尋ねることは前々から決めていた。



 「ええと、200、億? この世界の言葉では、億という単位になります」


 戸惑いながらレイラが告げる。



 僕はすぐさま能力を使い、この世界の実際の人口を一人漏らさず把握する。


「いいでしょう、この世界よりも人口は多い。どうすればそちらの世界へ行けますか」


 いくら超能力があっても異世界に行く方法は僕はしらない。


「申し上げにくいのですが、一度こちらの世界でお亡くなりになって頂く他。勿論——」


「蘇生方法もあるのですね、わかりました」


 僕は頭上に意識を向ける。


 ふむ、頭上にはちょうどテナントの看板がある、サイコキネシスでそのねじを緩める。



 グシャ



 看板は音をたてて、頭上で弾けとんだ。


 なんてことだ、僕はバリアーも持っていたんだ。



 「これって、えーと魔法? でもこの世界に魔法なんて」


 目の前の少女が困惑する。


「そのようなものらしいです。僕にそれがあるとは思いもしませんでした」



 僕自身を殺すにはもっとエネルギー量が必要だ、うーんどこかにいいものはあるかな。


 都合の良いことに背後の交差点にタンクローリーが差し掛かるのを察知する。


 僕はトラックのハンドルを操作する。



 グシャ



 タンクローリーは直撃寸前で観えざる力により横転した。


 またもや僕は助かってしまった、今のところは。


 タンクローリーはひしゃげ、横転した。ガソリンの匂いがする。


 人々は悲鳴を上げ逃げようとするが、爆風が彼らと僕を包む。



 向こうの世界の人を助けるためだ、今の事故の死者より向こうの人口が多いので僕の心は痛まない。


 それに、僕は昔死んだ猫を生き返らせたことがる。


 向こうの世界を救ってからそれをつかえばいい。


 しかし、こんな思考が走馬燈になるのか……もっと情緒的なものだと思っていた。



 結局そうはならなかった。


 爆発に恐れをなした少女がその場に崩れ落ちる。


 彼女が死んでは案内人が居なくなるから僕は意図的に守ったのだが、感謝の言葉はない。



 「困りました、うーんどうすれば死ねるのか」


 僕はテレパシーで、市ヶ谷にある指令室のシステムを乗っ取った。


「しばしお待ちください。僕の能力は予想以上に強力でした」



 自己評価の低さにはあきれるほかない。


 僕は自分の認識力を情けなく思う。


 座り込んだ少女を引っ張り上げ立たせてやる。


 この少女は『向こうの世界』の代表であるから、丁重に扱わなければ。


 僕はコンビニで焼け残ったお茶のペットボトルを彼女に渡した。


 1km先に見つけた喫茶店から良いマンデリンの豆でも引っ張ろうかとおもったけど、


 彼女の味覚に合わないことは、何度も言うが能力でわかっていた。



 彼女が無言でお茶を飲んでいるのを観察していると、頭上に爆弾が落ちてきた。


 爆弾だけじゃない、榴弾砲、ロケット砲。残念ながら護衛艦の砲は届かないらしい。



 でも、やっぱりというか、僕は死ななかった。


 うーん、自分の想定以上に強いと困ることになるのか、良い知識を手に入れた。


 もう彼女は半べそで、おもらしをしていた。


 僕は400m先にある衣料品店から服を呼び寄せた。


 彼女は黙ってそれを受け取ると、コンビニのトイレへと向かっていった。



 こうなると、うん。仕方がない。


 東京より向こうの人口の方が多いし、僕が戻ってきてから再生すればいいのだ。


 僕はアメリカと、ロシア、中国の首脳部のシステムに潜りこみ、ミサイルのボタンを押した。


 イギリス、フランス、インド、イスラエルの核は東京は射程外だ。



 十数分後、周りは致死的な白い光で包まれた。


 大地はどんどんとえぐられ、溶かされ、ガラス質に変貌する。



 結局、僕は死ねなかった。


 トイレも、替えの服も焼き尽くされ、全裸になった少女と二人、クレーターの底に残された。


 僕は彼女に制服の上着を着せてあげた。




 それから五年が経った。


 僕は毎日自殺をここみる、どれもうまくいかない。


 サイコキネシスで動脈を切っても再生する。


 空中浮遊したあと落下しても痛くもかゆくもない。


 放射性物質を取り込んでもピンピンしてる。


 真空に体を晒しても呼吸はできる。


 体を絶対零度に凍らせても、身体機能は変わらない。



 少女は女性になっていた。


 女性にクレーターの底で生活を強いるのは申し訳ないので、家を一軒こしらえた。


 彼女は洋風な椅子に腰かけ優雅に紅茶を飲みながら、僕の死への取り組みを眺める。


 これが習慣になっていた。



 世界を壊す程僕は持てる限るの手の限りを尽くしたが死ねない。


 当然ながら、あの日を境に核戦争が始まった。



『マジュウ』と呼ばれる、放射性物質によって生まれた攻撃的奇形群生生物が人間を襲い始めた。



 アメリカやロシアは、僕の特異性に気が付いて何度も保護しようとした。


 だけれども、マジュウの巣窟となった日本ではすべてのオペレーションが失敗した。


 僕自身、マジュウに喰われようと試みたけど、彼らは僕に近づく前に何かの力で八つ裂きにされた。


 僕自身の持つ、生存能力がきっとそうしてるんだろう。



 それは僕が人間としての基本に立ち返り一切の食事を断っての自殺、つまり餓死を試みて200日目を迎えた日の事だった。


 レイラはあら、と声だしティーカップをテーブルに置いた。


「どうかいたしましたか」


 僕は問う、彼女は定期的に自分の世界とコンタクトしていた。


「私の世界で魔王軍本拠にしていた火山が噴火して、魔王軍が全滅しました」


 レイラは何処か悲し気だ。


「なぜ悲しむのです」


「大飢饉が起きて、もう、私の世界に人が生きる余地はないと……」


 ふむ、この世界でも極まれに起きることだ。


 魔王軍を馬鹿とは言えない、日本も富士山を崇め、


 アメリカのイエローストーンは国立公園、だった。


「お悔やみを申し上げます」


 僕は心からそう述べた。


「それで、どういたしますか。僕があなたの世界に行く必要はなくなったのですか」


「それが、あなたを呼び寄せるために必要な魔導士が全て死んでしまい、叶いません」


「あなたは」


「残念ですが私ももう、戻ることはできません」


 レイラはとても悲しそうだった。


 この世界で4000万の人間が一瞬で焼き尽くされた時よりも悲しそうだった。



 「ふむ、ではこの世界を共に救っていただけませんか」


 僕は彼女へ手を差し伸べる。


「勿論、この世界の混沌は全て私が招いたものですから」


 彼女は涙ながらに僕の手を取った。



 この世界の混沌は、この世界史上最も極まってる。


 マジュウもいるし、国はズタズタ、世界地図は核兵器で塗り替えらている。


 僕は、自分の能力で異世界を作り上げることが出来るのだ。


 僕は自分の能力を、改めて評価した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最強チートは異世界に行けない 亀吉くん @Kamekichi1187

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る