「嘘をつくなら金をくれ!!」×2

ちびまるフォイ

あなたにあった嘘つきライフを

「母さん、実は会社の金を使い込んだことがバレてしまって……。

 お金を急に返さなくちゃいけなくなったんだよ」


ピーピーピー。


『嘘が検知されました。課税対象となります』


「お前に2つだけ言うことがある。

 1つは、嘘課税されるのにそんな詐欺に合うやつはいない。

 2つめは……息子は俺だ」


電話はそこで切れた。

あとで嘘をついたぶんの税金が取られるだろう。


嘘税金がはじまってから、詐欺はぐんと減ったらしい。


うまい話に騙されることもできなくなった。


「おまたせ~~。まった?」

「いいや、いま来たところだよ」



ピーピーピー。


『嘘が検知されました。課税対象となります』



「……」

「……」


「……待った?」


「まぁ、俺待ち合わせに10分位先についていたかな」


「最初からそう言ってよ」

「なんか変に気を使わせたくなくて」



ピーピーピー。


『嘘が検知されました。課税対象となります』



「……」

「……」


「……今、どこで嘘ついたの? 気を使わせたくないのが嘘だったの?」


「そんなことは……」



ピーピーピー。

『嘘が検知されました。課税対象となります』



「もう! なんで嘘ばかりつくのよ!!」


「先に来てたのは俺が遅れたくなかったからで、

 それをごまかしたのは、遅れた遅れてないでもめたくなかったからだよ!」


「嘘つきな人は信じられない!!」


彼女はぷんぷんと怒りながら帰ってしまった。


「失敗したなぁ……」


嘘税金がはじまってからずっとこんな調子。


正直なことはいいのだけれど、前より人間関係が難しくなった気がする。

もともと、上手く立ち回れてはいなかったけど……。


「今月の嘘つき税金は 2万8000円 になります」


「リアルに高ぇ!!」


嘘つき税金の支払額に腰を抜かしてしまった。


「嘘をつくからいけないんですよ。

 しょうもない嘘はやめて、ごく真面目に正直に生きればいいのです」


「そんなシスターみたいなことを言われましても……。

 たまにジョークのひとつでもいいたくなるじゃないですか」


「ああ、そういう学校でオモシロイやつと思っている人間の

 クソ寒いギャグとか一番面白くないやつですね」


「……学生時代なんかあったんですか?」


「いいから払ってくださいよ」

「はい……」


暴力団のような顔で凄まれてしまい、結局支払った。

こんな調子で散財してしまっては俺の生活がままならない。



ピーピーピー。

『嘘が検知されました。課税対象となります』



嘘つきました。


ままならないというのはいいすぎかも知れない。

ままんりはするけれども、先月よりも厳しいのは間違いない。


「というか、心の声まで干渉してくるのか……」


最近は映画もテレビも小説もドキュメンタリーばかりになっている。

ヤラセがなくなったのはいいけど、フィクションまでなくなったのは寂しい。


「はぁ……少しくらいの嘘はいい気がするけどなぁ」


「お兄さん、お兄さん」

「はい?」


「嘘、足りてますか?」


「あなたは?」


「私は嘘の定額プランをご紹介しているものです。

 毎月、嘘のたびにお金を取られるのはイヤでしょう?

 一定料金を先払いしておけば、嘘放題ですよ」


「飲み放題みたいなこと言ってますね」

「似たようなものです」


そんなうまい話があるか、と思ったが嘘検知はされていない。

この男の言葉に嘘偽りはなにひとつない。


「先にお金を払えば、嘘をついてもいいんですよね?」


「ええ、そうです。嘘検知もでなくなります。

 先払いしてますからね」


「入ります!!」


かくして怪しいおっさんにお金を渡して定額プランを申し込んだ。

そこそこの値段はしたが、いちいち嘘を気にしなくてよくなったのはありがたい。


「ごめん、待った?」


「待ってないよ、いま来たところさ」


「本当に?」


「嘘検知されてないだろ?

 それより、今日の服はすごく似合っているよ。かわいいね」


「うれしい! ありがとう」


おわかりいただけただろうか……。


今の会話の中で俺は5つの嘘を紛れ込ませていたことに。


1つは待っていない、ということ。俺は20分前に来ていた。

2つは検知されていない、ということ。検知されているが反応がない。

3つめは服が似合っているということ。

4つめはかわいいということ。

5つめはこの会話がすべて俺の妄想だということ。


「よし、シミュレーションはばっちりだ!」


翌日のデートでは妄想どおりにことが運んだ。


嘘つき放題なので相手の期限を取るためのどんなリップサービスも使い放題。


「今日はどうしてそんなに褒めてくれるの?」


「それはもちろん、君が最高に素敵だからだよ」


はい嘘。


でも、嘘課税がはじまって嘘への免疫がことさらに低い現代人は

相手の言葉を疑うことをしない。


温室育ちの人の心を嘘で転がすのはたやすかった。


「今日は楽しかった。本当にありがとう」


「俺も最高に楽しかったよ。今年で一番充実していたかな」


嘘のタガが外れるとむしろ積極的に嘘をついてしまう。


「ねぇ、最後にひとつだけ聞いていい?」


「なに?」


「あなたに届いている"定額プラン"ってなに?」


「どうしてそれを!?

 まさか俺が嘘の定額プランに入っていることを知ってたの!?」


「え?」

「ゑ?」


お互いに顔を見合わせる。

相手の顔がみるみる歪んでいくのがわかった。


「信じられない! あなた、嘘の定額プランに入っていたの!?」


「ちがっ……そのっ、ご、誤解だ!!」


「だったらケータイ見せてよ!!

 定額プランに入っていたら通知が来ているはずだもの!!」


彼女はケータイを問答無用でひったくった。

そこには確たる証拠が言い逃れできないほど残っていた。


「やっぱり入っているじゃない! どうして!? どうして嘘をつくの!?」


「それは……君のことが好きだからに決まってる!

 もっと君に喜んでほしくって言ったんだよ!」


「だったら嘘じゃなくていいじゃない!

 最初から普通に話せばすむことでしょ!?

 嘘をついてまで褒められたくなんて無い!!」


慌てて定額プランを解除した。

もう誠心誠意伝えるしか無いと思った。


「信じてくれ! 俺は本当に君のことが好きなんだ! 大事なんだ!

 ほら、嘘が検知されていないだろ!? 嘘じゃない!!」


「……別れましょう」


「そんな……」


「私の知らないところで嘘をつこうと考える人と

 この先うまくやっていく自信ないもの」


「俺のことが嫌いになっちゃったの?」


「ええ、もう大嫌い。本当に顔も見たくない」


「そう……」




ピーピーピー。

『検知されました。課税対象となります』




「あれ? どうして検知されたんだ?」


鈍い俺でもすぐに気がついた。

嘘をついたのは俺じゃない。


「まさか、俺のことが嫌いになったってのは……嘘なのか!?」


「本当よ! もう大嫌い!!」


ピーピーピー。

『検知されました。課税対象となります』


「君の言葉が嘘でも本当でも、もう構わない。

 俺は意味のことがずっと好きだよ」


俺は彼女を抱きしめた。

ラブソングのサビがそれとなく流れ始めて雰囲気を作った。



LOVE END...





「そういえば、どうしてプランの請求が

 ケータイに送られるってことを知ってたの?」


「私、真実を言うと課税されるプランに入っているから」



ピーピーピー。

『真実が検知されました。課税対象となります』

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