46

「スカイ!!スカイ起きロ!」


 リュイの尻尾で頬を叩かれて、スカイは意識を取り戻した。

 また、夢だ――何も覚えていない夢。そして胸に喪失感だけが残る夢。自分の両手を見下ろそうとして、スカイは自分の天地が逆さになっていることに気付いた。

 誰かに担がれている。顔を上げると目の前にリュイの顔があった。


「ダイジョウブ?」


 担がれたまま片手を額にやって頭を抱える。一瞬であれ、意識を失っていた自分にこの上なく腹が立った。


「お、目が覚めたか」


 スカイが目覚めたことに気付いて、アッシュがカラカラと笑った。


「アレを抑えるだけなら、ユエがなんとかやってくれてるさ。目の前のモノを無効にするだけなら、アイツの得意科目だろ」


「無効化するだけなら、普通の魔術師はユエインには敵わないさ」


 半分とはいえ、魔族の血が入った者に人間の魔術師が正攻法では勝てないだろう。

 アッシュはスカイを肩に抱えたまま教会の屋根の上に片手でよじ登った。そのまま適当にスカイを降ろす。


「意識が戻って良かった。私一人だと、魔力が尽きるまで無効化するしかできませんし」


 炎の獅子から目線をはずさずにユエインが言う。その闇色の瞳は魔力を行使しているせいで、光を帯びていた。その顔色から察するに、まだ魔力量に余裕があるようだ。

 アッシュの後を追って教会の屋根にのぼったリウイが、片手でスカイを仰ぎながら首をかしげる。


「スカイ、あのウイルナの森トカいうのに、あのバケモノを消してっテ願うのはイケナイの?」


「ダメだろうな」


 スカイは即答した。


「アレを消すような強い願い……たぶん、何かの魔術装置は、その分大きなゆがみを生み出す。バグの発生源は大概が歪みなんだよ。誰かが分不相応な魔術を使ったとか、そういうな」


 事実、魔術学校の周辺は、バグの発生件数が高かった。スカイが王宮に選抜される前は、よくバグを狩っていた。一体につき500ランスの報奨金が支払われる。数人で分けても、ちょっとした稼ぎになった。


「魔術なんて、どれも人間にはもったいないんですけどねえ……けっこういい稼ぎでしたよね、バグ狩り」


 ユエインの瞳が一瞬昏く沈む。何かを嘲るような光はすぐに消えて、すぐにいつもの朗らかとした笑みに戻った。


「そのもったいない事象を起こす対価として、俺たち魔術師は魔力を支払うのさ。」


「んじゃ、俺たちは誰かが奇跡をちょろまかした尻ぬぐいしてるってことかよ」


 炎の獅子は先ほどより高らかに、炎を吐き出して四人につめよる。ユエインの魔術で炎を無効化するのが精いっぱいで、熱気が四人の頬をなぶる。


「ちょろまかすどころじゃない奴がいるから、こんな目にあってるんだろうな」

「とにかく、元を絶たないとどうしようもない、ってことかぁ?」

「それどころか、あの4人消して!て言われたら消えちゃうよ!」

「二手に分かれるしかなさそうですね。」


誰が決めるわけでもなく、スカイはリウイと、ユエはアッシュを組んむこととなった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アウトローズ・クエストー異端者達が母なる神を殺すまでー おがわはるか @halka69

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ