切り札はフクロウ

空音ココロ

とりあえず飛んでみようか

 突如友人ともいえぬ旧知が連絡をよこしてくるとする。


「今日の夜飲みに行こうぜ、勝ちに行こうぜと」


 訳の分からないことを、あーでもない、こーでもないと繰り返しながら自分の財布から無心しようとする。


「何言ってるんだよ。けち臭いことを言ってないで、天下の周りものですよ、私は回し者なんです。お使い様でございますよ」


 渋ると自分はお使い様とか言ってさも偉そうなフリをするが、やつは主語を言っていないことに注意しないといけない。

 上の空で聞いているとなんとなくそれっぽく思って承知してしまいそうになる、なんてことはない。そもそも聞く前も無く門前払いするだけなのだから。


「あぁ、そうかい、そうですかい、分かりましたよ。えぇ、そういうのでしたら仕方ない。今日の所は白鳥屋は止めておいて、烏丸屋にしておこうじゃないか」

 

 彼は言う、行きたいところが高いから渋ってるんだろ。

 まぁ君にも事情はあるだろうから、今日の所はもう少し安い所で勘弁しておいてやるよと。

 分かりましたよ、なんて言葉は何も分かっていないことを意味している。そんなはずは無いのだが、奴にとってはそれが正解になる。


「どうした友よ、とりあえずとんでみろよ。あぁ、やっぱりな。ジャンプしたところで何も音が出ないのは知っているんだよ。だってお札は音がしないからな。あ、そうか、カードだったか? え、それも違う。ペチペチとかいう仮想通貨だったか? 今ならポイント20倍キャンペーンだって? え? なんだってー!? おいおい、これはもう使うしかない一世一代のチャンスじゃないか」


 いや、一世一代ってそんなところで使う言葉じゃないし。つか、キャンペーンは居酒屋対象外だから。どこに行こうとしてるんだよ、つか何処にも行かないよ。


「あー、もう。お前が出不精の引きこもりだってことは分かっていたけどさ、たまには外の空気を吸おうよ。新鮮な空気を吸って、悪玉を吐いて、体の内からきれいにならないとさ、毒素ばっかたまっちゃって。そんなお前は見ていたくない!」


 もうすでに論点がどこに飛んだのか分からないのだけど、やつにとっての私は出不精の引きこもりらしい。いや、そこは間違って無いような気も知るけど違うな。この間出掛けたよ、3週間前だったか? 小さな丘に登ったよ、公園の。そこでいっぱい空気入れ替えたから、お前さんに言われるほど汚れてないから。


「なんだか煮えきらねぇ返事だな、顔から不満が滲みでてるぜ、わーかったよ。あれだ、夜行性なんだな。まだ起きてないだけだ。だがな安心しろよ、もうすぐ夜だ。朝ですよ、目を覚まして出かける時間ですよ。いやー今日はいい目覚めになるな。俺が起こしてるんだから、な、目覚めの一杯どうだ? シャキッとしてさ前を向くのにいいのを見つけたんだよ」


いや、夜行性って、夜になるって言いながら朝ですよってもう言ってることめちゃくちゃだし。なぜ目覚めの一杯をこいつとしないといけないのか。


ちなみに私はここまで「ほーほー」としか返事をしていない。

それでよく話が続くものだと思う。

適当な相槌を打つ「さしすせそ」とかがあるが「ほ」だけでこいつには十分だ。俺はこれをフクロウ戦術と名付けた。まぁ、わぁるだろ?


ただヤツはそこまでアホでは無かったようだ。


「まったくいつもいつもフクロウみたいな鳴き真似しやがって、そっちがそうならこっちの切り札だってあんだよ。どうせ夜行性でもそうじゃなくても、さっき起きたのには変わらないんだろ。いいからこいつを食らいやがれ」


そう言ったものの奴は全く動かない。首を傾げてじっと待っていると呼び鈴がなり宅配が届いた。サインしたのは俺だったがヤツは嬉しそうに箱を開け始める。出してきたのはフクロウが描かれたラベルのついた茶色の瓶だった。


「これはお前の目を覚めさせる気付けの一杯だ」


フクロウは不苦労とか福郎だので演技は良いものとされている。

ヤツにとって自分が福なのか、俺にとっての技が福なのか、そんなものは迷信なのかは分からないがこのビールは美味かった。


明細がクレジットカードの控えに乗ってるのを見るまでは

チクショウ、あいつ届いたビールの半分以上飲んでいってたな



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

切り札はフクロウ 空音ココロ @HeartSatellite

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ