このボケナスフクロウが!
綿麻きぬ
切り札はフクロウ
彼女の肩にはフクロウが止まっている。いつも止まっている。いつ何時もである。体育の時も、昼食中も、授業中に寝ているときも。
だがしかし、それについて誰も触れないのである。
いやいや、どう考えてもおかしいろ!? 誰もそこに突っ込まないとかおかしすぎるだろ!?
そんなことを頭の中で考えていても声には出さない、僕ではある。なぜかって? そりゃ、前に友達に聞いた時の反応が前提にあるからだ。
「彼女の肩にフクロウが止まっているのは気のせいか?」
「いいや、気のせいじゃないぞよ」
「じゃなんで、誰も突っ込まないんだよ?」
「だって当たり前じゃん」
心の中ではっ? と思ったのはきっと僕だけではないのだろう。でも、きっと当たり前なのだろうと思い込み、なんとかなんとか自分を騙しながら日常を過ごしている。
だが、僕はもうそんな日常に限界を感じた。そう、今だ。彼女の肩のフクロウが僕の弁当を食べたのだ。それもまぁ美味しそうに僕の好きなきゅうりのぬか漬けを! 信じられん、人の弁当をだぞ! 人の断りもなしに!
僕の堪忍袋の緒が切れたぞ、もうこの当たり前に突っ込まないのはやめるぞ。
「ちょいちょい、お嬢さんよ。君の肩のフクロウが僕のお弁当を食べたのだけど、そのことに関してどうお思いで?」
「あら、それは失礼いたして。でもきっとそれは何か意味のあることですわ。私はまだお弁当が残っていますので、では。」
おいおい、待て待て、それで会話が終わってしまったぞ。もういい。僕はこれから彼女を観察して弱みを握り、この弁当の代償は払わせてやる。
それから僕は彼女を観察し始めた。
ある時は体育の時間。うん、バスケは下手みたいだ。あっ、転げた。大丈夫か? ふむふむ、あやつは体育は苦手と。
ある時は数学の時間。あやつは寝ていた。そんな時に先生にあてられた。ふっ、いい気味だ。えっ、あやつあんなにスラスラ解けるのか。今さっきまで寝ていたというのに。
そんな毎日を繰り返しているある夜の布団に入ってから、窓ガラスがコンコンと叩かれる。
う~ん、眠いというのになんなんだ。ギョ、窓ガラスの向かい側に彼女のフクロウがいるではないか。
「おいおい、こんな時間まで起きていたら明日の体が持たんぞ」
ふ、フクロウがしゃべった!
「驚くなって、今日は頼みがあってきた。我の主である彼女のことが好きであるお主にな。」
「はっ? いろいろツッコミがあるんだけど、いいか。僕は彼女のことは別に好きではないからな。あとなんでお前はしゃべれるんだ?」
そうだそうだ、と心の中の僕は言っている。
「だって僕ちん、女神ミネルヴァの肩にいる知恵の象徴のフクロウだもんね~」
なんですと~、って反応すればいいのかよ。口調が迷子かよ。
「コホン、本題の彼女のことなのが彼女はお主のことが好きなのじゃ。まぁ、恋する乙女の時期にあんなに四六時中、お前に見つめられたらそりゃ恋するわなぁ、チラ」
最後のチラはなんなんだよ。まてまて、こいつの話によると全部、僕のせい!?
「そうじゃそうじゃ、お主のせいじゃよ。責任はどう取るんじゃ!」
わかるわけないだろ! そんなもん!
「この我が切り札となってこの事態を解決して進ぜよう」
ぐぬぬ、話だけは聞いてやらんでもない。
「明日、休みに校舎裏に彼女を呼び出しておくからそこで断るか彼女の思いを受け取るかどうにかしろ!では、さらば」
さらばじゃねーぞ!
気持ちも決まらないまま僕は昼休みを迎えた。
校舎裏、12時ピッタリに僕は向かった。そこに彼女はいた。
「お、おはよう」
震える声で彼女は挨拶をした。
「おっす」
「あのね、私ね、あなたのことが好きみたい。なのでお付き合いお願いします」
「うん、知ってた。君の肩にいるフクロウから聞いたから」
「えっ」
そう言って、彼女は肩のニヤニヤしているフクロウを捕まえて、思いっきりぶん投げた。
えっ、まじすか。
「そんな、自分で言いたかったのに」
彼女は泣き始めてしまった。
「まてまて、とりあえず事情は何となく分かった。一緒にあのボケナスフクロウを倒そう」
「そしたら、私の気持ち、受け取ってもらえますか?」
そ、そういう問題じゃないんだけど。
「まぁ、いいよ、そんなに僕に真剣なら、僕だって真剣にならないとね。」
この時、僕の覚悟は決まった。
「僕でよかったら付き合ってください」
「はい」
そんな会話をした後、彼女の肩にニヤニヤしながらボケナスフクロウが止まった。
その瞬間、今度は僕がボケナスフクロをぶん投げた。
このボケナスフクロウが! 綿麻きぬ @wataasa_kinu
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