ドラゴン島のコウの実

kumapom

第1話

 海岸沿いのの細い道を抜けると、村が見えてきた。船が見える。漁村のようだ。

 村へ入ると何か様子がおかしい。空気が淀んでいるというか、何か普通では無い。しかもあまり歩いている人が見当たらない。

 僕の名はタリス。薬師見習いである薬草を求めて旅に出ている。


 ある道の角に差し掛かると、小さな男の子がズボンを引っ張ってきた。

「お兄ちゃん、薬もってる人?」

「確かに僕は薬師見習いだけど……病人かい?」

「治せるの?こっち!こっち!」


 男の子に引っ張られて行くと、そこは村の病院らしかった。多くの村人がベッドで並んでいる。見ると、ほとんどの人はピクリとも動けず、どうやら石化の魔法か呪いをかけられているようだった。

 男の子は母の元に連れていく。同じように石化の症状がすすんでいる。

「治せる?」

 (これを治すには……手持ちの物だけだと足りないな。でも、材料があれば……)

「うん……材料があればいけるかな?」

「やった!」

 男の子の顔が輝く。

 しかし、材料があるのだろうか?


 薬師らしき人に声を掛ける。

「あの……旅の途中の者なのですが……」

 こちらを振り向く。私の身なりを見ているようだ。

「あなたも薬師ですか?」

「見習いですが。薬草を求めて旅に出ております」

「なるほど」

「何があったのですか?これほど沢山の人が石化しているなんて……」

「魔女の呪いですよ。厄介者が恨みを買ってきましてね」

「私、解除の薬を作ることが出来ますが……」

「材料があるのですか!?」

 聞くと、足りないのは全く同じコウの実だった。薬師はため息をついた。

「沖にあるザザ島まで行けばあるんですけどね」

「行かないんですか?」

「そう簡単に取れないんですよ……ドラゴンがいるんです」

 ドラゴンは木の前に寝ぐらを作り、周囲を縄張りにしているらしい。それは厄介だ。

「そっと忍び込んで取るとか出来ないんですか?」

「夜は確かに眠っているようですけれども……近づいたらさすがに起きますよ?何か潜入スキルのようなものをお持ちで?」

「あ……いえ……」

 途方に暮れた。


 考える。取りに行くなら夜だろう。音を立てると気づかれるはず。なるべく静かに行かないと。しかし、歩くと音がするはず……うーん。音を立てず歩く方法……。

 ふと、空を飛ぶ鳶の姿が目に入った。そういうや、前に海岸でパンを食べていたら奴に持って行かれたことがあったなぁ……鳥……鳥ねぇ……でも鳥目って言うしなぁ……。


 ふらふらと考えながら町を彷徨っていると、ホゥホゥと言う音が聞こえてきた。見渡すと、木の上にフクロウが一羽とまっている。鳴き声を真似るとホゥホゥと返してくる。フクロウ……そうだ、フクロウを使えば!

 フクロウは夜目が利くし、音も立てない!


 町を探し、鳥使いの人を見つけた。何と鷹とフクロウを持っていた!

 しかし、鳥使いのおじいさんもまた石化の呪いにかかっており、思うように動けない。見習いの孫の小さな女の子、ドリーが動けるだけだ。

 聞くと、一応は操り方を知っているらしい。しかし、ずいぶん自信が無いようだ。

「無理かな……?」

「……やってみる!」

 ドリーを何とか説得し、おじいさんの了承も貰い、その日の夜、島へ船を出して貰った。


 島は断崖絶壁で囲まれており、その一部だけ砂浜になっている。

 そこへ船をつけ、少々斜面を登った。島が一望出来た。

 月明かりに照らされる森。中央に大きな木が見える。ぼんやりと光るものが見える。あれが目的のコウの実だ。


 森を進む。松明を点ける訳にはいかないので、ドリーを背負い、暗闇に目を凝らして進む。足元で落ちている木の枝を踏む音がしてしまう。これではいけないとそっと歩き直す。ドラゴンの巣に近づく前に歩き方を工夫しておかないと……。


 ドラゴンの巣が見えてきた。轟くような寝息の音がする。これ以上近づくと危なそうなので、止まる。

 ドリーを下ろし、そっと先にある光るコウの実を指差す。

 ドリーはよく見えなかったのか、少し前に歩いてしまった。

 

 パキッ!パキパキッ!


 足元の木の枝がいい音を立てる。

 慌ててドリーを小脇に抱き上げ、茂みに身を隠した。


 暗闇に光るドラゴンの赤い目。大きな鼻息の音がする。起きてしまったのか!

 背後で巨大なものが動く気配。これはたまらない。辺りを見回しているようだ。どうしよう!何とか誤魔化さないと!

 

 ホゥ……ホゥ……


 フクロウの鳴き真似をした。

 しばらくすると背後で動く気配が収まり、静かになった。そっと茂みから覗いてみる。また寝入ったようだ。


 ドリーに身振り手振りで静かにやるように言い、先にあるコウの実を真っ直ぐ指差した。……分かったらしい。

 

 ドリーはカゴからフクロウを出す。左手に止まらせ、コウの実の方を指差す。フクロウは首をかしげながらその先を見ている。そして手を上げ、そっと振り下ろした。

 ふわりと音を立てずに空中を進むフクロウ。そしてすぅっと……ドラゴンの背の上に止まった。

 思わず手で顔を覆った。ドリーも手で顔を覆った。違う……そうじゃない。


 幸いにもドラゴンが気づかなかったので、そのまま手振りで呼び戻す。そしてフクロウにターゲットを何度も教え込む。首を傾げるフクロウ。


 その後何度か試みたが、ドラゴンの尻尾に止まるやら、羽に止まるやら……生きた心地がしなかった。

 涙目になりながらフクロウに教え込むドリー。

 しかし、何度目かの時、ついにフクロウはコウの実の方へ飛んだ。

 空中を滑空し、木の実を掴み、そのまま丸く空中に円を描いて戻って来た。

 フクロウからコウの実を受け取り、上にかざすドリー。

 よし、よくやった!ドリーと手をグーにして讃え合う。


 その後、フクロウをカゴにしまい、再びドリーを背負ってそーっとそーっと帰って来た。


 翌日、コウの実を持って薬師の元を訪れ、共に薬を調合した。何とか人数分にはなりそうだ。

 あの男の子もドリーのおじいさんも、村のみんなが喜んでいた。


 そして、僕はお礼に魚の干物と若干のパンを貰い、再び旅路へと戻ったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ドラゴン島のコウの実 kumapom @kumapom

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ